相続・贈与・信託・遺言

2025年2月 1日 (土)

自社の株式の評価が高い!

最近、顧問先の社長さんから、自社の株式の評価が高くなりすぎてどうしたら良いかという相談が増えてきた。自社株式の評価とは非上場の経営者一族が保有する株式の評価のことをいう。周知のように会社の株式には上場株式と非上場株式があり、上場株式は証券市場で株価が決まる。それに対して日本の中小企業の99.9%が発行している非上場株式は、特別な方法で、かつ複雑に計算をしなければならない。社歴の長い会社や業績の良い会社ほどその結果の数値を見て驚く。何故なら非上場会社の株価は、その多くは内部留保を加味しながら計算するからだ。そのため業績の良い会社ほど自社の株式の評価額は高くなる。額面の10倍から20倍になるケースが珍しくない。顧問先ではなかったが、私が相談された中には100倍近くになった会社もあった。その結果を見て呆然とする社長に、「社長の会社は優良企業ということの証ですよ。会社は利益を出すことが一番ですから。まずは慌てず一緒に対策を考えていきましょう。」と話したことを覚えている。

一概には言えないが、順調に利益を積み上げてきた会社には、しっかり後継者も育っているケースが多い。事業承継は自社株の引継ぎなしではできない。その後継者に社長が所有する自社の株式をいかにコストを抑えて渡すかが課題になる。一時的に株価の評価を引き下げて、そのタイミングで一気に後継者に渡すかあるいは、毎年少しずつ贈与するか、又は、事業承継税制を活用するかなどの方法が考えられる。しかし、ここで上手に事業承継するには忘れてはならないことがもう一つある。

参考に、まずは日本の老舗企業に目を向けて見よう。統計には、ばらつきがあるが、日本には5万社から10万社の創業100年以上の老舗企業がある。世界の約半分の老舗企業が日本に集中していると言われている。日本だけに老舗企業が集中している理由はいろいろあるが、ひとつに古くからある家督を継ぐという考え方が根底にあると考える。戦前約50年続いた日本の旧民法の「家制度」では、この考えが法制度化されたわけだ。「家制度」では家長となる長男がすべての財産を受け継ぎ、家族全員の生活を見る責任を負う。そして長男が家を継ぎ親の面倒をみるが、家の財産も受け継ぐというものだ。そこには他の兄弟から財産分けを主張されるような余地は当然なかった。家族は家長を中心に仲良く一丸となって家業にいそしむ。そのため家の財産の分散が避けられ、長男は家業を継ぎ、継続することができたのだ。それに対して戦後の新民法では法定相続分が定められ、しかも遺留分の制度も盛り込まれた。会社を継がない他の相続人に遺留分の請求をされ、もし現金がなければ「自社株」を分けざるを得ない形になる。結果、経営権が揺らぎ、経営の危機になることもある。現代の事業承継はこの点の対策を立てないと事業の継続が難しいのが現実だ。これは代々農業等を続けてきた土地持ちの方にも共通する悩みだ。対策として当主は後継者以外の遺留分にもしっかり配慮した遺言書を作っておくのが一番大事だ。

また事業承継税制を活用する場合は、「除外合意」という方法で遺留分請求対象から自社株を外しておかなければならない。株価を一時的に引き下げただけでは片手落ちであることを経営者の皆さんにはしっかり知っておいていただきたい。早いものです。今年ももう一か月が過ぎました。時が過ぎるのは早いです。一日も早い着手をお願いします。

2025年1月 1日 (水)

