相続・贈与・信託・遺言

2020年2月 5日 (水)

「配偶者居住権」が今年4月から施行!

平成30713日に民法の相続分野が、約40年ぶりに改正され、公布されました。施行は、この公布日から2年以内の政令の定める日からとなっており、順次施行されてきました。平成31113日の「自筆証書遺言の方式緩和」、令和元年71日には「遺産分割の見直し(配偶者間の居住用不動産贈与の持ち戻し免除の推定・仮払い制度の創設)「遺留分制度の見直し」「特別寄与制度の創設」が施行された。

 

「配偶者居住権」とは?

令和24月からはいよいよ「配偶者居住権」が施行されます。「配偶者居住権」とは、被相続人の持ち家に住んでいた配偶者が、被相続人が亡くなった後、その家を相続しなくても、自分が亡くなるまで無償で住み続けることができる権利で、遺贈、遺産分割協議、審判手続きで配偶者居住権が認められた時に取得することが出来ます。それに対し、「配偶者短期居住権」というものもあり、こちらは、被相続人の建物に居住していた配偶者なら、何の条件もなく遺産分割完了あるいは6ヶ月間のいずれか遅い日まで、無償で住み続けることができるというものです。

この制度は、ちょっと揉めそうな家族関係で活用されるのを前提にされているように思います。普通の家族関係では無理にこの制度を使う場面が想定できないからです。何故なら、このような場合も仲の良い親子なら法定相続分にこだわらず、お母さんに現金を渡すこともできるからです。いずれお母さんの相続で自分にまわってくるという考えもあります。先妻の子は、養子縁組でもしていない限り、今回の相続で終わりですから、シビアにならざるを得ないのかもしれません。例えば、自宅(2000万円)と預貯金(2000万円)が相続財産と仮定します。相続人は、2人で1人は、現在の妻でもう一人は先妻の子というケースです。妻は今後の生活もあるので、住み慣れた自宅は、どうしても必要です。そこで、遺産分割協議により、法定相続分通りにししようということになり、めでたく自宅を相続することになりましたが、自宅だけで法定相続分になってしまい、現金は相続できないことになります。妻は老後の生活費として、どうしても現金も必要です。そのような場合に、今回の「配偶者居住権」(所有権はないが、終生住み続ける権利がある。)が効果を発揮します。配偶者居住権の評価は、家全体の評価より低くなります(評価は配偶者の相続時の年齢によって変わります。)から、法定相続分の中で、現金を受け取ることもできることになるからです。結果、妻は住み続ける権利と老後の生活資金も確保できることになります。

 次回は「配偶者居住権は節税に効果あるのか?」ついて説明したいと思います。

 

 

2020124日 著者 税理士    千葉 和彦

 

2019年12月 4日 (水)

子供に相続権があるなんておかしい!

 先日、弁護士、公認会計士、税理士の資格を持ち、若い時に会計事務所にも勤務していたことがあるという先生のセミナーを受講した。先生は、開口一番「だいたい子供に相続権があるなんておかしいと思う。」と言い放った。私も戦後に改正された民法の法定相続制度には納得がいかなかったので、通じるところがあった。父が死亡した場合、残された母の面倒をみながら、家を守る子供以外の子供が相続権を持つから揉め事が絶えなくなったのだと思う。とっくに他家へ嫁いだ妹の旦那までが出てきてあれやこれやという場面にも何度か直面し、不快な思いをしたのも一度や二度ではない。先生曰く、「子供たちが、親の資産形成に何か協力しましたか?子供は費消してきただけではないですか?資産形成に協力してきたのは配偶者だけではないですか?(後妻等で何らその資産形成には協力してこなかった方もいますが・・。)そのことから離婚する場合は、妻は婚姻後に増加した財産の半分の取り分を持つのです。妻の法定相続分が2分の1では、妻は自分の取り分を取り戻すだけです。」と。

 5年前に相続税の基礎控除が引き下げられてから、少しだけ相続税を納める方が増えた。従って、相続税の申告が必要な者は、過去死亡者の4%から8%に申告者が倍増したと言われている。私が考えるに、それは法定相続分で申告しているからではないだろうか?妻が全部相続すれば、配偶者の非課税枠が使えて相続税は0になるはずである。住まいに小規模宅地の評価減を活用すれば、税金はかからないケースがほとんどだからだ。相続人が納得すれば、どのように分割しても自由なのだから、まずは、配偶者へ相続させるべきではないだろうか。ただし遺産総額5億円超の死亡者の0.7%の人たちには別途対策が必要なことは言うまでもない。

