相続・贈与・信託・遺言

2018年2月 1日 (木)

平成30年度税制改正の目玉‥事業承継税制

 平成30年度の税制改正の目玉は何と言っても、「事業承継税制の改正」だ。今年度4月1日以後スタートする。
 
当初経済産業省は、ドイツなどに「5年で免除」の制度があるということで、我が国も同じく事業を5年継続したら猶予税額はすべて免除することを提案していたようだ。
 
しかし実際に財務省がドイツに行って調べてみると、遊休不動産、賃貸不動産、余裕資金を除いた事業用財産にかかる分だけが免除だったことが判明したため5年で免除案は受け入れられなかったようだ。
 
 今回の改正は新たに創設されたもので、前の「事業承継税制」は、そのまま生きていることにも注意が必要だ。
 
各新聞紙上では10年間の限定で、と書かれているが、今回の改正では、5年以内(平成35年3月31日)に認定経営革新等支援機関の支援・援助のもとに「特例承継計画」を都道府県に提出することが条件であり、
 
それから5年以内に自社株の贈与の実行をすることが大前提なので、提出が5年後ぎりぎりになった場合に、そこから5年以内にということで、10年限定という書き方をしているのだ。
 
届け出はあくまでも5年以内が条件であることに注意が必要だ。
 
自社株の贈与の実行は、平成39年12月31日までが条件なので、正式には9年9ヶ月に限定された制度になる。
 
もし提出後、5年以内に代表者が自社株の贈与をせずに死亡した場合は、相続税の納税猶予として、当然この猶予制度は使えることになるので、まずは提出しておくというのも一つの対策になるだろう。
 
たとえ使わなかったとしても特に罰則はないのだから、まずは提出しておきたい。
 
仮に、提出を忘れ、代表者が死亡した場合でも前の「事業承継税制」は使えるので決して諦めてはいけない。
 
ただしその場合の納税猶予は80%しかできず、しかも80%の雇用継続要件からも逃げることはできない。
 
 今まで、この制度が活用されなかった一番の理由は、80%の雇用継続要件だ。
 
今回は、この要件も実質撤廃と言ってよい。
 
もし雇用が80%維持できなかった場合には、経営革新等支援機関を通じて、なぜ達成できなかったか等の実績報告を提出し、妥当と認められればOKということになるからだ。
 
これはOKを前提にしたものと考えられる。
 
 また出口のリスクも今回軽減されている。
 
5年経過後に株式を譲渡、合併、清算をした場合に、その時の株式の時価分の税金しかかけられず、その差額分は免除されることになった。
 
このように使い勝手が良くなった「事業承継税制」だが、今まで通り、資産管理会社には適用できないのが残念だ。
 
不動産や預貯金、有価証券の割合が70%を超えるか、又は家賃収入が売り上げの75%を超えると、その会社は資産管理会社と見られてしまう。
 
しかし、従業員を5名以上(生計を別にした親族でもOK)雇用していれば、資産管理会社と見られないので、対策の一つに加えてはいかがだろうか。
 
今回の制度は株価評価が高くなりすぎている会社に活用するものだが、以前のように退職金を支給し、株価評価を引き下げる手法や暦年贈与を活用する手法は有効なので、自社に合った方法での対応が重要と考える。
 
ただ株価が高くなりすぎて困っているところは、今回の「事業承継税制」を大いに活用してはいかがだろうか。応援しています。
 
2018年1月29日    税理士  千葉和彦

2017年12月27日 (水)

自社株の評価が高すぎて、打つ手がない!