新年おめでとうございます。今年も「事業承継対策」を大きく前進させましょう。

新年おめでとうございます。

いよいよ2025年が始まりましたね。

今年の皆さんの目標は決まりましたか?当事務所では年初ミーティングにスタッフ各人から今年の目標を提出してもらっています。

当社の経営理念の一つに「職務を通じて自己の成長に本気で取り組む」を掲げています。

ですから業務を通じて少しでも自分の成長が感じ取れるような目標を掲げてほしいと常に話しています。

私個人は今年も関与先様のスムーズな事業承継の支援をしながら自分も成長していきたいと考えています。

 中小企業の事業承継はこの10年間がさらに正念場です。

なぜなら第一次ベビーブームに生まれた人たちが、本年一斉に後期高齢者となる75歳を迎えるからです。

最近ではM&Aも急激に増えてきました。国内のM&A仲介業者も約300社に上り、不祥事も多発しています。

とことん寄り添って、よい相手を探してくれるところもあれば、とにかく成約させれば後のことは知らないという業者までおり、まさしく玉石混交です。

希望に合わない内容なのに高額な報酬だけ払わされ、後で後悔しても後の祭りです。

そうならないようにしっかりした良心的な仲介会社を選択し用心を重ねて取り組まなければなりません。

 親族に後継者がいる場合は、まずそのことだけでも大いに感謝しなければなりません。

それは後継者がいるということだけで恵まれているからです。

後継者がいる場合には、いかに上手に経営権を引き継ぐかが重要です。

経営理念、社内組織、取引先を中心とした利害関係者、未来計画、自社株を中心とした事業用財産をバランス良く引継げるかが勝負となってきます。

とても社長一人が片手間でできることではありません。

そのような時こそ我々がしっかりと伴奏支援して行きたいと思います。

財産の引継ぎの中で大きな要素を占めるのが自社株です。

非上場株は市場で流通していませんので、現金化が難しく、相続時に額面10倍から30倍で評価されるケースも珍しくありません。

そのままにしておくと先代の相続時に多額の相続税が課せられ後継者がスムーズに引き継ぐことができなくなることもあります。

余談ですが上場企業のオーナー社長でも油断はできません。

毎日の取引高の少ない会社では、一度に市場で現金化すると、株価の急落を招いて他の株主の不安をあおり、信用が失墜してしまう恐れがあるからです。

 経営者の皆さんの財産を見させていただくと優良企業になればなるほど経営者個人の財産のうち全体の約80%は自社の株式という方が多いのに驚きます。

経営者個人の相続対策は自社株式をいかに調理するかで決まってくると言っても過言ではないでしょう。

紙面の都合上次回に自社株問題を書かせていただきます。

 経営者の皆様、そのご家族、社員の皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。今年もよろしく願いします。

 

2024年12月 1日 (日)

常に未来を見つめながら攻め続けることが運を呼ぶ!

「経営者にとって一番大事なことは、会社を潰さないことだ。」は誰に聞いても異論はないようだ。

確かに会社は良く潰れる。起業した会社が20年で半分になり、40年でその半分になる。50年を超える会社は珍しいくらいだ。

創業100年以上が「老舗」と呼ばれているが、わが国では5万社から10万社存在すると言われる。

約250万社の会社がある中での10万社だからすごいことだと思う。

今月我社も創業40周年ということで塩釜市長、塩釜商工会議所会頭から表彰状と玉虫塗(1933年創業の東北工芸製作所製造)の盾を頂いた。

早速、事務所の玄関に飾らせてもらった。表彰式には浦霞醸造元の㈱佐浦社長も参加されていた。驚くことに創業300年ということだ。ほんとに素晴らしいことだと感動した。経営者は皆同じだと思うが、私も振り返ると駆け足の40年だった。

珍しい域に入るにはあと10年。身を引き締めて頑張らねばと思った。

経営者ならだれでも、自社の存続・発展を願い、必死で経営を続けている。それでも予想していないことが日夜生じるのが経営だ。その時、どう対処するかが社長の手腕にかかっている。例えば自社の有力取引先の倒産だ。

当然、自社は多額の売掛金が回収不能に陥ってしまう。そこで金融機関との付き合いが非常に大事になる。私も先日とある銀行さんから「先生の会社は、当行からの借入金がまったくありませんね。」と言われハッとした。

金融機関からは、ある程度の借入をして継続しておくと、いざという時に助けてもらいやすくなる。特に日本政策金融公庫からの借入金はできるだけ継続して借り続けた方が良い。少々業績が落ち込んでいてもいざという時にスムーズに貸してもらいやすい。

無借金経営は経営者にとって理想ではあるが、金融機関としては、借入を全くしない会社より、借入をして、きちんと返済できる会社の方を評価するようだ。

決算書では、経常利益が出ていることが望ましいことは勿論だが、金融機関は貸借対照表の自己資本すなわち純資産を重視する。まずは、最低でも自己資本比率30%以上(時価で)は確保したい。

