相続・贈与・信託・遺言

2023年11月 1日 (水)

持株会社を活用した事業承継対策

持株会社は経営戦略の一つとして作られ活用されるのが本来の目的だが、昨今は事業承継対策として活用されるケースも多い。一般的なケースは、後継者が新規会社を立ち上げ、その新規会社が金融機関から融資を受け、先代の持っている株式を買い上げ、自分が承継する会社をその新設会社の子会社とするのである。そこで新設会社は持ち株会社として機能することになるのである。金融機関からの融資額はかなり多額になるケースが一般的で、その返済原資は、子会社からの配当になる。かなり業績の良い優良会社が子会社でないと成り立たないスキームでもある。しかし、その効果も大きいことは間違いない。まず先代が保有していた株式を売却することにより自社株式は相続財産からはずれるため、遺留分の対象にもならない。また、株式は売却されてしまうので、当然のことながら株価が以後、いくら上昇しようと心配はなくなる。また、ここで、先代は多額のキャッシュを手にすることになり、そのキャッシュを老後資金の確保、相続税の財源などにすることもできる。

 

 注意点としては、先代が株式を後継者の持株会社に譲渡する際に、譲渡所得税等の課税を受けるケースが多く、その税金を差し引いた手取り額は、さらに先代が使い切れなかった分に対して後継者が相続税の課税を受けることになる。また事業会社の業績悪化等により、返済に見合う配当が出せず、返済が出来なくなってしまうリスクもあることに十分留意すべきである。このスキームを活用する場合は、これらのリスクも十分に考慮しておかねばならない。

 

 そこで同じ持株会社でも借り入れをせずに、現金も使わずに、持ち株会社を作る方法がある。株式移転という方法だ。現在の事業会社の株主が、全員その新会社に株式を現物出資し、その対価として新会社の株式をもらう方法である。従って、新会社の株主もその事業会社の株主構成と同じ形になる。ただ、前の手法と違い、ここではもう一仕事必要になる。それは、先代から後継者は新会社の株を譲ってもらわなければならないのだ。しかも、後継者は、先代からその株式を譲り受けるにあたって、できるだけ株価を引き下げることが重要だ。引き下げる方法としては、いろいろ考えられると思うが、例えば、一例としてだが、その持株会社が事業会社の不動産を買い取るなどである。その時に、はじめて借入を活用することになる。不動産の場合だと3年後に相続税評価額になるから、時価と評価額の乖離でほぼ間違いなく自社株式の評価は引き下げられるのである。そして評価が下がった時点で、先代の株式を贈与等で異動させるのだ。

 

 いずれにしても、持株会社を作る場合は、注意点がいろいろあるので、事前に当事務所にご相談ください。

最近は、急に朝晩は冷え込むようになってきました。お身体ご自愛ください。

2023年10月 2日 (月)

特例事業承継税制の提出期限迫る!

 令和4年の税制改正で提出期限が1年延長され、令和6年3月31日になったのもつかの間、特例事業承継税制の届け出期限が半年後に迫りました。この特例を使うことに関しては、専門家の間でも賛否両論があるのは、周知の通りです。私もどちらかというと今まで消極派でした。できれば後世に引きずらないで対策を終えておくのが一番と考えてきました。

具体的には、自社株の評価を引き下げて、自社株の評価が下がった状態で相続時精算課税を活用し、後継者に贈与するのが一番と考えてきました。自社株の評価を引き下げるには、先代が退職するタイミングで役員退職金を支払うと、ほとんどの会社は一時的ではありますが、赤字になります。当然のことながら翌期には自社株の評価額は、下がりますので、そのタイミングで後継者に相続時精算課税で贈与します。しかし、何社かの顧問先に頼まれてシミュレーションしましたが、株価が高くなりすぎているところは、焼け石に水の状態で多額の贈与税が発生することがわかりました。(贈与額2500万円を超えた部分に、20%の贈与税がかかります。)しかも、その贈与税は後継者が払わなければならないので、後継者に大変な負担が生じます。金融機関の中には、贈与税分を後継者に融資することを前提にそのスキームの提案をしているところもあります。

