相続・贈与・信託・遺言

2024年5月 1日 (水)

家族信託の活用

 当事務所では10年程前からこの「家族信託」に取り組んできたが、ここ数年でやっと周りにも浸透し始めた感がある。「家族信託契約」とは、家族に財産を信託して管理してもらうことで、受託者が親族で受けることが多いため「家族信託」と言われる。例えば下図のように委託者が父親で、受託者が長男、受益者は父親が健在のうちは父親で、死亡した際の次の受益者を指定しておくというものだ。この場合、信託契約を終了させることもできるが、指定された次の受益者で信託を継続していくことも可能だ。それに対して「商事信託」とは、信託会社や信託銀行に財産を託して管理してもらう形だ。信託会社や信託銀行は、営利を目的にするため、報酬も当然発生する。

 家族信託で一番多い活用法は、「認知症対策」である。認知症になると、遺言や不動産取引、相続税対策などが一切できなくなる。もちろん銀行口座も凍結され(家族が施設費用を引き出すなどに限り一部引き出しが認められつつあるが、資金使途の証拠資料を提出しなければならず手続きが面倒だ。)やむなく成年後見人を立てざるを得ないが、成年後見人は本人の財産の保護が目的なので、施設の費用を引き出すことはできるが、相続対策のためにアパートを建てることなどの行為は本人の財産を減らすことになるので出来ない。

 それに対し、信託にしておけば、自宅(自宅を信託しても権利として当然住み続けることはできる。)、アパートの建築や大規模修理や場合によっては売却までも受託者が実行することができる。

 この「家族信託」だが、当然のことながら家族に信頼して財産を託せる人がいないと成立しない。勿論この場合親族でなくて信頼している友人でも構わないが、現実には難しいと考える。ただ事業オーナーの場合には、自社の別法人(一般社団法人・不動産管理法人など)を受託者として、更に信託監督人を選任しておく方法を活用して信託契約する方法がある。その場合の信託契約も委託者(父親)と受託者(別法人)の間の信託契約はできるだけシンプルな形にして、信託監督人には事例の取り扱いが多い税理士、司法書士へ頼み、しっかり公正証書にしておく形を勧める。自分でできないこともないが、色々と落とし穴があるので、注意が必要だからだ。皆さんの早い決断を祈ります。

Image0_20240523115401

2024年4月 1日 (月)

遺言について

 コストもかからず、すぐに取り組めるのが自分で遺言を書くことだ。(自筆証書遺言)通常は、白紙の用紙にボールペンか筆で書く。ただし、この自筆証書遺言だが、本文のすべて、署名、日付は必ず自筆で書き押印しないと無効になる恐れがある。何通か私も自筆証書遺言書を預かっているが、預けた人の中には、私より若い人もいて、その人に何かあった時に責任を果たせるかどうか気が気でならなかった。そんな時、2020年に自筆証書遺言の法務局保管制度が始まり、早速、私の手から法務局に預け替えしてもらうようにし、肩の荷を下ろした。法務局では、預ける時に最低限の形式的要件を満たしているかどうかの確認もしてもらえ、費用も格安なことから、すでに20241月までに67000件を超える保管申請があったようだ。家庭裁判所での検認も不要ということで、使い勝手が良いが、公正証書遺言と異なり、遺言の内容についての有効性までは保証されていない。

 また、自筆でしっかり遺言書を書いていても、自分に不利な内容を書かれた相続人の中には「本当に親が書いたものか」「親の本心ではないのでは」とか疑う人もいる。そこで出来ればこっそり書かないで、生前会議のようなものを開いて相続人に自分の意向を伝えておくのが良いと思う。また法的には弱いものの、遺言書の付言事項に自分の思いを書いておくことも後日の争いを最小限に抑えるのには効果が大きい。遺言漏れをなくすために、「残りのすべての財産は・・・」の文言を忘れずに遺言の中に入れておく必要がある。もし漏れていた場合には、その財産について相続人の間の遺産分割協議になり、まとまらないことが多いからだ。私は、出来れば少しコストがかかるが、公証人役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」をすることを勧めている。それは、せっかく残した遺言が無効になることがないからだ。そして、「自筆証書遺言」でも「公正証書遺言」でも最後に遺言執行者を指定しておくことを付け加えておく。