最後に、経営者は孤独であり、相談相手もいないことが多い。決断を迫られた時は、身近にいる税理士、弁護士などの士業や金融機関についつい相談してしまうものだろう。

しかしそれらの話は参考程度にしてほしい。相談相手は誰も経営をしたことがないのだ。彼らには経営者が資金繰りに厳しい時の気持ち、新規事業に投資するときの覚悟、危機を乗り切った時の醍醐味、期待していた社員に辞められた時の気持ち、いくら頑張っても売り上げが上がらない時の焦燥感など分かりようもないからだ。

私は事務所を開業した時、少しでも経営者の気持ちを理解できるようになりたいと思った。事業といえる組織の最小単位と思われる30人規模を目指したのはそのような理由からだ。

一般に、士業は過去の整理を得意とする人種であり、経営者は常に未来を見ている人種とその立ち位置は大きく異なる。

私はその意味で経営者と一緒に未来を見ながら伴走できる事務所をこれからも目指していきたいと考えている。

経営者の皆さん一緒に頑張りましょう。

2024年11月 1日 (金)

「相続時精算課税制度」の活用

先日ある不動産セミナーに参加した時のことです。

講師が「私なんかは祖父、祖母、父親、母親から毎年110万円ずつ贈与してもらっているのですよ。

110万円までは贈与税がかからないので、その最大限の活用です・・・・・」と話された。

私は驚き、セミナー終了後、講師に「暦年贈与はもらった人の一年分の合計金額が110万円まで非課税ということで、贈与した人ごとに110万円の非課税枠があるのではないですよ。あなたの場合ですと395,000円の贈与税がかかりますよ」と注意を促しました。

広く一般に定着した制度でも大きな誤解をしている人がいるので、注意が必要です。

さて、もしそのセミナー講師が相続時精算課税を選択したとするとどうなるのでしょうか?

相続時精算課税を選択するかどうかは、もらう人が決めます。

贈与を受けた翌年申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出すれば、手続きは完了です。

しかし、ここで注意しなければならないのは、この選択を一度してしまうと贈与者の死亡まで変えることはできないということです。

慎重に選択すべきであることを付け加えておきます。

では、この講師が今年(令和6年)4人から110万円ずつ贈与を受けたとしたらどうでしょうか?

相続時精算課税制度では贈与者一人ごとに2500万円ずつの非課税枠がありますので、その時点での贈与税は当然かかりません。

それでは、その4人それぞれの非課税枠2500万円をすべて使い切った後に110万円ずつ4人から贈与を受けた場合はどうでしょうか?昨年までは、2500万円を超えた部分に単純に20%の課税で、88万円(22万×4人)の税金ですが、令和6年から相続時精算課税制度にも毎年110万円の基礎控除が新設されたので、注意が必要です。

新設された相続時精算課税制度の基礎控除110万円は暦年贈与と同様に、贈与者が何人いようと受贈者一人につき、年間110万円が限度です。

上記のように4人から相続時精算課税で贈与を受けた場合は、受贈財産の割合で110万円をそれぞれ按分することになります。この場合だと贈与税の総額は66万円(16.5万円×4人)となります。

また、先日、ある人が「昔、相続時精算課税を活用して長男に2500万円まで自社株を贈与しましたので、もうこれ以上贈与すると税金がかかると思い、そのままですが・・・。」と話していた方がおりました。

今年の改正で新しくできた110万円基礎控除は以前に届け出を済ませ、すでに2500万円使い切った方にも使えます。

更に相続時精算課税制度での110万円基礎控除は、暦年贈与と違い、相続時に持ち戻す必要は一切なく、申告もいらないという画期的なものです。

贈与税を払うのが嫌なら毎年110万円の贈与を考えて見てはいかがでしょうか?

相続時精算課税制度を活用した110万円の贈与ならば、万が一7年以内に贈与者に相続があっても、その贈与の持ち戻しはありません。

大変有効な相続対策になるのではないでしょうか? 