 今回の民法改正で「配偶者居住権」というものが新たに創設された。この制度は、居住用財産の所有権を相続しなくても居住し続けることができる権利で、所有権と居住権を分離したことにより、遺産分割をする際の選択肢を広げたものだ。しかし、遺産分割協議は必ずしも法定相続分で分ける必要がないので、わざわざこのような制度を活用しなくても良いケースも多いと思う。その上、新しく創設された「配偶者居住権」は、まだまだ不明点が多いのも事実だ。例えば、配偶者の自立生活が難しくなり、介護老人ホームへの入居が必要になった場合には、介護老人ホーム入居後の居宅は、空家として放置するようになるのか?換金しようと思っても、配偶者居住権が設定されている土地建物では換金もできないのではないのではないか。又は土地を所有する者が事業資金を借用する場合に担保価値が認められないので、担保として活用もできないのではないか・・などである。そのため、この制度の活用は慎重にしていきたいと思う。

2019年11月28日  著 者   税理士 千葉 和彦

2019年10月 1日 (火)

共有名義の不動産は、早めの対策を!

   不動産の「共有」は遺産分割において避けた方が良いと言われています。「共有」とは、一つの土地などを複数人で所有している状態をいいます。私も実務で多くの困ったケースを見てきました。土地を兄弟2人で相続して、仲良く駐車場として活用していたケースですが、その後その兄弟二人にも相続が発生して、6人の共有になってしまいました。条件の良い売却の話がありましたが、共有者の中に反対するものがいて売却できませんでした。その後その土地の上に商業施設を建てて貸すという話が持ち上がりましたが、それも全員の賛成を得ることはできませんでした。
 もうお分かりかと思いますが、「共有」の場合、一人でも反対するものがいると売却(持分売却はできますが、第三者が買う場合は、全員の持分を購入できなければ意味がないので、現実的ではありません。考えられるのは、他の持分所有者が購入する場合だけです。)も有効活用もできません。しかも厄介なのは、共有者の相続で、共有者がどんどん増えていくことです。そのため早い段階で共有を解消しなければなりません。対策としては、下記のことが考えられます。

①  共有物を分割(具体的には分筆)し、各々の持分に応じて登記し、単独所有にする。
   この場合、同面積で分割しても、土地の位置・形状等で、分割前と同じ価格になるとは限りませんので、同じ価格比になるように注意が必要です。また共有者と連絡が取れないような場合は、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起し、裁定により共有名義を解消することもできます。

②  共有持分を贈与、売却する。
  通常いずれも他の共有者が対象になるケースが多い。売却の場合、譲渡所得税がかかる。贈与の場合は、相手側に贈与税がかかるので、注意が必要です。

③ 共有持分の交換
   互いに共有している2つの土地がある場合、自ら所有する土地の共有持分と、他者が所有する土地の共有持分を交換することにより、各々の土地を単独所有とすることができます。この場合も交換する不動産に価格差が生じないように注意が必要です。

   最後に共有持ち分の解消がすぐにできない場合は、信託の活用を提案します。例えばアパートなどを相続し、共有になっている場合など、信託を活用すると、賃貸、管理、修繕、売却など共有者の意向に関係なく、受託者の判断でできます。委託者、受益者はスタート時点で同じに設定することになりますが、信託契約で第二次受益者を決めておくことなどで、共有解消にも威力を発揮することになります。ぜひ検討されてみてはいかがでしょうか。

 

2019年930日 著 者  税理士   千葉 和彦

2019年3月 5日 (火)

民法改正で相続のココが変わる!