 私が永年にわたり、顧問させていただいた会社の会長が数年前に、長寿を全うされ、亡くなった。実はこの会長には何十年にもわたり、遺言を勧め、本人もその必要性を十分に理解し、何度も遺言を書こうとしたが書けないまま亡くなった。これは世間にはよくあるケースかも知れない。通常の場合は、相続人よる遺産分割協議が進まず、申告も未分割でせざるを得ないことが多々ある。しかし、この会長の場合は相続人の間で揉めることもなくスムーズに手続きは進み、申告も終了した。何故なら、何度挑戦しても遺言が書けない会長に私は「家族信託」を勧め、会長もそれならできそうだということになり、会長の資産をすべて盛り込んだ「家族信託契約」を締結していたのだ。当初の委託者は、当然会長、受託者はグループの資産管理をしている別会社、受益者は会長だ。死亡後の委託者、受益者を指定していたため、相続財産の移行がスムーズに進んだ。預金を信託にして預けていたので預金口座も凍結されず日常業務が停滞しなかった。不動産の名義も受益者の変更の登記なので、登録免許税も格安で済み、相続後の名義変更等の手続きのコストが抑えられた。そのようなことから次回は、「遺言」以上の強力な効果のある「家族信託」について書きたいと思う。

 

2024年3月 1日 (金)

分掌変更による役員退職金

最近、社長の退職金の相談が多い。丁度、創業者が70代に差し掛かり、後継者への事業承継が多くなってきたことがその原因だ。多くの場合は、創業者もまだまだ元気なので、代表権はなくなるものの会長として残るケースが多い。いわば「非常勤取締役会長」として新社長を後方支援する形だ。新社長も会長の実践を踏まえた長年の経験と勘は、とても心強く、まだまだ頼りにしているのが現実だ。会長となった前社長には、代表取締役退任に伴い、退職金が支払われるケースが多い。この場合の退職金の金額は、過大退職金として否認されないように支給することは勿論だが、それ以上に退任そのものを否認されないよう気を付けなければならない。退任したと認められなければ、支払った退職金は全額否認されるからだ。

 役員退職金の額は、法人税法上、損金算入が認められ、所得税法上も退職所得となり有利な取り扱いになっている。しかも役員退職金を出した翌期は株価も下がるケースが多く、そのタイミングで自社株の移転などの対策も取りやすいというメリットもある。そのため逆に否認された場合の負担は大変なものになる。否認された役員退職金は法人税では役員賞与と見なされ全額損金不算入となる。法人は修正申告をし、修正分の本税を支払う上に過少申告加算税と延滞税が付いてくる。また役員賞与=給与所得と見なされ、その分の源泉所得税を徴収しなかったとして、こちらも本税は勿論だが不納付加算税と延滞税が付いてくる。さらに社長自身も所得税の修正申告をすることになり、所得税が急激に増え、言うまでもなく、過少申告加算税と延滞税が付いてくる。これがいわゆる「トリプル課税」と言われるものだ。否認されないためには、あくまでも「実質的に退職したと同様の事情にあると認められる」ことがポイントだ。代表権を返上し、役員報酬を下げただけでは退職したとは認められない。退職した後も、退職前と同じように出勤して、取引先、銀行等と交渉したり、会社の採用や昇給に口を出したり、会社の大きな設備投資の決済などをしている場合には、退職前と同様の経営上主要な地位を占めていると考えられ実質的には退職してないとして、退職金は全額否認されてしまうので注意が必要だ。社長の中には、「調査が来るときには会社に来ないようにしますよ。」などと軽く考えている人もいるが大きな間違いだ、調査官はその会社の社員や取引先にも聞き取り調査を行うからだ。私は「退職金をもらい退職した社長は、週に半分くらいの出勤にして、できるだけ取引先や銀行の交渉には前面にでないように」と話している。つい先日までバリバリ仕事をしていた社長には辛いと思うが、仕方がない。いつの世も世代交代は避けて通れないものだ。そこで、新社長にいつも私がお願いしているのは、退職した会長への定期的な「報告」である。普段からコミュニケーションを取り良好な関係を保っていれば会長の孤独感も少しはやわらぎ、社長自身も後方支援を受けやすくなるからだ。新会長、新社長・・応援しています。

2024年2月 1日 (木)

常に自社の出口を考えておこう!