 

2024年10月 1日 (火)

よくある相続対策・・落とし穴

1.生前贈与

やり方を間違えると名義預金になってしまうので、注意が必要だ。贈与は、もらった人が自由に処分できる状態でなければ成立しない。

子供や孫に贈与する場合は、贈与者が普段使っている通帳から受贈者が普段使っている通帳に振り込む方法が、一番明瞭な方法だ。

「エッ、そんなことしたら無駄遣いされてしまうでしょう。」と言って、自分で子供や孫名義の通帳と印鑑を管理している人がいるが、それは「名義預金」とされて贈与とは認められない。

もし無駄遣いが心配なら保険という形で贈与する方法がある。子供に保険を掛けてあげて、保険料を毎年贈与してあげる方法だ。将来の満期金は子供が受け取ることになる。

そうすれば、無駄遣いは心配しなくて良いのではないだろうか。

2.生命保険の受取人

生命保険の受取人は配偶者にしない方が良い。

配偶者には大きな非課税枠があるので、納税資金は、他の相続人のように必要ないからだ。

また、受取人を法定相続人でない孫にもしない方が良い。

法定相続人でない孫を受取人にすると、非課税枠もないし、さらに相続税が2割加算になるからだ。

これは法定相続人でない人が受取人の場合は同じく課税されるから注意が必要だ。

3.孫を養子にするときには注意!

孫を養子にするのは相続税対策として昔からよく使われてきた対策だ。

しかし、できるだけ避けた方が良い。と言うのも、後日、相続人間で人間関係が悪くなるケースが多いからだ。

例えば、父親が被相続人で、兄と弟が相続人の場合に、相続対策で兄の長男を父親の養子にしたが、子供のいない弟には何も話していなかったとする。

将来、父親が亡くなり、いざ相続の手続きに入って初めて知った場合には、弟の心境はいかがだろうか。

察して余りあるところだ。もしどうしてもする場合は、する前にもう一人の相続人である弟に相談してからにした方が良い。そうすれば後日の争いはぐっと減るだろう。

4.建物を相続時精算課税で贈与してはいけない

相続精算課税は贈与した時点での評価額で相続の時に持ち戻されるからだ。

建物は、年々評価が下がっていくものと考えると・・・。

すなわち間違いなく将来価値が下がると思われるものは、相続時精算課税で贈与してはならない。

 

以上、思いつくままに相続対策の注意点を書いて見た。箇条書きでわかりやすく書いたつもりだが、いかがだっただろうか?ご相談のある方は、いつでも気軽に申し付けください。

2024年9月 1日 (日)

貸借対照表の重要性

「我社に一人でも貸借対照表が読める社員がいたらこんなことにはならなかった。」とは、1996年に、負債総額220億円で倒産した株式会社佐藤工務店の佐藤社長の話です。倒産する5年前には年商350億円、経常利益率10.8%、社員数4500人という会社でした。

20年前にもエッセイで書かせていただいたので、ご記憶のある方もいらっしゃるかもしれませんね。

当時法人会で主催したセミナーで、私は、上記の言葉をセミナー講師の佐藤社長ご本人から直接聞き、驚いたことを今でも忘れません。

それからことあるごとに、佐藤社長のようにならないように、当社のスタッフや顧問先さんに貸借対照表の重要性を話してきました。

何年かしてこの話題をいつものように、当社の顧問先の若手社長に話したところ、その社長からは「そんな甘いことを言っているからその社長は会社つぶしたのですよ。

大体社長だったら自分で勉強して貸借対照表を読めるようにしておかなければダメでしょ!それをそんな事態になっても社員のせいにしているなんて話にもなりませんね。」と、強い口調で返されました。