   民法の相続分野が、昨年7月6日に約40年ぶりに抜本改正された。今改正の大きな目的は、配偶者への配慮、遺言制度の簡便化、遺留分制度の見直し、特別寄与者制度の創設だ。紙面の関係で今年の1月13日にすでに施行になっている遺言書制度の簡素化について今回は述べていきたい。

*遺言制度の簡便化

① 自筆証書遺言の方式緩和(2019年1月13日施行)

従来の一字一句自筆でなければ無効という方式から、改正後は自筆証書の内容である本文自体は手書きする必要があるが、目録等は印字した紙面の1枚ずつに署名・押印すれば有効になった。このことで、長文の手書きが難しい高齢者にとっても書きやすくなった。

② 自筆証書遺言の公的保管制度(2020年7月10日施行)

封をしていない自筆証書遺言を法務局で保管する制度が整備された。この制度は本人が法務局に、その遺言書を持参し、本人確認を受けた後、法務局がデータ化して保管するというものだ。

 

 自筆証書遺言はコストがかからず、気軽に書けるところが一番の長所だ。しかし、改正前までは、遺言全文、署名、日付の全てを自ら手書きする必要があり、目録等まで自書しなければ無効になってしまっていた。実際に、目録をタイプライターで作成したために無効になった古い最高裁判例もある。しかし、今改正の②のように、この自筆証書遺言書を法務局に預けることができれば、法務局側では、厳格な本人確認と様式の不備がないかを確認してから預かるようになるから、様式の不備等で無効となったり、遺言書が偽造であるという紛争は避けられると思う。さらに法務局に保管された自筆証書遺言については、家庭裁判所の検認手続きが除外されるので、この面からも公正証書に引けを取らないのではないかと思う。

   今までは、せっかく書いた遺言書が無効になったり、見つけられなかったり、破棄されたり、偽造ではないかと訴えられたりなどの紛争が多かったが、今回の改正遺言書は、かなり使い勝手の良いものになる。しかも、コストも公正証書遺言と比較してかなり低くなるからうれしい限りだ。ただ、この自筆証書遺言書は自分の足で法務局に持っていかなければならないので、自分が動けるうちに実行する必要がある。

   ただ、どの方式の遺言書でも共通して気を付けなければならない点がある。それは各相続人の遺留分を配慮することである。せっかく遺言があっても、遺留分を侵す内容になっていることが原因で紛争になっていることがあるからだ。どうしても遺留分以下になる相続人がいたら、法的効力はないものの、遺言者の思いを伝える「付言事項」を書いてもらいたいと思う。そのことで実際、紛争が避けられたことも数多くあるからだ。皆様のご健闘祈ります。

 

2019年2月27日  著者  税理士   千葉 和彦

2019年2月 5日 (火)

会社設立から15年で上場!

  昨年から一般社団法人日本中小企業経営支援専門家協会(略してJPBM以後この名称を使用する。)という長い名称の団体の理事に就任した。

 

このJPBMの前身は、1986年に事業承継問題に関心を持つ税理士が集結して設立された「日本事業承継コンサルタント協会」である。当時私は開業したばかりだったが、すぐに会員になった。同じ時期に入会した先生が2人いるが、今でも懇意にさせていただいている。

 

その後2009年に会員を税理士に限らず9士業が参加する形でJPBMが誕生した。従って私の入会歴は30年以上に及ぶことになる。

 

今でもよく思い出されることがある。

 

当時の入会の条件は、相続のシミュレーションのソフトとハードを購入しなければならなかった。当時コンピューターは高価なもので、相続のシミュレーションソフトもかなり画期的なものだったが、その価格がなんと1000万円を超えるもので、開業間もない私は、資金繰りに四苦八苦した思い出がある。

 

今思えばその仕組みを仕掛けたのは、のちに登場する分林会長だったと思う。



  事業承継コンサルタント協会は、主として中小企業の相続問題をどう解決するかが主要なテーマだったが、「後継者がいない」という問題が日本全国から浮上してきた。そこで、当時協会の常務理事をしていた分林氏(現在、会長)が、1991年に、日本M&Aセンターを立ち上げた。

 

その15年後の2006年10月には東証マザーズに上場、そして07年12月には東証1部にスピード上場を果たし現在に至っている。私の事務所のセミナー講師に分林会長をお呼びしたのは、丁度上場の前年だったと記憶している。現在では、時価総額4000億円を超える優良企業に成長している。そして今後ますます成長していくだろう。



  後継者難という外部環境の追い風は、当然だが、それだけで上場は難しい。良い人材を獲得し、その人材に力を発揮してもらえるようにする。会長が若い社員に話していることがある。それは一度でも肉体的・精神的な限界まで仕事に挑戦してみる、ということだ。そういう経験を積んでいると後々、強さとなって生きてくる。