「自社株が高くなりすぎていて、打つ手がない。」と途方に暮れていた経営者の方にとって、まだ詳細は決まっていないが、今回の事業承継税制の改正は朗報だ。

 農家には大きな納税猶予の制度があるのに、何故中小企業の納税猶予制度は、条件が厳しい上、猶予額も少なく、使い勝手の悪いものなのかと常々疑問に思っていた。中小企業の自社株式は農家の田んぼや畑と同じものだ。事業を続ける限り持ち続けなければならず、上場株式のように売却して現金化などできないのだ。

 自社株対策と言えば、「できるだけ株価評価を引き下げて後継者に移転する。」のが原則だ。株価評価を引き下げるには、まず利益を引き下げなければならない。そのためには戦略的に損金を作る必要があった。そこで役員退職金の支給、オペレーティングリースや保険の活用で損金を作り、その期の利益を引き下げる。

 しかし内部留保がたっぷりある会社には効果が薄い。それではとそこで借入をし、不動産投資を行う。3年間待てば評価が下がり、ある程度の効果は見込める。

   こうしてあれやこれや試してみるが、それでも老舗の優良企業の株価は、おいそれとは下がらないのが現実だ。しかも血のにじむような努力で、やっと少し下げたのに後継者が、いなかったり、いてもまだ株式を渡すには早かったりと、後継者問題がつきまとう。何とも頭が痛い話だ。

  そこでそのような時のために、持株会社を作り、そちらに譲渡しておく手法がある。この持株会社は通常は株式会社が常道だが、株式会社ではその資本金の相続の問題がいつまでも付いてくるので、この持株会社を少し工夫して一般社団法人にする。

   一般社団法人に自社株を売却しておけば、後継者が決まった段階で理事長交代により、簡単に承継することができる。しかも最大の効果は、一般社団法人に自社株を入れてしまえば、そもそも一般社団法人は資本金のない会社だから永遠に自社株の相続の問題から解き放たれるという夢のような話だ。

   ところが今回この夢のような話にも一般社団法人の理事がほとんど親族の場合は一般社団法人に入れた財産にも相続税をかけようという規制が入りそうだ。しかし、ここで誤解してならないのは、一般社団法人そのものが否認されるということではないことだ。一般社団法人は、家族信託の受託者としても大いに活用できるし、株式会社と同じくどんな営利事業でもできるのだ。一般社団法人は、使い方次第で、まだまだ活用の余地は大きいと思う。

 事業承継に取って一番鍵になるのが何と言っても、この自社株の引き継ぎだ。いかに税負担を少なく、しかもスムーズに後継者に引き渡せるかが命運を握る。来年はこの事業承継税制が使い勝手良いように改正される。しかし10年という期間制限つきだ。

  今まで株価が高すぎてどうしようもないと自暴自棄になっていた社長もこの機会に自社の事業承継を見直すチャンスだ。上手に自社株を引き継げれば、100年企業への仲間入りも決して夢ではない。国もそのような会社が一社でも多くでてきて未来永劫税金を払ってくれることを望んでいるのだ。諦めずに知恵を出すことで、必ず未来は切り開けるものと確信している。

  経営者の皆さん今年も一年間本当にお世話になりました。来年もよろしくお願いします。


2017年12月24日(日) 著 者  税理士   千葉 和彦 

2017年11月30日 (木)

広大地の評価改正・・地主さん増税・・年内に対策を!

 平成30年1月1日以降に相続、遺贈又は贈与により取得した広大地の評価の方法が変わることが本決まりです。

  ざっくり話せば今回の改正で、これまで広大地に該当していた土地の評価額が約30%以上高くなります。もし対策をするなら年内にその土地の贈与契約を済ませましょう。ただし、ご存知のように贈与税はかなり高いので二の足を踏まれる方も多いと思います。

  その場合は、相続時精算課税を活用します。相続時精算課税制度とは、60歳以上の親・祖父母から20歳以上の子や孫に評価額で2500万円までは非課税で、それを超えた分には、一律20%の税率で贈与税が課税されるというものです。将来相続が発生した時にその贈与時の価格で加算され、先に収めた贈与税はその時の相続税から差し引かれ精算されます。いわば相続税の前払いと言われる制度ですが、2500万円を超える分の金額には20%の贈与税が課されますので、税額が大きくなることも考えられます。来年3月までに納付しなければならない贈与税の資金繰りも考える必要があります。