私は貸借対照表の重要性を伝えようとしてその話題を出しただけなのですが、どうやらその若手社長の経営者魂を刺激してしまったようでした。

そしてこの社長は3代目だけどしっかり会社を守っていく社長だなと安心しました。余談ですが、私の予想通り、会社は増収増益を続け順調に成長し続けています。

しかし、経営は生き物です。外部環境の変化で何が起こるか誰にも予想できません。

だからこそ自己資本を充実させておくことが重要なのです。

そのため私は口を酸っぱくして開業当初から自己資本比率は、最低40%以上を目指してほしいと言い続けてきました。

前述の佐藤社長も「もし我社に貸借対照表が読める社員が一人でもいたら、5年後には自己資本比率を40%にするというような目標を立てていただろう。

そうすれば、高級車やヨットなど無駄な買い物もしなかっただろう。

節税と言う名の無駄遣いをしたことが財務体質を弱めた。」と話されていました。

佐藤工務店は、利益がでても節税という名目で必要ないものまで購入していたため、内部留保が積み上がらなかったのです。

「一番の節税は税金を払うことだ。」とある方が話していましたが、法人税の実効税率が約30%の現在では確かに無駄な節税対策をして現金を流出させるより、税金を払って残りを内部留保させた方が自己資本比率の向上になり、会社の財務基盤をより強固なものにすることができます。

しかし、そのように利益が出た時こそ、未来の利益を確保するための設備投資や人材投資に先行投資することを忘れてはなりません。

現在の内部留保は当然大事ですが、将来も更に内部留保を高める種まきを今のうちからしていきましょう。

2024年7月 1日 (月)

私のアルバイトの思い出

顧問先の社長さん方も若いころは様々なアルバイトをされた経験をお持ちかと思います。私も若いころから様々な業種のアルバイトをしてきました。不謹慎な話ですが、アルバイト中は何度も時計を眺め終了時間が来るのをひたすら待ちわびたものでした。それはどんな仕事でも同様でした。ただ塾の先生のアルバイトをした時だけは、時間も気にせず夢中になって取り組んでいたことを覚えています。それにはこんな理由がありました。私が世話になった塾の塾長はとても魅力的な方で、私のようなアルバイト学生にまで、塾を作った塾長の思いや、生徒に対する思いを切々といつも語ってくれる方でした。また塾は優秀な生徒よりも、いわゆる落ちこぼれと言われる生徒に力を入れており、塾長は時間外も家庭訪問までして親御さんに会いに行ったり、生徒を休みの日に自腹で、遠足や美術館に連れて行ったりしていました。日頃から思いを聞き、実際に努力する塾長の姿を目の当たりにしていた私は、少しでもそんな塾長の思いを達成できるようにお手伝いをしたいと心から思いました。アルバイトとは言え、一生懸命になれたのは、そういうことがあったからだと思います。

アルバイトと言うと、比較的単純作業が多いですから、指示する側も機械的に、指示してしまうのが一般的です。アルバイトをする側も時間で割り切ってその分だけ部品のように働くというのが当たり前かもしれません。しかし、業務内容は単純でもその仕事をしてくれる人が居なければ、会社は回りません。やはり、会社の基本姿勢と目指すべきところを話し、その実現のためにたとえ単純作業と言えども、我社にとっては、なくてはならない重要な業務の一役を担ってもらっているのだと言うことを説明してほしいと思います。そうすれば人材次第ではブックオフさんのようにパートさんから社長が生まれることもありえるのだと思います。

我社がどこに行こうとしているのか?我社の5年後、10年後はどのような会社になることを目指しているのだろうか?そのために今我々社員がすべきことは何なのか?心ある社員なら知りたがっているはずです。その思いに答えるためには、社長ははっきりと将来の姿を社員に示せるように日頃から考え、明確な経営計画書を作っておかなければなりません。経営計画書を作成することは、社長がしなければならない3大業務の一つです。使命と言ってもいいでしょう。計画を立てずに経営をすることは、羅針盤を持たずに航海する船と一緒です。我社の5年後、10年後はどのような事業の取り組み方をしているか。その時会社の規模はいくらぐらいにするか。その時の社員の待遇はどうするのか。それらのことを明確に社員に示せない限り、やる気のある社員も動きようがありません。

どんなにオールマイティな社長でも、一人でできることは限りがあります。社員の協力なくして目標は実現できません。会社をリードするのは社長ですが、実践は何と言っても組織力がものを言います。会社を大きくしてきた社長は、会社を大きくする秘訣は組織力でしかないと異口同音に話しています。人材不足と騒がれていますが、良い人材を確保し、また、良い人材になってもらえるように、社長の仕事をしましょう。

2024年6月 1日 (土)

奥様の「へそくり」に相続税が・・?