 

それを経験したことがある人とない人では、とても大きな差ができると考えているのだ。まさに量は質へ転化するである。最初から質を求めても意外と失敗するものだ。


  分林会長は経営に絶対必要な4ヵ条があると考えている。

 

①収益性(これがなくては、企業そのものが存続できない。顧客、社員、関係者に報いることができない。)

②安定性(貸借対照表を充実させておく必要がある。M&Aセンターの自己資本比率75%である。)

③成長性(将来に向かって成長していかなくては、企業は存続する意味がないと会長は考えている)

④社会性(迷ったとき「社会に対して正しいことをしているか?」会長はドラッガーが言ったこの言葉を、会社経営者だけではなく、社員一人一人も規範とすべきと考えている。)

 

この4つが揃った企業が良い経営を行っている企業で、揃っていない企業はいずれ存続できなくなる可能性が高いと言っている。我々も経営に携わるうえで、上記のことを胸に刻み、進んでいきましょう。そうすれば、たとえ上場はできなくても、それ以上に地域から喜んでいただきながら存続できる会社になれると信じています。一緒に頑張りましょう。

 

 

 

2019年1月31日 著 者   税理士  千葉 和彦

2018年2月 1日 (木)

平成30年度税制改正の目玉‥事業承継税制

 平成30年度の税制改正の目玉は何と言っても、「事業承継税制の改正」だ。今年度4月1日以後スタートする。
 
当初経済産業省は、ドイツなどに「5年で免除」の制度があるということで、我が国も同じく事業を5年継続したら猶予税額はすべて免除することを提案していたようだ。
 
しかし実際に財務省がドイツに行って調べてみると、遊休不動産、賃貸不動産、余裕資金を除いた事業用財産にかかる分だけが免除だったことが判明したため5年で免除案は受け入れられなかったようだ。
 
 今回の改正は新たに創設されたもので、前の「事業承継税制」は、そのまま生きていることにも注意が必要だ。
 
各新聞紙上では10年間の限定で、と書かれているが、今回の改正では、5年以内(平成35年3月31日)に認定経営革新等支援機関の支援・援助のもとに「特例承継計画」を都道府県に提出することが条件であり、
 
それから5年以内に自社株の贈与の実行をすることが大前提なので、提出が5年後ぎりぎりになった場合に、そこから5年以内にということで、10年限定という書き方をしているのだ。
 
届け出はあくまでも5年以内が条件であることに注意が必要だ。
 
自社株の贈与の実行は、平成39年12月31日までが条件なので、正式には9年9ヶ月に限定された制度になる。
 
もし提出後、5年以内に代表者が自社株の贈与をせずに死亡した場合は、相続税の納税猶予として、当然この猶予制度は使えることになるので、まずは提出しておくというのも一つの対策になるだろう。
 
たとえ使わなかったとしても特に罰則はないのだから、まずは提出しておきたい。
 
仮に、提出を忘れ、代表者が死亡した場合でも前の「事業承継税制」は使えるので決して諦めてはいけない。
 
ただしその場合の納税猶予は80%しかできず、しかも80%の雇用継続要件からも逃げることはできない。
 
 今まで、この制度が活用されなかった一番の理由は、80%の雇用継続要件だ。
 
今回は、この要件も実質撤廃と言ってよい。
 
もし雇用が80%維持できなかった場合には、経営革新等支援機関を通じて、なぜ達成できなかったか等の実績報告を提出し、妥当と認められればOKということになるからだ。
 
これはOKを前提にしたものと考えられる。
 
 また出口のリスクも今回軽減されている。
 
5年経過後に株式を譲渡、合併、清算をした場合に、その時の株式の時価分の税金しかかけられず、その差額分は免除されることになった。
 
このように使い勝手が良くなった「事業承継税制」だが、今まで通り、資産管理会社には適用できないのが残念だ。
 
不動産や預貯金、有価証券の割合が70%を超えるか、又は家賃収入が売り上げの75%を超えると、その会社は資産管理会社と見られてしまう。
 
しかし、従業員を5名以上(生計を別にした親族でもOK)雇用していれば、資産管理会社と見られないので、対策の一つに加えてはいかがだろうか。
 
今回の制度は株価評価が高くなりすぎている会社に活用するものだが、以前のように退職金を支給し、株価評価を引き下げる手法や暦年贈与を活用する手法は有効なので、自社に合った方法での対応が重要と考える。
 
ただ株価が高くなりすぎて困っているところは、今回の「事業承継税制」を大いに活用してはいかがだろうか。応援しています。
 
2018年1月29日    税理士  千葉和彦

2017年12月27日 (水)

自社株の評価が高すぎて、打つ手がない!