人はこの世に生を受けたときから死に向かっている。肉体は有限だからだ。会社は生身の肉体は持たないので、永遠の命かと思いきや会社も創業した時から倒産・廃業に向かっているのだ。会社を取り巻く環境は厳しく、事業者数は、創業20年で半分に減り、100年以上の老舗となると1%以下の生存率だ。この生存率を見ても経営者は常に出口も考えておく必要があると言える。以前にも話したが、会社の出口は5つしかない。それは、①上場②親族あるいは社員等への事業承継③M&A④自主的廃業による解散、清算⑤倒産・破産だ。①は全事業者の0.1%だけが成し得る特別なケース。私の知り合いでは今まで1人だけだ。今や東証1部で自己資本比率80%の超優良企業だ。会社設立時、私もお手伝いしたが、まさかこのようになるとは夢にも思わなかった。創業者が、時代のニーズを敏感に感じ、追い風に乗りながら進んだ結果だと思う。また⑤は当然避けなければならないケースだが、避けられない場合もあるのが経営だ。一度⑤のケースを選ばざるを得なくなったが、再起業し成功している人も私の知り合いにいるが、日本ではなかなか再起業は難しいというのが私の実感だ。それは破産することで多くの人に迷惑をかけ、信用を失ってしまうからだ。勿論、資金調達も難しくなる。2020年4月の改正民法で連帯保証人制度の見直しがあり、連帯保証人の負担が幾分緩和されたが、法人破産をすると個人破産も同時に行わざるを得ないケースがいまだに多い。そうなると個人の信用情報が信用情報機関に5年~10年登録されてしまい、再起しようにも金融機関からの借り入れができないのだ。また已むを得ず「破産」をせざるを得なくなった場合にも、先立つものはお金だ。お金が用意できないと破産手続きにも進めない。しかしだからと言って「夜逃げ」だけは決してしてはいけない。夜逃げをしてしまうと再起の道が完全に閉ざされるからだ。まずは専門家の弁護士に相談することが重要だ。しかしながら、多額の連帯保証を抱えてしまった経営者の方でも「自己破産」せず、金融機関の理解を得ながら規模を縮小して何とか頑張られている方もいる。お客様がいて何とか売り上げがある程度確保できる場合には、安易に自己破産せず上手に経営を続けていければ、信用も失わず、自宅も失わず暮らしていける。高齢の経営者が自己破産して、再就職は現実問題として難しい。年金は差し押さえもされないので、慣れた仕事で自分のマインドを保ちながら仕事を続けるのが一番と私は考える。安易な「自己破産」はできるだけ避けたいものだ。

さて、廃業や倒産・破産があり得ることだと心得てほしく、説明が長くなってしまったが、上手に事業承継している企業も多い。その多くは常に自社の数値を把握し、分析、反省、改善を欠かさない。そのために、経営計画や承継計画も立て、常に5年先、10年先のわが社の姿を検証しながら進んでいる。最悪の出口を避けるためにも日頃から自社の数値を把握し、経営計画をしっかり立てて進んでほしい。そうすれば必ず最悪の出口は避けることができると確信している。そのための後方支援のお手伝いは、是非我々にお任せください。

 

2023年11月 1日 (水)

持株会社を活用した事業承継対策

持株会社は経営戦略の一つとして作られ活用されるのが本来の目的だが、昨今は事業承継対策として活用されるケースも多い。一般的なケースは、後継者が新規会社を立ち上げ、その新規会社が金融機関から融資を受け、先代の持っている株式を買い上げ、自分が承継する会社をその新設会社の子会社とするのである。そこで新設会社は持ち株会社として機能することになるのである。金融機関からの融資額はかなり多額になるケースが一般的で、その返済原資は、子会社からの配当になる。かなり業績の良い優良会社が子会社でないと成り立たないスキームでもある。しかし、その効果も大きいことは間違いない。まず先代が保有していた株式を売却することにより自社株式は相続財産からはずれるため、遺留分の対象にもならない。また、株式は売却されてしまうので、当然のことながら株価が以後、いくら上昇しようと心配はなくなる。また、ここで、先代は多額のキャッシュを手にすることになり、そのキャッシュを老後資金の確保、相続税の財源などにすることもできる。