 「広大地の評価」は、宮城県の場合は1000㎡以上の土地を所有している場合に適用されるものです。この評価方法を適用すると約半分から三分の一に評価が下がり、地主さんには喜んでいただける評価方法でした。しかし、適用要件がかなり曖昧なため、判断が難しく税務当局との争いが絶えませんでした。そこで今回「広大地の評価」は廃止され、代わりに「地積規模の大きな宅地の評価」が新設されたのです。 広大地の評価の時と面積基準は変わらず1000㎡以上が対象になります。

 そのほか条件は①「普通商業・併用住宅地区」又は「普通住宅地」に所在していること②容積率400%以上の土地には適用されない。と適用条件が明確になっており、適用の判断がしやすくなります。今までの広大地評価では土地の形状を考えませんでしたが、新しい評価方法では不整形地補正も考慮されます。しかし、規模格差補正率が大幅に引きあげられることから、余程地形が悪い土地でない限り、前述のように評価が上がることになります。広い土地を所有している地主さんは検討してみてはいかがでしょうか?

 贈与契約をするなら、平成29年12月31日までに、贈与を行うことが必要です。そして、翌年2月1日から3月15日の間に相続時精算課税制度による申告をすることになります。(もちろん暦年贈与もできます。ただし、この場合税額が大きくなることが想定されます。) 具体的には、現在の計算法による広大地の評価をし、贈与税額を算定します。その上で贈与契約書を締結し、できれば確定日付を取っておくと証拠能力が上がります。また贈与は登記が要件ではありませんが、できるだけ早く登記を済ませることも必要です。できれば申告までに間に合わせるようにしましょう。

 とにかく何はともあれ贈与の意思表示を明確にしておくことが重要です。 年末の慌ただしい時期ではありますが、相続税減額分を稼ぐと思えば力も入るのではないでしょうか?是非応援しています。

 

 

2017年11月22日(水) 著 者  税理士 千葉 和彦

2017年8月30日 (水)

そろそろ本気で事業承継を考えないと!

  8月のオーナーズセミナーでは、良くあるケースとして下記の事例を取り上げました。

【事例】

『私の父は、製造業を営むA社のオーナー経営者です。いわゆるワンマン経営者であり、年齢は70歳になりますが、常に生涯現役を言葉にしており、事業承継のことは一切口にしません。私は、息子で専務という肩書きはあるものの、経営に関する権限は一切なく、従業員の一部は、会社の将来を心配しているという声も耳にします。

 また、同業他社の二代目同士でよく会社の株価や相続税の話題があがりますが、実際A社株の株価が今いくらで、ましてや父の相続税がいくらになるか分からない状況です。さらに父個人の土地建物がA社の本社としての事業用財産になっています。

 したがって、他の二人の兄弟との遺産分けのバランスについても悩みどころです。しかし、当然、父にもそのような話を一切口にすることはできません。』

 上記のようなケース、多いのではないでしょうか?まず私が最初に思うのは、A社の社長は、一番大事な社長業をしていないということです。

何故なら、社長というのは何はともあれ自社の将来について常に考えている人のことを言うからです。この社長は自社の5年後~10年後についてじっくり考えているように思えません。

自分の年齢と自社の将来を考えた場合、必ず後継者問題が浮かんでくるはずです。社長業で大事な仕事は、経営計画を立てることです。そうすれば、必ずその延長線上に後継者問題があるはずです。

まず、A社長は後継者を決めることが大事です。そして、自社の株価評価は勿論ですが、個人的な財産も棚卸して自身の相続税のシミュレーションをするべきです。自社株の評価が高ければ、その対策を早急に検討しなければなりません。

いくら対策を早急にしても評価が下がらない場合には、平成25年度の改正で、以前より使い勝手が良くなっている「事業承継税制」の活用を考えましょう。

また後継者は決まっているが、まだ自分が現役中は、経営権を持っていたい場合や後継者候補が複数いて後継者を決めきれない場合は、一般社団法人に持たせておくといいと思います。あるいは信託を活用する方法もあります。信託を活用しますと、株式そのものは移動させても、経営権だけ自分に残しておくことが可能です。

「自分の目の黒いうちは、経営権を持ち続け、目を光らせておきたい。」時に、威力を発揮します。また上記の事例のA社長のように、相続財産が事業用財産と自社株しかないような場合は、事業を引き継がない他の相続人に対する遺留分対策も重要です。

