自社株・株式・配当

2023年11月 1日 (水)

持株会社を活用した事業承継対策

持株会社は経営戦略の一つとして作られ活用されるのが本来の目的だが、昨今は事業承継対策として活用されるケースも多い。一般的なケースは、後継者が新規会社を立ち上げ、その新規会社が金融機関から融資を受け、先代の持っている株式を買い上げ、自分が承継する会社をその新設会社の子会社とするのである。そこで新設会社は持ち株会社として機能することになるのである。金融機関からの融資額はかなり多額になるケースが一般的で、その返済原資は、子会社からの配当になる。かなり業績の良い優良会社が子会社でないと成り立たないスキームでもある。しかし、その効果も大きいことは間違いない。まず先代が保有していた株式を売却することにより自社株式は相続財産からはずれるため、遺留分の対象にもならない。また、株式は売却されてしまうので、当然のことながら株価が以後、いくら上昇しようと心配はなくなる。また、ここで、先代は多額のキャッシュを手にすることになり、そのキャッシュを老後資金の確保、相続税の財源などにすることもできる。

 

 注意点としては、先代が株式を後継者の持株会社に譲渡する際に、譲渡所得税等の課税を受けるケースが多く、その税金を差し引いた手取り額は、さらに先代が使い切れなかった分に対して後継者が相続税の課税を受けることになる。また事業会社の業績悪化等により、返済に見合う配当が出せず、返済が出来なくなってしまうリスクもあることに十分留意すべきである。このスキームを活用する場合は、これらのリスクも十分に考慮しておかねばならない。

 

 そこで同じ持株会社でも借り入れをせずに、現金も使わずに、持ち株会社を作る方法がある。株式移転という方法だ。現在の事業会社の株主が、全員その新会社に株式を現物出資し、その対価として新会社の株式をもらう方法である。従って、新会社の株主もその事業会社の株主構成と同じ形になる。ただ、前の手法と違い、ここではもう一仕事必要になる。それは、先代から後継者は新会社の株を譲ってもらわなければならないのだ。しかも、後継者は、先代からその株式を譲り受けるにあたって、できるだけ株価を引き下げることが重要だ。引き下げる方法としては、いろいろ考えられると思うが、例えば、一例としてだが、その持株会社が事業会社の不動産を買い取るなどである。その時に、はじめて借入を活用することになる。不動産の場合だと3年後に相続税評価額になるから、時価と評価額の乖離でほぼ間違いなく自社株式の評価は引き下げられるのである。そして評価が下がった時点で、先代の株式を贈与等で異動させるのだ。

 

 いずれにしても、持株会社を作る場合は、注意点がいろいろあるので、事前に当事務所にご相談ください。

最近は、急に朝晩は冷え込むようになってきました。お身体ご自愛ください。

2023年8月 1日 (火)

「今年が最後のチャンス・・生前贈与」

「今年が最後のチャンス」と題して各経済誌や週刊誌が特集を組んでいます。何のことかと言うと、相続税と贈与税の税制改正のことです。相続開始前の3年以内の贈与については相続財産に加算するという現行のルールは、1958年の税制改正で定められたものですが、実に65年ぶりにこのルールが改正されます。適用は202411日以降の贈与分からなので、巷では今年中に駆け込み贈与をした方が良いと言っているのです。しかし、親族間の資産移転は、節税だけに目が行くと、親子間が不和になったり、親の資金が足りなくなったりと思わぬ落とし穴があります。自身の財産を把握し、また今回の改正を理解して、慎重に進めてほしいと思います。

 23年度相続・贈与に関する税制改正のポイントは下記の4点です。

① 相続財産に加算する生前贈与を今年までの相続では3年前の分まで加算すれば良かったのですが、来年度からの贈与については、亡くなる「7年」前以内の贈与が相続財産に加算されるようになります。ただ相続4年~7年前の贈与につきましては計100万円の控除も設けられました。

② 前回のエッセイでも取り上げましたが、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が新設されました。

③ 孫・子供の配偶者への生前贈与は、従来通り加算されません。これは今後の相続税対策でも従来通り使えることになります。

④ 教育資金贈与は263月まで、結婚・子育て資金贈与は253月まで使えます。

 生前贈与は確かに相続税の節税対策には効果が大きいですが、自分は節約をしながら、ほしいものも我慢し、質素に暮らしながらお子さんや孫さんに贈与されている方を見ると何か違うなと感じます。親子だから、一族だから当然という思いもあるのでしょうが、もらった方も、もらった時はうれしいと思いますが、すぐに忘れるのが常ということです。多額の贈与を受けてきた人から感謝の言葉をあまり聞いたことがありません。東南アジアのタイ国などでは、「もらってあげる」ということで、その上げる人に徳を積ませているのだという考え方なようです。これから贈与する方は、タイ国のように、徳を積ませてもらっている、もらって頂いて、ありがとうという感覚でないとならないかもしれませんね。それが嫌な方はむやみに贈与などすべきではないでしょう。まずは自分の楽しみに、そして老後のために残しておいてください。老後いくらお金がかかるかわかりませんからね。