「自社株が高くなりすぎていて、打つ手がない。」と途方に暮れていた経営者の方にとって、まだ詳細は決まっていないが、今回の事業承継税制の改正は朗報だ。

 農家には大きな納税猶予の制度があるのに、何故中小企業の納税猶予制度は、条件が厳しい上、猶予額も少なく、使い勝手の悪いものなのかと常々疑問に思っていた。中小企業の自社株式は農家の田んぼや畑と同じものだ。事業を続ける限り持ち続けなければならず、上場株式のように売却して現金化などできないのだ。

 自社株対策と言えば、「できるだけ株価評価を引き下げて後継者に移転する。」のが原則だ。株価評価を引き下げるには、まず利益を引き下げなければならない。そのためには戦略的に損金を作る必要があった。そこで役員退職金の支給、オペレーティングリースや保険の活用で損金を作り、その期の利益を引き下げる。

 しかし内部留保がたっぷりある会社には効果が薄い。それではとそこで借入をし、不動産投資を行う。3年間待てば評価が下がり、ある程度の効果は見込める。

   こうしてあれやこれや試してみるが、それでも老舗の優良企業の株価は、おいそれとは下がらないのが現実だ。しかも血のにじむような努力で、やっと少し下げたのに後継者が、いなかったり、いてもまだ株式を渡すには早かったりと、後継者問題がつきまとう。何とも頭が痛い話だ。

  そこでそのような時のために、持株会社を作り、そちらに譲渡しておく手法がある。この持株会社は通常は株式会社が常道だが、株式会社ではその資本金の相続の問題がいつまでも付いてくるので、この持株会社を少し工夫して一般社団法人にする。

   一般社団法人に自社株を売却しておけば、後継者が決まった段階で理事長交代により、簡単に承継することができる。しかも最大の効果は、一般社団法人に自社株を入れてしまえば、そもそも一般社団法人は資本金のない会社だから永遠に自社株の相続の問題から解き放たれるという夢のような話だ。

   ところが今回この夢のような話にも一般社団法人の理事がほとんど親族の場合は一般社団法人に入れた財産にも相続税をかけようという規制が入りそうだ。しかし、ここで誤解してならないのは、一般社団法人そのものが否認されるということではないことだ。一般社団法人は、家族信託の受託者としても大いに活用できるし、株式会社と同じくどんな営利事業でもできるのだ。一般社団法人は、使い方次第で、まだまだ活用の余地は大きいと思う。

 事業承継に取って一番鍵になるのが何と言っても、この自社株の引き継ぎだ。いかに税負担を少なく、しかもスムーズに後継者に引き渡せるかが命運を握る。来年はこの事業承継税制が使い勝手良いように改正される。しかし10年という期間制限つきだ。

  今まで株価が高すぎてどうしようもないと自暴自棄になっていた社長もこの機会に自社の事業承継を見直すチャンスだ。上手に自社株を引き継げれば、100年企業への仲間入りも決して夢ではない。国もそのような会社が一社でも多くでてきて未来永劫税金を払ってくれることを望んでいるのだ。諦めずに知恵を出すことで、必ず未来は切り開けるものと確信している。

  経営者の皆さん今年も一年間本当にお世話になりました。来年もよろしくお願いします。


2017年12月24日(日) 著 者  税理士   千葉 和彦 

2017年11月30日 (木)

広大地の評価改正・・地主さん増税・・年内に対策を!