自社株式と事業用財産はすべて後継者が相続できるように遺言してあげ、事業を引き継がない他の相続人に対しては、後継者受取人の保険に加入したり、あるいは相続した自社株式を自社で買い取れるようにしておき、後継者が代償金として現金を支払うことができるような仕組みを作ってあげておくことが重要です。

いずれにしても、A社長は、原理原則に戻り、本来の社長業である将来像をしっかり描いていきましょう。応援しています。

2017年8月29日    著 者  税理士  千葉 和彦

2017年8月 1日 (火)

信託の活用について

   前回は「信託」を理解するコツについて書かせていただきました。今回は、その「活用」ついて説明していきます。

信託とは、一言で言えば、「信じて託す」ことでした。ここでは、登場人物が3名登場します。すなわち委託者(託す人)・受託者(託される人)・受益者(実質上の所有者に見なされる人)の3名です。信託は委託者と受託者の間で「信託契約」を結ぶと同時に効果が生じます。

  以下信託が何故有効な対策になるのか見ていきたいと思います。

1 認知症対策として有効

   65歳以上の約5人に一人が認知症になり、2025年には認知症患者数は約700万人前後に達するとのことです。

認知症になると、遺言や不動産取引、相続税対策などが一切できなくなります。もちろん銀行口座も凍結され、親を施設にいれる資金も親の口座から引き出せません。

やむなく成年後見人を立てざるを得ませんが、成年後見人は本人の財産の保護が目的なので、施設の費用を引き出すことはできますが、子や孫に金銭を贈与したり、相続対策のためアパートを建てるなどの行為は、本人の財産を減らすことになるからまず認められません。

しかし「信託」を活用するとそれらの欠点をカバーすることが可能です。

2 事業承継対策に有効

  自社株式を長男に贈与した後、長男が死亡した場合、自社株式は事業に関わっていない長男の嫁に相続されるのが通常ですが、例えば、一緒に仕事をしている次男などに引き継がせることができます。

信託の仕組みを導入することで、民法の法定相続の概念にとらわれない柔軟な承継先の指定が何世代にわたっても可能になります。

3 不動産の共有化対策として有効

  遺産の大半が一つの不動産の場合、その不動産を共同相続してしまうことは大きなリスクを伴います。

つまり、共有不動産は、共有者全員が同意・協力しないと換価処分等ができませんので、共有者間で確執があると、不動産の有効活用ができなくなる可能性があります。

そこで、その不動産を信託し、受益権を共有化します。すると、共有者としての権利・財産価値は維持しつつ、管理処分権限を受託者に集約することができ、その結果、不動産の「塩漬け」を防ぐことができます。

4 遺産受取方法の多様化として有効

  一括で受け取るのではなく、毎月の生活費として「定額給付」にすることができます。

5 相続発生時でもスムーズな財産管理法として有効

  相続発生時から遺言執行が完了するまでの、資産凍結の期間を排除できます。

6 財産隔離機能を利用したリスクヘッジとして有効

  詐害行為にならない範囲においては、委託者の債権者からの差押えを回避したり、自己破産・民事再生による清算対象の財産から除外が可能になります。

「信託」そのものは直接「節税対策」にならないかも知れませんが、相続対策として重要な「遺産争いの防止対策」として大きな成果を生み出すことができます。

是非皆様も活用を検討されてみてはいかがでしょうか。応援しています。

2017年7月28日 著 者 税理士  千葉 和彦

2017年7月 6日 (木)

「信託」を理解するコツは?