 2015年の相続税改正で基礎控除が40%減らされてから、相続税の申告をしなければならない方が増えています。最近は、死亡者の約1割近くの方に申告義務が生じているようです。私の事務所にも相続税がかかるのではないかと心配して相談してくる方が増えています。先日も相続税の申告の相談を受けてざっと資料を拝見したところ、どうやら基礎控除以下なので申告は必要ないなと考えましたが、これまでの経験から、念のため亡くなった被相続人の奥様の通帳も見せてもらいました。すると「えっこれは・・・・」という金額が目に飛び込んできました。専業主婦の奥様名義の通帳に3000万円が預けられていたのです。奥様に尋ねると、ご主人は、生前、奥様に生活費として毎月の給料をすべて預け、その管理を任せ、自分は毎月決まった額を小遣いとしてもらっていたそうです。奥様はやりくり上手で、無駄使いをせずにコツコツといわゆる「へそくり」をしてきたのです。さらに奥様は純粋に、そのへそくりを自分のものと思われているのです。ですがこの場合、結論から言うと、亡くなったご主人の名義預金として相続税の課税対象になるのです。

 「えっそんな馬鹿な・・・」と誰でも思われると思います。しかし、これまでの税務訴訟で争われた事件の判決や裁決の中で示された名義預金の帰属の判定要素は下記の通りですから上記の場合は、奥様名義の預金もご主人の名義預金として申告せざるを得ません。

すなわち、①誰が稼いだ?②誰が管理・運用者していた?③誰が利益を受け取った?④なぜ名義人が異なる?⑤名義人と所有者の関係は?を総合的に判断されます。今回、取り上げた事例の場合は、ご主人が稼いだお金を自分名義にしていたのですから、明らかに名義預金としてご主人の相続財産に加えなければなりません。

 さて、難しい理屈はさておき、名義預金とされないためには、まずどうしたら良いかということが大事ですね。実行しなければならないことは簡単です。家族のお金が混ざらないように、稼いだ人と預貯金の名義人を合わせることです。たとえ家族であってもご主人が稼いだお金はご主人の口座に入れて、奥様が稼いだお金は奥様名義の口座に入れるのです。これが基本となります。「そんなこと言っても、妻が全部管理しているから・・・。」勿論生活費はどちらのお金でも問題はありません。残ったお金が問題なのです。残ったお金はご主人名義の通帳に戻す必要があります。「残ったお金は自由にしていいよ」とご主人から言われているから問題ないでしょうと言われる方がいますが、そのままではその残金は勿論名義預金としてご主人の相続財産になります。その場合は、夫婦間でもしっかりと「贈与契約書」を作成しておきましょう。・・口頭でも贈与契約は成立しますが、相続の調査の時に、ご主人はすでに亡くなっていますので、証明が難しいからです。そして110万円を超える場合は、贈与税の申告も済ませておきましょう。そうすれば後日「名義預金」として課税されることもないでしょう。奥様・・くれぐれも「へそくり」にはご用心ください。

2024年5月 1日 (水)

家族信託の活用

 当事務所では10年程前からこの「家族信託」に取り組んできたが、ここ数年でやっと周りにも浸透し始めた感がある。「家族信託契約」とは、家族に財産を信託して管理してもらうことで、受託者が親族で受けることが多いため「家族信託」と言われる。例えば下図のように委託者が父親で、受託者が長男、受益者は父親が健在のうちは父親で、死亡した際の次の受益者を指定しておくというものだ。この場合、信託契約を終了させることもできるが、指定された次の受益者で信託を継続していくことも可能だ。それに対して「商事信託」とは、信託会社や信託銀行に財産を託して管理してもらう形だ。信託会社や信託銀行は、営利を目的にするため、報酬も当然発生する。

 家族信託で一番多い活用法は、「認知症対策」である。認知症になると、遺言や不動産取引、相続税対策などが一切できなくなる。もちろん銀行口座も凍結され(家族が施設費用を引き出すなどに限り一部引き出しが認められつつあるが、資金使途の証拠資料を提出しなければならず手続きが面倒だ。)やむなく成年後見人を立てざるを得ないが、成年後見人は本人の財産の保護が目的なので、施設の費用を引き出すことはできるが、相続対策のためにアパートを建てることなどの行為は本人の財産を減らすことになるので出来ない。