 特例事業承継税制は、何度も改正が繰り返され現在の制度に至った経緯から、わかりにくいことが、多くの企業が取り組みにくくなっている原因の一つと考えられます。先日ある方が私にこの制度をラグビーのボールに例えて説明してくれました。すなわち、ボールを持ち続けている間は、納税猶予され、そのボールを落とした時に課税が生じるというものです。ボールを持ち続けるためには、まず5年間は、代表を続け、株式も持ち続けなければなりません。有名なジャニーズ事務所の後継者の方が代表を下りないのもここに理由があると思います。

この制度ですが、贈与から5年以内は多少厳しめの要件がありますが、5年経過すると比較的緩やかな要件のみになります。まず、厳しめの当初5年間でボールを落としたと認定される場合について列挙してみます。(ボールを落とすと猶予税額+利息の納付が必要です。)

① 後継者が代表者でなくなった。(事故等の已む得ない場合を除く。)

② 一族の議決権が50%以下になった。

③ 後継者が一族の中で筆頭株主でなくなった。

④ (一株でも)対象となった株式を売却した。

⑤ 本業を廃業した。(不動産賃貸業になったなど)

⑥ 毎年の報告、届け出を怠った。遅れた。

では、次に5年経過後にボールを落としたとされる場合にはどのようなものがあるでしょうか?

① 対象となった株式を売却した(売却した分のみ取り消し)

② 本業を廃業(不動産賃貸業になった場合など)

③ 3年おきの届け出を怠った。遅れた。

 また上記の理由で5年経過後にボールを落とした時には、5年間の利子税は免除されます。そのため、贈与・相続時には贈与税・相続税は払えないけど、5年経過後であれば資金繰り的にも払える目途があるのであれば、いったん事業承継税制を適用して納税を猶予しておき、5年経過後取りやめの届出書を提出すれば、本税だけの納付で済むようです。

また、5年経過後に業績が悪化し、売却や解散した場合には、売却や解散時の株価等をもとに再計算し、差額は免除されるというセーフティーネットが敷かれています。なかなか複雑な制度ではありますが、事業承継の選択肢に是非加えていただきたいと思います。応援しています。

2023年9月 1日 (金)

再度、「生前贈与」の改正について

前回に引き続き今回も「贈与」について書かせていただきます。まずは「生前贈与」の改正点について整理していきたいと思います。

 まず、最初に確認すべきは、改正の適用は令和611日以後に行われる贈与からで、令和51231日までは、従来通りということです。それで年内の駆け込み贈与を推奨するような記事が出回っているわけです。しかし、前回も書かせていただきましたが、親族間の資産移転は節税だけに目が行くと、親族間が不和になったり、親の資金が足りなくなったりと思わぬ落とし穴があったりしますので、慎重に進めてほしいと思います。これは、過去に実際にあった事例ですが、ある父親が、長男のお子さんたち(孫さんたちです。)に長年贈与をしてきました。しかし、次男には子供がいなかったため、次男の方には、贈与をしていませんでした。次男はそのことを日頃から不満に思っており、父親死亡後の遺産分割協議で、その生前贈与分も遺産総額に含めて分割することを長男に強く主張したため、長男ともめてしまったのです。このように、親族間の感情というものは存外、複雑なところもありますから、何度も言うようですが、贈与は慎重にしなければなりません。

 今回の改正では、「3年持ち戻し」が「7年持ち戻し」になりました。非常にわかりにくいのですが、完全に「7年持ち戻し」になるのは2030年(令和12年)からです。それまで順次7年に近づいていくイメージです。この持ち戻しには、基礎控除110万円以下で贈与の申告不要な場合もすべて持ち戻されることも念頭に置いておいてください。

 今回の改正では「相続時精算課税制度」にも来年から基礎控除110万円が設けられました。こちらは、基礎控除の110万円であれば申告も不要ですし、持ち戻しの対象からも外されています。単純に考えると、どうせ持ち戻しされるなら基礎控除分を持ち戻さなくて良い「相続時精算課税制度」を利用される方が増えるかもしれません。ただし注意していただきたいのは、この「相続時精算課税制度」は後戻りできない制度ということです。一度選択してしまえば、その選択をした贈与者、受贈者間の贈与はすべて「相続時精算課税制度」しか取れないということです。慎重に判断する必要があります。ただ私の経験では、過去に、土地や自社株式の贈与で、この制度を利用された方は現在になって喜ばれている方が多いように思います。それもこの10年間土地と自社株式の評価が大きく上昇しているケースが多いからです。現在の評価額にかかわらず、過去に贈与した時点の評価額で取り戻して計算される「相続時精算課税制度」は、値上がりが予測される資産を贈与する場合には有効な相続税対策になります。従来の「暦年贈与」を利用するか、「相続時精算課税制度」を利用するかは、自身の年齢、健康状態と財産をしっかりと把握しながら対策を立ててほしいと思います。