   今回は、前回の約束に従い、「信託」について話を進めていきます。

巷では「信託」という言葉が大分聞かれるようになりましたが、まだまだ一般的ではないようです。それは「信託」が何となくわかりにくく感じられるからです。

信託を一言で言えば・・・「信じて託す」・・ことにつきます。そう考えれば簡単なことですが、登場人物が二人ではなく三人なので、話をややこしくしているようです。

さて、その登場人物は、委託者、受託者、受益者の三人ですが、この三者の関係をしっかり理解することが信託を理解するコツです。

まず例えば委託者が自分の財産の管理を受託者にまかせます。財産は受託者の名義に変わります(ここが最初の理解の難関です。)名義は変わりますが、それは受託者がその財産を管理、処分しやすいように名義が変わるだけで、真の所有者ではありません。

それでは真の所有者は委託者のままかというと、決してそうではなく、受益者が真の所有者になります。(ここが一番わかりにくいところですね。)

例えば委託者である父が自分のアパートを同族の法人を受託者として信託し、受益者を長男にしたとします。

アパートの名義は受託者になった同族法人になりますが、真の所有者は受益者の長男です。当然信託後のアパートの家賃は長男のものになるので、長男は毎年の家賃を自分の不動産所得して確定申告します。

しかし、これで「めでたし、めでたし」ということにはなりません。真の所有者が長男であるならば、信託した時点で委託者である父からアパートが贈与されたことになるので、のんびりと不動産所得の申告を済ませ、やれやれとしているところに、多額の贈与税が押し寄せてきます。

このように、真の所有者=受益者を誰にするかで、時には思わぬ税金が発生することがあります。

そうならないようにするには、委託者である父をそのまま受益者にしておきます。そうすると、委託者と受益者は同じ人物ですから、贈与税の問題もなくなり、不動産所得の申告も今まで通りです。

では、信託する前と何も変わらないではないか?という疑問が生じます。確かに税務上は特に大きく変わることはありませんが、(他の不動産所得と損益の通算ができないくらいです。)大きく変わる点があります。

それは、委託者である父親が認知症になったり、脳梗塞で倒れたりした場合です。認知症や脳梗塞で病状に伏し、意思表示ができなくなった瞬間から父親の財産は凍結され、銀行預金の解約も不動産や株式の贈与や売買などが一切できなくなります。これは大きなリスクです。何故なら父親の入院費用や手術費用さえも父親の口座からは引き出せなくなるからです。

このようなリスクに対処できるのが「信託」です。この「信託」をしていると受託者の判断で預金の引き出しだけでなく、必要であればアパートの修繕、売却などもでき、急な事態に慌てることもありません。

しかも信託契約は万が一の場合の次の受益者も指定しておくことができるため、遺言の代用を兼ねることもできます。遺言は敷居が高くてなかなか書けなかった人でも信託契約だと意外と抵抗が少なく簡単にできたりするケースも多いようです。

このように活用の仕方では大きな成果を生むことのできるのが「信託」だということを是非皆さんにも理解していただけましたら幸いです。

2017年6月30日(金) 著 者  千葉 和彦

2017年6月 1日 (木)

65歳以上5人に1人が・・・!

    認知症は高齢になればなるほど、発症する危険が高まります。また、認知症は特別な人に起こる特別な出来事ではなく、歳をとれば誰にでも起こりうる身近な症状です。

厚労省の予測によると65歳以上の約5人に1人が認知症になり、団塊の世代が75歳以上になる2025年には、認知症患者数は約700万人前後に達するとのことです。

  認知症になると、まず困るのが遺言や不動産取引、相続税対策などがいっさいできなくなることです。平成18年、この認知症が争点となり、横浜地裁で「遺言無効」の判決がくだされました。しかも、無効の判決を受けた遺言は公正証書遺言でした。

話は7年前に遡ります。平成11年、80歳のAさんが遺言を作りたいと信託銀行に電話しました。銀行員は自宅を訪問し、多くの不動産について、相続人4人にどう配分したいかを聞き取り、メモにして公証人に遺言作成を依頼しました。出来上がった遺言書を公証人が読み上げ、本人が自署して、実印を押したとあります。

その後、相続が発生し、この遺言での取得財産が少なかった相続人から「遺言無効」の訴えがなされ、裁判所はこの遺言を無効にする判決を下します。

 判決では遺言作成2年前から本人の認知症が進行しており、すでに自分の年齢も、年月日も、自分の子供の数も分からず、嫁と孫の区別がつかなかったとあります。

これらの状況に照らせば、多数の不動産を4人の子に区別して分けて、遺言執行人についても項目ごとに区分して2名に分け、そのうち1人の執行人である信託銀行の報酬を決めることなど出来ないはず。よって遺言能力はなかったので「遺言無効」という判決でした。