私が最優先で贈与を考えなければならないと思うのは、「自社株」です。事業を引き継いでくれる後継者には、一日も早く自社株を贈与していくべきでしょう。自社株だけは後継者になかなか譲らず、現金は子供や孫にどんどん贈与していっては本末転倒と言うものです。そう言うと、「俺だって早く贈与したいよ。しかし贈与したくても自社株の評価が高すぎて踏み切れない。」と頭を悩ます方も多いようです。あまり株価評価が高すぎる場合は、まずは「納税猶予」の届け出をしておくべきでしょう。この届け出こそ1年延長されたものの来年3月で締め切りですからね。会社には後継者だけでなく、社員、取引先など多くの方の生活がかかっていますので、まずはこちらを急ぐべきだと思います。

2019年2月 5日 (火)

会社設立から15年で上場!

  昨年から一般社団法人日本中小企業経営支援専門家協会(略してJPBM以後この名称を使用する。)という長い名称の団体の理事に就任した。

 

このJPBMの前身は、1986年に事業承継問題に関心を持つ税理士が集結して設立された「日本事業承継コンサルタント協会」である。当時私は開業したばかりだったが、すぐに会員になった。同じ時期に入会した先生が2人いるが、今でも懇意にさせていただいている。

 

その後2009年に会員を税理士に限らず9士業が参加する形でJPBMが誕生した。従って私の入会歴は30年以上に及ぶことになる。

 

今でもよく思い出されることがある。

 

当時の入会の条件は、相続のシミュレーションのソフトとハードを購入しなければならなかった。当時コンピューターは高価なもので、相続のシミュレーションソフトもかなり画期的なものだったが、その価格がなんと1000万円を超えるもので、開業間もない私は、資金繰りに四苦八苦した思い出がある。

 

今思えばその仕組みを仕掛けたのは、のちに登場する分林会長だったと思う。



  事業承継コンサルタント協会は、主として中小企業の相続問題をどう解決するかが主要なテーマだったが、「後継者がいない」という問題が日本全国から浮上してきた。そこで、当時協会の常務理事をしていた分林氏(現在、会長)が、1991年に、日本M&Aセンターを立ち上げた。

 

その15年後の2006年10月には東証マザーズに上場、そして07年12月には東証1部にスピード上場を果たし現在に至っている。私の事務所のセミナー講師に分林会長をお呼びしたのは、丁度上場の前年だったと記憶している。現在では、時価総額4000億円を超える優良企業に成長している。そして今後ますます成長していくだろう。



  後継者難という外部環境の追い風は、当然だが、それだけで上場は難しい。良い人材を獲得し、その人材に力を発揮してもらえるようにする。会長が若い社員に話していることがある。それは一度でも肉体的・精神的な限界まで仕事に挑戦してみる、ということだ。そういう経験を積んでいると後々、強さとなって生きてくる。

 

それを経験したことがある人とない人では、とても大きな差ができると考えているのだ。まさに量は質へ転化するである。最初から質を求めても意外と失敗するものだ。


  分林会長は経営に絶対必要な4ヵ条があると考えている。

 

①収益性(これがなくては、企業そのものが存続できない。顧客、社員、関係者に報いることができない。)

②安定性(貸借対照表を充実させておく必要がある。M&Aセンターの自己資本比率75%である。)

③成長性(将来に向かって成長していかなくては、企業は存続する意味がないと会長は考えている)

④社会性(迷ったとき「社会に対して正しいことをしているか?」会長はドラッガーが言ったこの言葉を、会社経営者だけではなく、社員一人一人も規範とすべきと考えている。)

 

この4つが揃った企業が良い経営を行っている企業で、揃っていない企業はいずれ存続できなくなる可能性が高いと言っている。我々も経営に携わるうえで、上記のことを胸に刻み、進んでいきましょう。そうすれば、たとえ上場はできなくても、それ以上に地域から喜んでいただきながら存続できる会社になれると信じています。一緒に頑張りましょう。

 

 

 