2023年8月 1日 (火)

「今年が最後のチャンス・・生前贈与」

「今年が最後のチャンス」と題して各経済誌や週刊誌が特集を組んでいます。何のことかと言うと、相続税と贈与税の税制改正のことです。相続開始前の3年以内の贈与については相続財産に加算するという現行のルールは、1958年の税制改正で定められたものですが、実に65年ぶりにこのルールが改正されます。適用は202411日以降の贈与分からなので、巷では今年中に駆け込み贈与をした方が良いと言っているのです。しかし、親族間の資産移転は、節税だけに目が行くと、親子間が不和になったり、親の資金が足りなくなったりと思わぬ落とし穴があります。自身の財産を把握し、また今回の改正を理解して、慎重に進めてほしいと思います。

 23年度相続・贈与に関する税制改正のポイントは下記の4点です。

① 相続財産に加算する生前贈与を今年までの相続では3年前の分まで加算すれば良かったのですが、来年度からの贈与については、亡くなる「7年」前以内の贈与が相続財産に加算されるようになります。ただ相続4年~7年前の贈与につきましては計100万円の控除も設けられました。

② 前回のエッセイでも取り上げましたが、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が新設されました。

③ 孫・子供の配偶者への生前贈与は、従来通り加算されません。これは今後の相続税対策でも従来通り使えることになります。

④ 教育資金贈与は263月まで、結婚・子育て資金贈与は253月まで使えます。

 生前贈与は確かに相続税の節税対策には効果が大きいですが、自分は節約をしながら、ほしいものも我慢し、質素に暮らしながらお子さんや孫さんに贈与されている方を見ると何か違うなと感じます。親子だから、一族だから当然という思いもあるのでしょうが、もらった方も、もらった時はうれしいと思いますが、すぐに忘れるのが常ということです。多額の贈与を受けてきた人から感謝の言葉をあまり聞いたことがありません。東南アジアのタイ国などでは、「もらってあげる」ということで、その上げる人に徳を積ませているのだという考え方なようです。これから贈与する方は、タイ国のように、徳を積ませてもらっている、もらって頂いて、ありがとうという感覚でないとならないかもしれませんね。それが嫌な方はむやみに贈与などすべきではないでしょう。まずは自分の楽しみに、そして老後のために残しておいてください。老後いくらお金がかかるかわかりませんからね。

私が最優先で贈与を考えなければならないと思うのは、「自社株」です。事業を引き継いでくれる後継者には、一日も早く自社株を贈与していくべきでしょう。自社株だけは後継者になかなか譲らず、現金は子供や孫にどんどん贈与していっては本末転倒と言うものです。そう言うと、「俺だって早く贈与したいよ。しかし贈与したくても自社株の評価が高すぎて踏み切れない。」と頭を悩ます方も多いようです。あまり株価評価が高すぎる場合は、まずは「納税猶予」の届け出をしておくべきでしょう。この届け出こそ1年延長されたものの来年3月で締め切りですからね。会社には後継者だけでなく、社員、取引先など多くの方の生活がかかっていますので、まずはこちらを急ぐべきだと思います。

2020年2月 5日 (水)

「配偶者居住権」が今年4月から施行!

平成30713日に民法の相続分野が、約40年ぶりに改正され、公布されました。施行は、この公布日から2年以内の政令の定める日からとなっており、順次施行されてきました。平成31113日の「自筆証書遺言の方式緩和」、令和元年71日には「遺産分割の見直し(配偶者間の居住用不動産贈与の持ち戻し免除の推定・仮払い制度の創設)「遺留分制度の見直し」「特別寄与制度の創設」が施行された。

 

「配偶者居住権」とは?