遺言を依頼した親族側からすれば、信託銀行と公証人が受託するなら多少の認知症でも大丈夫だろう、と思ったのでしょう。しかし、認知症が進んでからでは、遺言は遅かったのです。

  相続が発生すると、銀行の口座が凍結されてしまうことは良く知られていますが、認知症になっても口座が凍結されてしまうことは案外知られていません。親が認知症になり、施設に入ることになっても、その資金を親の口座から子供が引き出すこともできません。

また、施設に入る資金がないので、その資金を捻出するために、親の住んでいた住居を売却して資金にしようと思っても当然一切できません。預貯金を動かすには成年後見人を立てざるを得なくなります。

しかし成年後見人は本人の財産の保護が仕事ですから、施設の費用等は引き出すことができますが、子や孫に金銭を贈与したり、相続対策のためにアパートを建てるなどの行為はまず認められません。それは本人の財産を減らすことになるからです。従って、遺言や相続対策は、認知症になる前にしっかり行っておくことが重要になります。

   『相続対策中に認知症になってしまうリスクに対処する方法はありませんか?』とよく聞かれます。その場合には、初めて耳にする方には、わかりにくいかもしれませんが「信託」という方法があります。

しかし、この「信託」も本人が認知症になってしまってからでは、不可能です。何故なら「信託」は「信託契約」という契約だからです。

次回は「信託」についてわかりやすく事例を踏まえてお話していきたいと思います。

2019年5月30日(火)   著 者   税理士   千葉  和彦

2017年5月 1日 (月)

追徴課税は40億円!長男名義の株を「相続財産」認定・・名義株を考える・・

   戸建て住宅販売大手の飯田グループホールディングス(GHD)が、創業者の相続に絡み、東京国税局に80億円以上の相続財産の申告漏れを指摘されていたことが明らかになった。

申告から漏れていたのは関連会社の「自社株」で、長男名義であったにもかかわらず創業者の財産に当たると認定されて40億円にも上る追徴課税をされた。

 東京国税局が申告漏れを指摘したのは、同GHDの創業者・飯田一男氏から長男に引き継がれた資産管理会社の株式。長男名義となっていたものの、取得に際しての資金を一男氏が負担していたことから「名義株」であると認定され、過少申告加算税などを含めて40億円の追徴課税が課されたのだ。

すなわち、税法上、このような名義株は名義人の財産ではなく真の所有者(実質的な所有者)の資産として扱われるので注意が必要だ。

   平成2年以前の商法では株式会社を設立するときの発起人の最低人数が7名とされていたため、創業者だけでは足りず、親族、従業員などの名前を借りることが一般的に行われていた。すなわち、歴史の長い会社ほど名義株が残っている可能性が高い。

しかも、株主は名義だけを貸しているので、自分がその会社の株主であることを認識していないケースも多い。株主名簿、もしくは、法人税申告書別表二「同族会社の判定に関する明細書」にて、そこに記載されている名義人が真実の株主であるのか否かを確認し、整理しておくことが何よりも重要だ。しかも名義株の整理は、名義貸借当事者が存命中に、できるだけ友好的に処理を進めておくことが、最良の事前対策になる。

まずは、名義株かどうか事実関係をはっきりさせ、名義株主には、書面による承諾を取り付けておくことが重要だ。それは名義人に「自分は名義人であること」を一筆書いておいてもらうことだ。そして法人税申告書別表第二の株主の記載を変更しておく。この明細書は、法人税部門だけでなく資産課税部門でも情報として管理しているので重要な資料になるからだ。

もし、名義貸与に関する覚書や念書等が存在せず、配当を長年その名義人が受領していた場合や名義書換の協力を得られないときは、名義人からの株式買い取りや、種類株式を活用した少数株主排除を検討するなどの対策も視野にいれなければならない。