 

 注意点としては、先代が株式を後継者の持株会社に譲渡する際に、譲渡所得税等の課税を受けるケースが多く、その税金を差し引いた手取り額は、さらに先代が使い切れなかった分に対して後継者が相続税の課税を受けることになる。また事業会社の業績悪化等により、返済に見合う配当が出せず、返済が出来なくなってしまうリスクもあることに十分留意すべきである。このスキームを活用する場合は、これらのリスクも十分に考慮しておかねばならない。

 

 そこで同じ持株会社でも借り入れをせずに、現金も使わずに、持ち株会社を作る方法がある。株式移転という方法だ。現在の事業会社の株主が、全員その新会社に株式を現物出資し、その対価として新会社の株式をもらう方法である。従って、新会社の株主もその事業会社の株主構成と同じ形になる。ただ、前の手法と違い、ここではもう一仕事必要になる。それは、先代から後継者は新会社の株を譲ってもらわなければならないのだ。しかも、後継者は、先代からその株式を譲り受けるにあたって、できるだけ株価を引き下げることが重要だ。引き下げる方法としては、いろいろ考えられると思うが、例えば、一例としてだが、その持株会社が事業会社の不動産を買い取るなどである。その時に、はじめて借入を活用することになる。不動産の場合だと3年後に相続税評価額になるから、時価と評価額の乖離でほぼ間違いなく自社株式の評価は引き下げられるのである。そして評価が下がった時点で、先代の株式を贈与等で異動させるのだ。

 

 いずれにしても、持株会社を作る場合は、注意点がいろいろあるので、事前に当事務所にご相談ください。

最近は、急に朝晩は冷え込むようになってきました。お身体ご自愛ください。

2023年10月 2日 (月)

特例事業承継税制の提出期限迫る!

 令和4年の税制改正で提出期限が1年延長され、令和6年3月31日になったのもつかの間、特例事業承継税制の届け出期限が半年後に迫りました。この特例を使うことに関しては、専門家の間でも賛否両論があるのは、周知の通りです。私もどちらかというと今まで消極派でした。できれば後世に引きずらないで対策を終えておくのが一番と考えてきました。

具体的には、自社株の評価を引き下げて、自社株の評価が下がった状態で相続時精算課税を活用し、後継者に贈与するのが一番と考えてきました。自社株の評価を引き下げるには、先代が退職するタイミングで役員退職金を支払うと、ほとんどの会社は一時的ではありますが、赤字になります。当然のことながら翌期には自社株の評価額は、下がりますので、そのタイミングで後継者に相続時精算課税で贈与します。しかし、何社かの顧問先に頼まれてシミュレーションしましたが、株価が高くなりすぎているところは、焼け石に水の状態で多額の贈与税が発生することがわかりました。(贈与額2500万円を超えた部分に、20%の贈与税がかかります。)しかも、その贈与税は後継者が払わなければならないので、後継者に大変な負担が生じます。金融機関の中には、贈与税分を後継者に融資することを前提にそのスキームの提案をしているところもあります。

 特例事業承継税制は、何度も改正が繰り返され現在の制度に至った経緯から、わかりにくいことが、多くの企業が取り組みにくくなっている原因の一つと考えられます。先日ある方が私にこの制度をラグビーのボールに例えて説明してくれました。すなわち、ボールを持ち続けている間は、納税猶予され、そのボールを落とした時に課税が生じるというものです。ボールを持ち続けるためには、まず5年間は、代表を続け、株式も持ち続けなければなりません。有名なジャニーズ事務所の後継者の方が代表を下りないのもここに理由があると思います。

この制度ですが、贈与から5年以内は多少厳しめの要件がありますが、5年経過すると比較的緩やかな要件のみになります。まず、厳しめの当初5年間でボールを落としたと認定される場合について列挙してみます。(ボールを落とすと猶予税額+利息の納付が必要です。)

① 後継者が代表者でなくなった。(事故等の已む得ない場合を除く。)

② 一族の議決権が50%以下になった。

③ 後継者が一族の中で筆頭株主でなくなった。

④ (一株でも)対象となった株式を売却した。

⑤ 本業を廃業した。(不動産賃貸業になったなど)

⑥ 毎年の報告、届け出を怠った。遅れた。

では、次に5年経過後にボールを落としたとされる場合にはどのようなものがあるでしょうか?