令和24月からはいよいよ「配偶者居住権」が施行されます。「配偶者居住権」とは、被相続人の持ち家に住んでいた配偶者が、被相続人が亡くなった後、その家を相続しなくても、自分が亡くなるまで無償で住み続けることができる権利で、遺贈、遺産分割協議、審判手続きで配偶者居住権が認められた時に取得することが出来ます。それに対し、「配偶者短期居住権」というものもあり、こちらは、被相続人の建物に居住していた配偶者なら、何の条件もなく遺産分割完了あるいは6ヶ月間のいずれか遅い日まで、無償で住み続けることができるというものです。

この制度は、ちょっと揉めそうな家族関係で活用されるのを前提にされているように思います。普通の家族関係では無理にこの制度を使う場面が想定できないからです。何故なら、このような場合も仲の良い親子なら法定相続分にこだわらず、お母さんに現金を渡すこともできるからです。いずれお母さんの相続で自分にまわってくるという考えもあります。先妻の子は、養子縁組でもしていない限り、今回の相続で終わりですから、シビアにならざるを得ないのかもしれません。例えば、自宅(2000万円)と預貯金(2000万円)が相続財産と仮定します。相続人は、2人で1人は、現在の妻でもう一人は先妻の子というケースです。妻は今後の生活もあるので、住み慣れた自宅は、どうしても必要です。そこで、遺産分割協議により、法定相続分通りにししようということになり、めでたく自宅を相続することになりましたが、自宅だけで法定相続分になってしまい、現金は相続できないことになります。妻は老後の生活費として、どうしても現金も必要です。そのような場合に、今回の「配偶者居住権」(所有権はないが、終生住み続ける権利がある。)が効果を発揮します。配偶者居住権の評価は、家全体の評価より低くなります(評価は配偶者の相続時の年齢によって変わります。)から、法定相続分の中で、現金を受け取ることもできることになるからです。結果、妻は住み続ける権利と老後の生活資金も確保できることになります。

 次回は「配偶者居住権は節税に効果あるのか?」ついて説明したいと思います。

 

 

2020124日 著者 税理士    千葉 和彦

 

2019年12月 4日 (水)

子供に相続権があるなんておかしい!

 先日、弁護士、公認会計士、税理士の資格を持ち、若い時に会計事務所にも勤務していたことがあるという先生のセミナーを受講した。先生は、開口一番「だいたい子供に相続権があるなんておかしいと思う。」と言い放った。私も戦後に改正された民法の法定相続制度には納得がいかなかったので、通じるところがあった。父が死亡した場合、残された母の面倒をみながら、家を守る子供以外の子供が相続権を持つから揉め事が絶えなくなったのだと思う。とっくに他家へ嫁いだ妹の旦那までが出てきてあれやこれやという場面にも何度か直面し、不快な思いをしたのも一度や二度ではない。先生曰く、「子供たちが、親の資産形成に何か協力しましたか?子供は費消してきただけではないですか?資産形成に協力してきたのは配偶者だけではないですか?(後妻等で何らその資産形成には協力してこなかった方もいますが・・。)そのことから離婚する場合は、妻は婚姻後に増加した財産の半分の取り分を持つのです。妻の法定相続分が2分の1では、妻は自分の取り分を取り戻すだけです。」と。

 5年前に相続税の基礎控除が引き下げられてから、少しだけ相続税を納める方が増えた。従って、相続税の申告が必要な者は、過去死亡者の4%から8%に申告者が倍増したと言われている。私が考えるに、それは法定相続分で申告しているからではないだろうか?妻が全部相続すれば、配偶者の非課税枠が使えて相続税は0になるはずである。住まいに小規模宅地の評価減を活用すれば、税金はかからないケースがほとんどだからだ。相続人が納得すれば、どのように分割しても自由なのだから、まずは、配偶者へ相続させるべきではないだろうか。ただし遺産総額5億円超の死亡者の0.7%の人たちには別途対策が必要なことは言うまでもない。