 また所在不明で連絡の取れない株主について、次の①、②の要件をいずれも満たしているときは、取締役会の決議により、裁判所の許可を得て株式を売却すること(自己株式取得も可能)が認められている。

① 株主に対する通知又は催告が5年以上継続して到達しないと

② その株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったとき

ちなみに会社が無配の場合でも、継続して5年間配当を受領していないことに該当する。また会社が勝手に売却するわけだから、その代金は裁判所へ供託することになるが、株主は整理することができる。

いずれにせよ、この名義株問題は頭の痛いところだが、避けて通ることはできない。後回しにすればするほど、解決するのに何倍もエネルギーを使うことになる。まずはすぐに着手することから始めようではないか。応援しています。
 
2017年4月27日(木)  税理士 千葉 和彦

2016年10月31日 (月)

非顧客に聞け!

 「作成依頼していた来年のオリジナルカレンダーが届きました。」と総務の報告を受け、今年も終わりが近いことに改めて気づかされました。

年末には当社恒例のオーナーズセミナー懇親会、年明けには新春セミナーとビッグイベントが控えています。

その新春セミナーでは十勝バスの野村社長に講演いただく予定です。約40年ぶりに利用客数を増やし、路線バスの運送収入を上昇に転じさせ、増収、増益を実現した社長です。

   十勝バスは、北海道帯広市を中心に路線バスを運営しています。マイカーの普及や人口減少で利用客数は毎年減少し、厳しい経営状況が続いていました。このような場合、まずどの経営者でも考え実施することがコスト削減です。

そして、その筆頭が人件費です。十勝バスも、毎年給与や賞与のカットによる人件費の削減を続けてきました。そのため社員の心は荒み、荒れ果てていたようです。

野村社長が98年4月に父親の跡を継ぎ入社してから「利用客を増やすために営業を強化しよう」と言い続けてきたものの社員の返答は「嫌だ」「無駄だ」「無理だ」の繰り返しでした。

しかし08年、燃料費の高騰でいよいよ経営危機が深刻化します。ここで再度社員に「営業して利用客を増やそう」と呼びかけたところ、なんとか応じてくれ、社員が「ここからやりたい」と指さしたのは、中心部から離れた小さなバス停でした。

「最初は1つの停留所でいい。でも、もしここで成果が出たら、隣の停留所でもやろう。そうやって成果が出るたびに営業するエリアを広げていこうね。」とバス停から半径200メートル程に住む約300世帯の住人の自宅を一軒一軒回る「戸別訪問」を実施しました。

「どうしてバスに乗っていただけないのですか?」大半の人が「行きたい方向への路線がない」などと答えます。

「年一回でもいいんですよ。1回くらいなら、行きたい方向へ向かうバスがあるじゃないですか?」そう食らいつく社長に「うーん」と考え込んだある人が答えたのです。

「良く考えたら、バスがどこに向かっているかを知らないんだ。前と後ろ、どちらから乗ればいいかも知らないし、料金も分からない。だからちょっと怖いんだよな」社長は目が回るほど驚きました。

そんな根本的なことすら知らなかったのか。あるいはしばらく乗らない間に忘れてしまったのか・・・。要するに、お客様がバスに乗らないのは「不便」だからではない。「不安」だからでした。

この発見が突破口になり、とにかくお客様の不安を解消しようと、バスの乗り方を説明するパンフレットを作成して地元で配りました。またケーブルテレビでバスの乗り方を説明するCMも流しました。

戸別訪問を重ねると、こんな要望も聞こえてきました。「病院に行くのにバスを使いたい。」「スーパーにバスで行きたい。」しかし社長たちは最初不思議でならなかったようです。なぜなら、バス路線はすでに、主な病院やスーパーは必ず通るように設計されているからです。

しかし、どの停留所の近くにどんな施設があるかが、地域住民には分かりにくかったのです。そこで、どの路線を使えば、どんな施設に行けるかを解説する「目的別時刻表」を作成しました。