 それに対し、信託にしておけば、自宅(自宅を信託しても権利として当然住み続けることはできる。)、アパートの建築や大規模修理や場合によっては売却までも受託者が実行することができる。

 この「家族信託」だが、当然のことながら家族に信頼して財産を託せる人がいないと成立しない。勿論この場合親族でなくて信頼している友人でも構わないが、現実には難しいと考える。ただ事業オーナーの場合には、自社の別法人(一般社団法人・不動産管理法人など)を受託者として、更に信託監督人を選任しておく方法を活用して信託契約する方法がある。その場合の信託契約も委託者(父親)と受託者(別法人)の間の信託契約はできるだけシンプルな形にして、信託監督人には事例の取り扱いが多い税理士、司法書士へ頼み、しっかり公正証書にしておく形を勧める。自分でできないこともないが、色々と落とし穴があるので、注意が必要だからだ。皆さんの早い決断を祈ります。

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2024年4月 1日 (月)

遺言について

 コストもかからず、すぐに取り組めるのが自分で遺言を書くことだ。(自筆証書遺言)通常は、白紙の用紙にボールペンか筆で書く。ただし、この自筆証書遺言だが、本文のすべて、署名、日付は必ず自筆で書き押印しないと無効になる恐れがある。何通か私も自筆証書遺言書を預かっているが、預けた人の中には、私より若い人もいて、その人に何かあった時に責任を果たせるかどうか気が気でならなかった。そんな時、2020年に自筆証書遺言の法務局保管制度が始まり、早速、私の手から法務局に預け替えしてもらうようにし、肩の荷を下ろした。法務局では、預ける時に最低限の形式的要件を満たしているかどうかの確認もしてもらえ、費用も格安なことから、すでに20241月までに67000件を超える保管申請があったようだ。家庭裁判所での検認も不要ということで、使い勝手が良いが、公正証書遺言と異なり、遺言の内容についての有効性までは保証されていない。

 また、自筆でしっかり遺言書を書いていても、自分に不利な内容を書かれた相続人の中には「本当に親が書いたものか」「親の本心ではないのでは」とか疑う人もいる。そこで出来ればこっそり書かないで、生前会議のようなものを開いて相続人に自分の意向を伝えておくのが良いと思う。また法的には弱いものの、遺言書の付言事項に自分の思いを書いておくことも後日の争いを最小限に抑えるのには効果が大きい。遺言漏れをなくすために、「残りのすべての財産は・・・」の文言を忘れずに遺言の中に入れておく必要がある。もし漏れていた場合には、その財産について相続人の間の遺産分割協議になり、まとまらないことが多いからだ。私は、出来れば少しコストがかかるが、公証人役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」をすることを勧めている。それは、せっかく残した遺言が無効になることがないからだ。そして、「自筆証書遺言」でも「公正証書遺言」でも最後に遺言執行者を指定しておくことを付け加えておく。

 私が永年にわたり、顧問させていただいた会社の会長が数年前に、長寿を全うされ、亡くなった。実はこの会長には何十年にもわたり、遺言を勧め、本人もその必要性を十分に理解し、何度も遺言を書こうとしたが書けないまま亡くなった。これは世間にはよくあるケースかも知れない。通常の場合は、相続人よる遺産分割協議が進まず、申告も未分割でせざるを得ないことが多々ある。しかし、この会長の場合は相続人の間で揉めることもなくスムーズに手続きは進み、申告も終了した。何故なら、何度挑戦しても遺言が書けない会長に私は「家族信託」を勧め、会長もそれならできそうだということになり、会長の資産をすべて盛り込んだ「家族信託契約」を締結していたのだ。当初の委託者は、当然会長、受託者はグループの資産管理をしている別会社、受益者は会長だ。死亡後の委託者、受益者を指定していたため、相続財産の移行がスムーズに進んだ。預金を信託にして預けていたので預金口座も凍結されず日常業務が停滞しなかった。不動産の名義も受益者の変更の登記なので、登録免許税も格安で済み、相続後の名義変更等の手続きのコストが抑えられた。そのようなことから次回は、「遺言」以上の強力な効果のある「家族信託」について書きたいと思う。

 

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