 平成30年1月1日以降に相続、遺贈又は贈与により取得した広大地の評価の方法が変わることが本決まりです。

  ざっくり話せば今回の改正で、これまで広大地に該当していた土地の評価額が約30%以上高くなります。もし対策をするなら年内にその土地の贈与契約を済ませましょう。ただし、ご存知のように贈与税はかなり高いので二の足を踏まれる方も多いと思います。

  その場合は、相続時精算課税を活用します。相続時精算課税制度とは、60歳以上の親・祖父母から20歳以上の子や孫に評価額で2500万円までは非課税で、それを超えた分には、一律20%の税率で贈与税が課税されるというものです。将来相続が発生した時にその贈与時の価格で加算され、先に収めた贈与税はその時の相続税から差し引かれ精算されます。いわば相続税の前払いと言われる制度ですが、2500万円を超える分の金額には20%の贈与税が課されますので、税額が大きくなることも考えられます。来年3月までに納付しなければならない贈与税の資金繰りも考える必要があります。

 「広大地の評価」は、宮城県の場合は1000㎡以上の土地を所有している場合に適用されるものです。この評価方法を適用すると約半分から三分の一に評価が下がり、地主さんには喜んでいただける評価方法でした。しかし、適用要件がかなり曖昧なため、判断が難しく税務当局との争いが絶えませんでした。そこで今回「広大地の評価」は廃止され、代わりに「地積規模の大きな宅地の評価」が新設されたのです。 広大地の評価の時と面積基準は変わらず1000㎡以上が対象になります。

 そのほか条件は①「普通商業・併用住宅地区」又は「普通住宅地」に所在していること②容積率400%以上の土地には適用されない。と適用条件が明確になっており、適用の判断がしやすくなります。今までの広大地評価では土地の形状を考えませんでしたが、新しい評価方法では不整形地補正も考慮されます。しかし、規模格差補正率が大幅に引きあげられることから、余程地形が悪い土地でない限り、前述のように評価が上がることになります。広い土地を所有している地主さんは検討してみてはいかがでしょうか?

 贈与契約をするなら、平成29年12月31日までに、贈与を行うことが必要です。そして、翌年2月1日から3月15日の間に相続時精算課税制度による申告をすることになります。(もちろん暦年贈与もできます。ただし、この場合税額が大きくなることが想定されます。) 具体的には、現在の計算法による広大地の評価をし、贈与税額を算定します。その上で贈与契約書を締結し、できれば確定日付を取っておくと証拠能力が上がります。また贈与は登記が要件ではありませんが、できるだけ早く登記を済ませることも必要です。できれば申告までに間に合わせるようにしましょう。

 とにかく何はともあれ贈与の意思表示を明確にしておくことが重要です。 年末の慌ただしい時期ではありますが、相続税減額分を稼ぐと思えば力も入るのではないでしょうか?是非応援しています。

 

 

2017年11月22日(水) 著 者  税理士 千葉 和彦

2017年8月30日 (水)

そろそろ本気で事業承継を考えないと!

  8月のオーナーズセミナーでは、良くあるケースとして下記の事例を取り上げました。

【事例】

『私の父は、製造業を営むA社のオーナー経営者です。いわゆるワンマン経営者であり、年齢は70歳になりますが、常に生涯現役を言葉にしており、事業承継のことは一切口にしません。私は、息子で専務という肩書きはあるものの、経営に関する権限は一切なく、従業員の一部は、会社の将来を心配しているという声も耳にします。

 また、同業他社の二代目同士でよく会社の株価や相続税の話題があがりますが、実際A社株の株価が今いくらで、ましてや父の相続税がいくらになるか分からない状況です。さらに父個人の土地建物がA社の本社としての事業用財産になっています。

 したがって、他の二人の兄弟との遺産分けのバランスについても悩みどころです。しかし、当然、父にもそのような話を一切口にすることはできません。』

 上記のようなケース、多いのではないでしょうか?まず私が最初に思うのは、A社の社長は、一番大事な社長業をしていないということです。

何故なら、社長というのは何はともあれ自社の将来について常に考えている人のことを言うからです。この社長は自社の5年後~10年後についてじっくり考えているように思えません。

自分の年齢と自社の将来を考えた場合、必ず後継者問題が浮かんでくるはずです。社長業で大事な仕事は、経営計画を立てることです。そうすれば、必ずその延長線上に後継者問題があるはずです。

まず、A社長は後継者を決めることが大事です。そして、自社の株価評価は勿論ですが、個人的な財産も棚卸して自身の相続税のシミュレーションをするべきです。自社株の評価が高ければ、その対策を早急に検討しなければなりません。