① 対象となった株式を売却した(売却した分のみ取り消し)

② 本業を廃業(不動産賃貸業になった場合など)

③ 3年おきの届け出を怠った。遅れた。

 また上記の理由で5年経過後にボールを落とした時には、5年間の利子税は免除されます。そのため、贈与・相続時には贈与税・相続税は払えないけど、5年経過後であれば資金繰り的にも払える目途があるのであれば、いったん事業承継税制を適用して納税を猶予しておき、5年経過後取りやめの届出書を提出すれば、本税だけの納付で済むようです。

また、5年経過後に業績が悪化し、売却や解散した場合には、売却や解散時の株価等をもとに再計算し、差額は免除されるというセーフティーネットが敷かれています。なかなか複雑な制度ではありますが、事業承継の選択肢に是非加えていただきたいと思います。応援しています。

2023年9月 1日 (金)

再度、「生前贈与」の改正について

前回に引き続き今回も「贈与」について書かせていただきます。まずは「生前贈与」の改正点について整理していきたいと思います。

 まず、最初に確認すべきは、改正の適用は令和611日以後に行われる贈与からで、令和51231日までは、従来通りということです。それで年内の駆け込み贈与を推奨するような記事が出回っているわけです。しかし、前回も書かせていただきましたが、親族間の資産移転は節税だけに目が行くと、親族間が不和になったり、親の資金が足りなくなったりと思わぬ落とし穴があったりしますので、慎重に進めてほしいと思います。これは、過去に実際にあった事例ですが、ある父親が、長男のお子さんたち(孫さんたちです。)に長年贈与をしてきました。しかし、次男には子供がいなかったため、次男の方には、贈与をしていませんでした。次男はそのことを日頃から不満に思っており、父親死亡後の遺産分割協議で、その生前贈与分も遺産総額に含めて分割することを長男に強く主張したため、長男ともめてしまったのです。このように、親族間の感情というものは存外、複雑なところもありますから、何度も言うようですが、贈与は慎重にしなければなりません。

 今回の改正では、「3年持ち戻し」が「7年持ち戻し」になりました。非常にわかりにくいのですが、完全に「7年持ち戻し」になるのは2030年(令和12年)からです。それまで順次7年に近づいていくイメージです。この持ち戻しには、基礎控除110万円以下で贈与の申告不要な場合もすべて持ち戻されることも念頭に置いておいてください。

 今回の改正では「相続時精算課税制度」にも来年から基礎控除110万円が設けられました。こちらは、基礎控除の110万円であれば申告も不要ですし、持ち戻しの対象からも外されています。単純に考えると、どうせ持ち戻しされるなら基礎控除分を持ち戻さなくて良い「相続時精算課税制度」を利用される方が増えるかもしれません。ただし注意していただきたいのは、この「相続時精算課税制度」は後戻りできない制度ということです。一度選択してしまえば、その選択をした贈与者、受贈者間の贈与はすべて「相続時精算課税制度」しか取れないということです。慎重に判断する必要があります。ただ私の経験では、過去に、土地や自社株式の贈与で、この制度を利用された方は現在になって喜ばれている方が多いように思います。それもこの10年間土地と自社株式の評価が大きく上昇しているケースが多いからです。現在の評価額にかかわらず、過去に贈与した時点の評価額で取り戻して計算される「相続時精算課税制度」は、値上がりが予測される資産を贈与する場合には有効な相続税対策になります。従来の「暦年贈与」を利用するか、「相続時精算課税制度」を利用するかは、自身の年齢、健康状態と財産をしっかりと把握しながら対策を立ててほしいと思います。

2023年8月 1日 (火)