 今回の民法改正で「配偶者居住権」というものが新たに創設された。この制度は、居住用財産の所有権を相続しなくても居住し続けることができる権利で、所有権と居住権を分離したことにより、遺産分割をする際の選択肢を広げたものだ。しかし、遺産分割協議は必ずしも法定相続分で分ける必要がないので、わざわざこのような制度を活用しなくても良いケースも多いと思う。その上、新しく創設された「配偶者居住権」は、まだまだ不明点が多いのも事実だ。例えば、配偶者の自立生活が難しくなり、介護老人ホームへの入居が必要になった場合には、介護老人ホーム入居後の居宅は、空家として放置するようになるのか?換金しようと思っても、配偶者居住権が設定されている土地建物では換金もできないのではないのではないか。又は土地を所有する者が事業資金を借用する場合に担保価値が認められないので、担保として活用もできないのではないか・・などである。そのため、この制度の活用は慎重にしていきたいと思う。

2019年11月28日  著 者   税理士 千葉 和彦

2019年10月 1日 (火)

共有名義の不動産は、早めの対策を!

   不動産の「共有」は遺産分割において避けた方が良いと言われています。「共有」とは、一つの土地などを複数人で所有している状態をいいます。私も実務で多くの困ったケースを見てきました。土地を兄弟2人で相続して、仲良く駐車場として活用していたケースですが、その後その兄弟二人にも相続が発生して、6人の共有になってしまいました。条件の良い売却の話がありましたが、共有者の中に反対するものがいて売却できませんでした。その後その土地の上に商業施設を建てて貸すという話が持ち上がりましたが、それも全員の賛成を得ることはできませんでした。
 もうお分かりかと思いますが、「共有」の場合、一人でも反対するものがいると売却(持分売却はできますが、第三者が買う場合は、全員の持分を購入できなければ意味がないので、現実的ではありません。考えられるのは、他の持分所有者が購入する場合だけです。)も有効活用もできません。しかも厄介なのは、共有者の相続で、共有者がどんどん増えていくことです。そのため早い段階で共有を解消しなければなりません。対策としては、下記のことが考えられます。

①  共有物を分割(具体的には分筆)し、各々の持分に応じて登記し、単独所有にする。
   この場合、同面積で分割しても、土地の位置・形状等で、分割前と同じ価格になるとは限りませんので、同じ価格比になるように注意が必要です。また共有者と連絡が取れないような場合は、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起し、裁定により共有名義を解消することもできます。

②  共有持分を贈与、売却する。
  通常いずれも他の共有者が対象になるケースが多い。売却の場合、譲渡所得税がかかる。贈与の場合は、相手側に贈与税がかかるので、注意が必要です。

③ 共有持分の交換
   互いに共有している2つの土地がある場合、自ら所有する土地の共有持分と、他者が所有する土地の共有持分を交換することにより、各々の土地を単独所有とすることができます。この場合も交換する不動産に価格差が生じないように注意が必要です。

   最後に共有持ち分の解消がすぐにできない場合は、信託の活用を提案します。例えばアパートなどを相続し、共有になっている場合など、信託を活用すると、賃貸、管理、修繕、売却など共有者の意向に関係なく、受託者の判断でできます。委託者、受益者はスタート時点で同じに設定することになりますが、信託契約で第二次受益者を決めておくことなどで、共有解消にも威力を発揮することになります。ぜひ検討されてみてはいかがでしょうか。

 

2019年930日 著 者  税理士   千葉 和彦

2019年3月 5日 (火)

民法改正で相続のココが変わる!

   民法の相続分野が、昨年7月6日に約40年ぶりに抜本改正された。今改正の大きな目的は、配偶者への配慮、遺言制度の簡便化、遺留分制度の見直し、特別寄与者制度の創設だ。紙面の関係で今年の1月13日にすでに施行になっている遺言書制度の簡素化について今回は述べていきたい。

*遺言制度の簡便化

① 自筆証書遺言の方式緩和(2019年1月13日施行)

従来の一字一句自筆でなければ無効という方式から、改正後は自筆証書の内容である本文自体は手書きする必要があるが、目録等は印字した紙面の1枚ずつに署名・押印すれば有効になった。このことで、長文の手書きが難しい高齢者にとっても書きやすくなった。

② 自筆証書遺言の公的保管制度(2020年7月10日施行)

封をしていない自筆証書遺言を法務局で保管する制度が整備された。この制度は本人が法務局に、その遺言書を持参し、本人確認を受けた後、法務局がデータ化して保管するというものだ。