いくら対策を早急にしても評価が下がらない場合には、平成25年度の改正で、以前より使い勝手が良くなっている「事業承継税制」の活用を考えましょう。

また後継者は決まっているが、まだ自分が現役中は、経営権を持っていたい場合や後継者候補が複数いて後継者を決めきれない場合は、一般社団法人に持たせておくといいと思います。あるいは信託を活用する方法もあります。信託を活用しますと、株式そのものは移動させても、経営権だけ自分に残しておくことが可能です。

「自分の目の黒いうちは、経営権を持ち続け、目を光らせておきたい。」時に、威力を発揮します。また上記の事例のA社長のように、相続財産が事業用財産と自社株しかないような場合は、事業を引き継がない他の相続人に対する遺留分対策も重要です。

自社株式と事業用財産はすべて後継者が相続できるように遺言してあげ、事業を引き継がない他の相続人に対しては、後継者受取人の保険に加入したり、あるいは相続した自社株式を自社で買い取れるようにしておき、後継者が代償金として現金を支払うことができるような仕組みを作ってあげておくことが重要です。

いずれにしても、A社長は、原理原則に戻り、本来の社長業である将来像をしっかり描いていきましょう。応援しています。

2017年8月29日    著 者  税理士  千葉 和彦

2017年8月 1日 (火)

信託の活用について

   前回は「信託」を理解するコツについて書かせていただきました。今回は、その「活用」ついて説明していきます。

信託とは、一言で言えば、「信じて託す」ことでした。ここでは、登場人物が3名登場します。すなわち委託者(託す人)・受託者(託される人)・受益者(実質上の所有者に見なされる人)の3名です。信託は委託者と受託者の間で「信託契約」を結ぶと同時に効果が生じます。

  以下信託が何故有効な対策になるのか見ていきたいと思います。

1 認知症対策として有効

   65歳以上の約5人に一人が認知症になり、2025年には認知症患者数は約700万人前後に達するとのことです。

認知症になると、遺言や不動産取引、相続税対策などが一切できなくなります。もちろん銀行口座も凍結され、親を施設にいれる資金も親の口座から引き出せません。

やむなく成年後見人を立てざるを得ませんが、成年後見人は本人の財産の保護が目的なので、施設の費用を引き出すことはできますが、子や孫に金銭を贈与したり、相続対策のためアパートを建てるなどの行為は、本人の財産を減らすことになるからまず認められません。

しかし「信託」を活用するとそれらの欠点をカバーすることが可能です。

2 事業承継対策に有効

  自社株式を長男に贈与した後、長男が死亡した場合、自社株式は事業に関わっていない長男の嫁に相続されるのが通常ですが、例えば、一緒に仕事をしている次男などに引き継がせることができます。

信託の仕組みを導入することで、民法の法定相続の概念にとらわれない柔軟な承継先の指定が何世代にわたっても可能になります。

3 不動産の共有化対策として有効

  遺産の大半が一つの不動産の場合、その不動産を共同相続してしまうことは大きなリスクを伴います。

つまり、共有不動産は、共有者全員が同意・協力しないと換価処分等ができませんので、共有者間で確執があると、不動産の有効活用ができなくなる可能性があります。

そこで、その不動産を信託し、受益権を共有化します。すると、共有者としての権利・財産価値は維持しつつ、管理処分権限を受託者に集約することができ、その結果、不動産の「塩漬け」を防ぐことができます。

4 遺産受取方法の多様化として有効

  一括で受け取るのではなく、毎月の生活費として「定額給付」にすることができます。

5 相続発生時でもスムーズな財産管理法として有効

  相続発生時から遺言執行が完了するまでの、資産凍結の期間を排除できます。

6 財産隔離機能を利用したリスクヘッジとして有効

  詐害行為にならない範囲においては、委託者の債権者からの差押えを回避したり、自己破産・民事再生による清算対象の財産から除外が可能になります。

「信託」そのものは直接「節税対策」にならないかも知れませんが、相続対策として重要な「遺産争いの防止対策」として大きな成果を生み出すことができます。

是非皆様も活用を検討されてみてはいかがでしょうか。応援しています。

2017年7月28日 著 者 税理士  千葉 和彦