「今年が最後のチャンス・・生前贈与」

「今年が最後のチャンス」と題して各経済誌や週刊誌が特集を組んでいます。何のことかと言うと、相続税と贈与税の税制改正のことです。相続開始前の3年以内の贈与については相続財産に加算するという現行のルールは、1958年の税制改正で定められたものですが、実に65年ぶりにこのルールが改正されます。適用は202411日以降の贈与分からなので、巷では今年中に駆け込み贈与をした方が良いと言っているのです。しかし、親族間の資産移転は、節税だけに目が行くと、親子間が不和になったり、親の資金が足りなくなったりと思わぬ落とし穴があります。自身の財産を把握し、また今回の改正を理解して、慎重に進めてほしいと思います。

 23年度相続・贈与に関する税制改正のポイントは下記の4点です。

① 相続財産に加算する生前贈与を今年までの相続では3年前の分まで加算すれば良かったのですが、来年度からの贈与については、亡くなる「7年」前以内の贈与が相続財産に加算されるようになります。ただ相続4年~7年前の贈与につきましては計100万円の控除も設けられました。

② 前回のエッセイでも取り上げましたが、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が新設されました。

③ 孫・子供の配偶者への生前贈与は、従来通り加算されません。これは今後の相続税対策でも従来通り使えることになります。

④ 教育資金贈与は263月まで、結婚・子育て資金贈与は253月まで使えます。

 生前贈与は確かに相続税の節税対策には効果が大きいですが、自分は節約をしながら、ほしいものも我慢し、質素に暮らしながらお子さんや孫さんに贈与されている方を見ると何か違うなと感じます。親子だから、一族だから当然という思いもあるのでしょうが、もらった方も、もらった時はうれしいと思いますが、すぐに忘れるのが常ということです。多額の贈与を受けてきた人から感謝の言葉をあまり聞いたことがありません。東南アジアのタイ国などでは、「もらってあげる」ということで、その上げる人に徳を積ませているのだという考え方なようです。これから贈与する方は、タイ国のように、徳を積ませてもらっている、もらって頂いて、ありがとうという感覚でないとならないかもしれませんね。それが嫌な方はむやみに贈与などすべきではないでしょう。まずは自分の楽しみに、そして老後のために残しておいてください。老後いくらお金がかかるかわかりませんからね。

私が最優先で贈与を考えなければならないと思うのは、「自社株」です。事業を引き継いでくれる後継者には、一日も早く自社株を贈与していくべきでしょう。自社株だけは後継者になかなか譲らず、現金は子供や孫にどんどん贈与していっては本末転倒と言うものです。そう言うと、「俺だって早く贈与したいよ。しかし贈与したくても自社株の評価が高すぎて踏み切れない。」と頭を悩ます方も多いようです。あまり株価評価が高すぎる場合は、まずは「納税猶予」の届け出をしておくべきでしょう。この届け出こそ1年延長されたものの来年3月で締め切りですからね。会社には後継者だけでなく、社員、取引先など多くの方の生活がかかっていますので、まずはこちらを急ぐべきだと思います。

2020年2月 5日 (水)

「配偶者居住権」が今年4月から施行!

平成30713日に民法の相続分野が、約40年ぶりに改正され、公布されました。施行は、この公布日から2年以内の政令の定める日からとなっており、順次施行されてきました。平成31113日の「自筆証書遺言の方式緩和」、令和元年71日には「遺産分割の見直し(配偶者間の居住用不動産贈与の持ち戻し免除の推定・仮払い制度の創設)「遺留分制度の見直し」「特別寄与制度の創設」が施行された。

 

「配偶者居住権」とは?

令和24月からはいよいよ「配偶者居住権」が施行されます。「配偶者居住権」とは、被相続人の持ち家に住んでいた配偶者が、被相続人が亡くなった後、その家を相続しなくても、自分が亡くなるまで無償で住み続けることができる権利で、遺贈、遺産分割協議、審判手続きで配偶者居住権が認められた時に取得することが出来ます。それに対し、「配偶者短期居住権」というものもあり、こちらは、被相続人の建物に居住していた配偶者なら、何の条件もなく遺産分割完了あるいは6ヶ月間のいずれか遅い日まで、無償で住み続けることができるというものです。