 

 自筆証書遺言はコストがかからず、気軽に書けるところが一番の長所だ。しかし、改正前までは、遺言全文、署名、日付の全てを自ら手書きする必要があり、目録等まで自書しなければ無効になってしまっていた。実際に、目録をタイプライターで作成したために無効になった古い最高裁判例もある。しかし、今改正の②のように、この自筆証書遺言書を法務局に預けることができれば、法務局側では、厳格な本人確認と様式の不備がないかを確認してから預かるようになるから、様式の不備等で無効となったり、遺言書が偽造であるという紛争は避けられると思う。さらに法務局に保管された自筆証書遺言については、家庭裁判所の検認手続きが除外されるので、この面からも公正証書に引けを取らないのではないかと思う。

   今までは、せっかく書いた遺言書が無効になったり、見つけられなかったり、破棄されたり、偽造ではないかと訴えられたりなどの紛争が多かったが、今回の改正遺言書は、かなり使い勝手の良いものになる。しかも、コストも公正証書遺言と比較してかなり低くなるからうれしい限りだ。ただ、この自筆証書遺言書は自分の足で法務局に持っていかなければならないので、自分が動けるうちに実行する必要がある。

   ただ、どの方式の遺言書でも共通して気を付けなければならない点がある。それは各相続人の遺留分を配慮することである。せっかく遺言があっても、遺留分を侵す内容になっていることが原因で紛争になっていることがあるからだ。どうしても遺留分以下になる相続人がいたら、法的効力はないものの、遺言者の思いを伝える「付言事項」を書いてもらいたいと思う。そのことで実際、紛争が避けられたことも数多くあるからだ。皆様のご健闘祈ります。

 

2019年2月27日  著者  税理士   千葉 和彦

2019年2月 5日 (火)

会社設立から15年で上場!

  昨年から一般社団法人日本中小企業経営支援専門家協会(略してJPBM以後この名称を使用する。)という長い名称の団体の理事に就任した。

 

このJPBMの前身は、1986年に事業承継問題に関心を持つ税理士が集結して設立された「日本事業承継コンサルタント協会」である。当時私は開業したばかりだったが、すぐに会員になった。同じ時期に入会した先生が2人いるが、今でも懇意にさせていただいている。

 

その後2009年に会員を税理士に限らず9士業が参加する形でJPBMが誕生した。従って私の入会歴は30年以上に及ぶことになる。

 

今でもよく思い出されることがある。

 

当時の入会の条件は、相続のシミュレーションのソフトとハードを購入しなければならなかった。当時コンピューターは高価なもので、相続のシミュレーションソフトもかなり画期的なものだったが、その価格がなんと1000万円を超えるもので、開業間もない私は、資金繰りに四苦八苦した思い出がある。

 

今思えばその仕組みを仕掛けたのは、のちに登場する分林会長だったと思う。



  事業承継コンサルタント協会は、主として中小企業の相続問題をどう解決するかが主要なテーマだったが、「後継者がいない」という問題が日本全国から浮上してきた。そこで、当時協会の常務理事をしていた分林氏(現在、会長)が、1991年に、日本M&Aセンターを立ち上げた。

 

その15年後の2006年10月には東証マザーズに上場、そして07年12月には東証1部にスピード上場を果たし現在に至っている。私の事務所のセミナー講師に分林会長をお呼びしたのは、丁度上場の前年だったと記憶している。現在では、時価総額4000億円を超える優良企業に成長している。そして今後ますます成長していくだろう。



  後継者難という外部環境の追い風は、当然だが、それだけで上場は難しい。良い人材を獲得し、その人材に力を発揮してもらえるようにする。会長が若い社員に話していることがある。それは一度でも肉体的・精神的な限界まで仕事に挑戦してみる、ということだ。そういう経験を積んでいると後々、強さとなって生きてくる。

 

それを経験したことがある人とない人では、とても大きな差ができると考えているのだ。まさに量は質へ転化するである。最初から質を求めても意外と失敗するものだ。


  分林会長は経営に絶対必要な4ヵ条があると考えている。

 

①収益性(これがなくては、企業そのものが存続できない。顧客、社員、関係者に報いることができない。)