この取り組みを通じて、社長は気づきました。バス会社を経営していると、ともするとバスを運行することが「目的」になってしまいます。しかし、お客様にとっては、バスは「手段」に過ぎません。自分たちの都合や常識を脇に置き、お客様にとっての「良き手段」に徹することが、極めて重要です。

   このように十勝バスは奇跡の復活を遂げました。その一番は「非顧客」に聞いたことです。」「非顧客」とは「顧客であってもおかしくないにもかかわらず顧客になっていない人たち」です。

まさしく十勝バスにとってはバスに乗らない地域住民のことです。その非顧客の声にこそヒントがあったのです。貴社にも「非顧客」は必ずいるはずです。

十勝バス野口社長の話は地元の社長さん達に、多くのヒントを与えてくれるものと思います。新春お待ちしています。

2016年10月31日 著者 税理士 千葉 和彦

2016年10月 5日 (水)

長寿企業に秘訣を学ぶ

  人間は生まれてからすぐに死に向かって行く。会社も創業と同時に倒産に向かって進む。

人間と企業では大きく異なる点がひとつある。人間はどんなに努力をしても150年は生きられないが、企業は、そのやり方次第では100年以上、ひいては1000年生き残れるのだ。

実際、現在も存続している「金剛組」は、「儲け過ぎない。」「政治に近づかない。」をモットーに、創業してから1400年以上続いている。地元宮城でも伊達家湯浴み御殿として栄えた「ホテル佐勘」は832年続いている。

現在、日本国内には400万事業者あると言われているが、そのうち、100年以上続いている企業は5万社~10万社しかなく、いかに存続が厳しいかが容易に想像できる。創業200年以上ともなればわずか3100社しかない。

しかし、驚くことに世界全体の40%が日本に集中しているのだ。日本はある意味世界的にも珍しい「長寿企業王国」と言っても良いのではないか。

私は、昔ながらの日本独特の要因が重なり、多くの老舗企業を生み出しているのではないだろうかと考えている。

その証拠に、例えば隣国の中国は4000年の歴史を誇るが、創業100年以上の企業はほとんどない。

これは中国の血縁重視の家長制が大きく影響している。中国の昔からの格言「有能な他人より無能な血縁を信頼せよ」からも理解できる。

すなわち、たとえ長男が次期経営者に向いてなくても有無を言わせず跡を継がせるわけだから結果は自ずと知れたところだ。

日本と言えば古くから「家」の存続を第一に考えるため、血縁にはこだわらないところがある。「息子は選べないが婿は選べる。」と娘が生まれると、大阪の船場では、お赤飯を炊いて祝う風習が続いている。

すなわち日本独特の養子制度というものが、これら多くの老舗を生み出している一要因にもなっていることは間違いない。

 日本における老舗企業は、「血」に固執しない柔軟性と他者を受け入れる許容力で意思決定の判断基準を目先の「儲け」に置かず、常に「社是・社訓・経営理念」に置いているようだ。

そのことは逆に、その判断基準を忘れた時に、たとえ老舗といえども幕を閉じることになる。

まだ記憶にされている方も多いと思うが、ペコちゃんで知られた(株)不二家は創業家の、利益至上主義で消費期限切れの原料を使用し、倒産寸前に追い込まれた。

あの有名な(株)赤福も同様な理由でかつての勢いはない。まさしく、創業者の「経営理念」をしっかりと受け継いでいくことでしか老舗企業にはなれないのだ。

真の老舗企業とは「驕らず」「謙虚に」常に時代の先を読みながら「改革の精神」で取り組み続けているところなのだ。

アメリカの数少ない老舗企業(もちろん国自体が建国240年と若いので無理もないかもしれない。)の中の「ジョンソン&ジョンソン」(創業130年)はその長寿の秘訣を聞かれ、「Our Credo(我が信条)(経営理念)」と答えていることを見ても明らかだ。

まだ「経営理念」を持たずに、その場、その場で判断されてきた会社はまずこの「経営理念」作りから是非進めていただきたい。

当社では「将軍の日」と題したセミナーで「経営理念」を作るところからご支援させていただきます。

2016年9月30日(金)         著 者 税理士  千葉 和彦