この制度は、ちょっと揉めそうな家族関係で活用されるのを前提にされているように思います。普通の家族関係では無理にこの制度を使う場面が想定できないからです。何故なら、このような場合も仲の良い親子なら法定相続分にこだわらず、お母さんに現金を渡すこともできるからです。いずれお母さんの相続で自分にまわってくるという考えもあります。先妻の子は、養子縁組でもしていない限り、今回の相続で終わりですから、シビアにならざるを得ないのかもしれません。例えば、自宅(2000万円)と預貯金(2000万円)が相続財産と仮定します。相続人は、2人で1人は、現在の妻でもう一人は先妻の子というケースです。妻は今後の生活もあるので、住み慣れた自宅は、どうしても必要です。そこで、遺産分割協議により、法定相続分通りにししようということになり、めでたく自宅を相続することになりましたが、自宅だけで法定相続分になってしまい、現金は相続できないことになります。妻は老後の生活費として、どうしても現金も必要です。そのような場合に、今回の「配偶者居住権」(所有権はないが、終生住み続ける権利がある。)が効果を発揮します。配偶者居住権の評価は、家全体の評価より低くなります(評価は配偶者の相続時の年齢によって変わります。)から、法定相続分の中で、現金を受け取ることもできることになるからです。結果、妻は住み続ける権利と老後の生活資金も確保できることになります。

 次回は「配偶者居住権は節税に効果あるのか?」ついて説明したいと思います。

 

 

2020124日 著者 税理士    千葉 和彦

 

2019年12月 4日 (水)

子供に相続権があるなんておかしい!

 先日、弁護士、公認会計士、税理士の資格を持ち、若い時に会計事務所にも勤務していたことがあるという先生のセミナーを受講した。先生は、開口一番「だいたい子供に相続権があるなんておかしいと思う。」と言い放った。私も戦後に改正された民法の法定相続制度には納得がいかなかったので、通じるところがあった。父が死亡した場合、残された母の面倒をみながら、家を守る子供以外の子供が相続権を持つから揉め事が絶えなくなったのだと思う。とっくに他家へ嫁いだ妹の旦那までが出てきてあれやこれやという場面にも何度か直面し、不快な思いをしたのも一度や二度ではない。先生曰く、「子供たちが、親の資産形成に何か協力しましたか?子供は費消してきただけではないですか?資産形成に協力してきたのは配偶者だけではないですか?(後妻等で何らその資産形成には協力してこなかった方もいますが・・。)そのことから離婚する場合は、妻は婚姻後に増加した財産の半分の取り分を持つのです。妻の法定相続分が2分の1では、妻は自分の取り分を取り戻すだけです。」と。

 5年前に相続税の基礎控除が引き下げられてから、少しだけ相続税を納める方が増えた。従って、相続税の申告が必要な者は、過去死亡者の4%から8%に申告者が倍増したと言われている。私が考えるに、それは法定相続分で申告しているからではないだろうか?妻が全部相続すれば、配偶者の非課税枠が使えて相続税は0になるはずである。住まいに小規模宅地の評価減を活用すれば、税金はかからないケースがほとんどだからだ。相続人が納得すれば、どのように分割しても自由なのだから、まずは、配偶者へ相続させるべきではないだろうか。ただし遺産総額5億円超の死亡者の0.7%の人たちには別途対策が必要なことは言うまでもない。

 今回の民法改正で「配偶者居住権」というものが新たに創設された。この制度は、居住用財産の所有権を相続しなくても居住し続けることができる権利で、所有権と居住権を分離したことにより、遺産分割をする際の選択肢を広げたものだ。しかし、遺産分割協議は必ずしも法定相続分で分ける必要がないので、わざわざこのような制度を活用しなくても良いケースも多いと思う。その上、新しく創設された「配偶者居住権」は、まだまだ不明点が多いのも事実だ。例えば、配偶者の自立生活が難しくなり、介護老人ホームへの入居が必要になった場合には、介護老人ホーム入居後の居宅は、空家として放置するようになるのか?換金しようと思っても、配偶者居住権が設定されている土地建物では換金もできないのではないのではないか。又は土地を所有する者が事業資金を借用する場合に担保価値が認められないので、担保として活用もできないのではないか・・などである。そのため、この制度の活用は慎重にしていきたいと思う。

2019年11月28日  著 者   税理士 千葉 和彦

より以前の記事一覧