②安定性(貸借対照表を充実させておく必要がある。M&Aセンターの自己資本比率75%である。)

③成長性(将来に向かって成長していかなくては、企業は存続する意味がないと会長は考えている)

④社会性(迷ったとき「社会に対して正しいことをしているか?」会長はドラッガーが言ったこの言葉を、会社経営者だけではなく、社員一人一人も規範とすべきと考えている。)

 

この4つが揃った企業が良い経営を行っている企業で、揃っていない企業はいずれ存続できなくなる可能性が高いと言っている。我々も経営に携わるうえで、上記のことを胸に刻み、進んでいきましょう。そうすれば、たとえ上場はできなくても、それ以上に地域から喜んでいただきながら存続できる会社になれると信じています。一緒に頑張りましょう。

 

 

 

2019年1月31日 著 者   税理士  千葉 和彦

2018年2月 1日 (木)

平成30年度税制改正の目玉‥事業承継税制

 平成30年度の税制改正の目玉は何と言っても、「事業承継税制の改正」だ。今年度4月1日以後スタートする。
 
当初経済産業省は、ドイツなどに「5年で免除」の制度があるということで、我が国も同じく事業を5年継続したら猶予税額はすべて免除することを提案していたようだ。
 
しかし実際に財務省がドイツに行って調べてみると、遊休不動産、賃貸不動産、余裕資金を除いた事業用財産にかかる分だけが免除だったことが判明したため5年で免除案は受け入れられなかったようだ。
 
 今回の改正は新たに創設されたもので、前の「事業承継税制」は、そのまま生きていることにも注意が必要だ。
 
各新聞紙上では10年間の限定で、と書かれているが、今回の改正では、5年以内(平成35年3月31日)に認定経営革新等支援機関の支援・援助のもとに「特例承継計画」を都道府県に提出することが条件であり、
 
それから5年以内に自社株の贈与の実行をすることが大前提なので、提出が5年後ぎりぎりになった場合に、そこから5年以内にということで、10年限定という書き方をしているのだ。
 
届け出はあくまでも5年以内が条件であることに注意が必要だ。
 
自社株の贈与の実行は、平成39年12月31日までが条件なので、正式には9年9ヶ月に限定された制度になる。
 
もし提出後、5年以内に代表者が自社株の贈与をせずに死亡した場合は、相続税の納税猶予として、当然この猶予制度は使えることになるので、まずは提出しておくというのも一つの対策になるだろう。
 
たとえ使わなかったとしても特に罰則はないのだから、まずは提出しておきたい。
 
仮に、提出を忘れ、代表者が死亡した場合でも前の「事業承継税制」は使えるので決して諦めてはいけない。
 
ただしその場合の納税猶予は80%しかできず、しかも80%の雇用継続要件からも逃げることはできない。
 
 今まで、この制度が活用されなかった一番の理由は、80%の雇用継続要件だ。
 
今回は、この要件も実質撤廃と言ってよい。
 
もし雇用が80%維持できなかった場合には、経営革新等支援機関を通じて、なぜ達成できなかったか等の実績報告を提出し、妥当と認められればOKということになるからだ。
 
これはOKを前提にしたものと考えられる。
 
 また出口のリスクも今回軽減されている。
 
5年経過後に株式を譲渡、合併、清算をした場合に、その時の株式の時価分の税金しかかけられず、その差額分は免除されることになった。
 
このように使い勝手が良くなった「事業承継税制」だが、今まで通り、資産管理会社には適用できないのが残念だ。
 
不動産や預貯金、有価証券の割合が70%を超えるか、又は家賃収入が売り上げの75%を超えると、その会社は資産管理会社と見られてしまう。
 
しかし、従業員を5名以上(生計を別にした親族でもOK)雇用していれば、資産管理会社と見られないので、対策の一つに加えてはいかがだろうか。
 
今回の制度は株価評価が高くなりすぎている会社に活用するものだが、以前のように退職金を支給し、株価評価を引き下げる手法や暦年贈与を活用する手法は有効なので、自社に合った方法での対応が重要と考える。
 
ただ株価が高くなりすぎて困っているところは、今回の「事業承継税制」を大いに活用してはいかがだろうか。応援しています。
 
2018年1月29日    税理士  千葉和彦