2019年1月31日 著 者   税理士  千葉 和彦

2018年2月 1日 (木)

平成30年度税制改正の目玉‥事業承継税制

 平成30年度の税制改正の目玉は何と言っても、「事業承継税制の改正」だ。今年度4月1日以後スタートする。
 
当初経済産業省は、ドイツなどに「5年で免除」の制度があるということで、我が国も同じく事業を5年継続したら猶予税額はすべて免除することを提案していたようだ。
 
しかし実際に財務省がドイツに行って調べてみると、遊休不動産、賃貸不動産、余裕資金を除いた事業用財産にかかる分だけが免除だったことが判明したため5年で免除案は受け入れられなかったようだ。
 
 今回の改正は新たに創設されたもので、前の「事業承継税制」は、そのまま生きていることにも注意が必要だ。
 
各新聞紙上では10年間の限定で、と書かれているが、今回の改正では、5年以内(平成35年3月31日)に認定経営革新等支援機関の支援・援助のもとに「特例承継計画」を都道府県に提出することが条件であり、
 
それから5年以内に自社株の贈与の実行をすることが大前提なので、提出が5年後ぎりぎりになった場合に、そこから5年以内にということで、10年限定という書き方をしているのだ。
 
届け出はあくまでも5年以内が条件であることに注意が必要だ。
 
自社株の贈与の実行は、平成39年12月31日までが条件なので、正式には9年9ヶ月に限定された制度になる。
 
もし提出後、5年以内に代表者が自社株の贈与をせずに死亡した場合は、相続税の納税猶予として、当然この猶予制度は使えることになるので、まずは提出しておくというのも一つの対策になるだろう。
 
たとえ使わなかったとしても特に罰則はないのだから、まずは提出しておきたい。
 
仮に、提出を忘れ、代表者が死亡した場合でも前の「事業承継税制」は使えるので決して諦めてはいけない。
 
ただしその場合の納税猶予は80%しかできず、しかも80%の雇用継続要件からも逃げることはできない。
 
 今まで、この制度が活用されなかった一番の理由は、80%の雇用継続要件だ。
 
今回は、この要件も実質撤廃と言ってよい。
 
もし雇用が80%維持できなかった場合には、経営革新等支援機関を通じて、なぜ達成できなかったか等の実績報告を提出し、妥当と認められればOKということになるからだ。
 
これはOKを前提にしたものと考えられる。
 
 また出口のリスクも今回軽減されている。
 
5年経過後に株式を譲渡、合併、清算をした場合に、その時の株式の時価分の税金しかかけられず、その差額分は免除されることになった。
 
このように使い勝手が良くなった「事業承継税制」だが、今まで通り、資産管理会社には適用できないのが残念だ。
 
不動産や預貯金、有価証券の割合が70%を超えるか、又は家賃収入が売り上げの75%を超えると、その会社は資産管理会社と見られてしまう。
 
しかし、従業員を5名以上(生計を別にした親族でもOK)雇用していれば、資産管理会社と見られないので、対策の一つに加えてはいかがだろうか。
 
今回の制度は株価評価が高くなりすぎている会社に活用するものだが、以前のように退職金を支給し、株価評価を引き下げる手法や暦年贈与を活用する手法は有効なので、自社に合った方法での対応が重要と考える。
 
ただ株価が高くなりすぎて困っているところは、今回の「事業承継税制」を大いに活用してはいかがだろうか。応援しています。
 
2018年1月29日    税理士  千葉和彦

2017年8月30日 (水)

そろそろ本気で事業承継を考えないと!

  8月のオーナーズセミナーでは、良くあるケースとして下記の事例を取り上げました。

【事例】

『私の父は、製造業を営むA社のオーナー経営者です。いわゆるワンマン経営者であり、年齢は70歳になりますが、常に生涯現役を言葉にしており、事業承継のことは一切口にしません。私は、息子で専務という肩書きはあるものの、経営に関する権限は一切なく、従業員の一部は、会社の将来を心配しているという声も耳にします。

 また、同業他社の二代目同士でよく会社の株価や相続税の話題があがりますが、実際A社株の株価が今いくらで、ましてや父の相続税がいくらになるか分からない状況です。さらに父個人の土地建物がA社の本社としての事業用財産になっています。

 したがって、他の二人の兄弟との遺産分けのバランスについても悩みどころです。しかし、当然、父にもそのような話を一切口にすることはできません。』

 上記のようなケース、多いのではないでしょうか?まず私が最初に思うのは、A社の社長は、一番大事な社長業をしていないということです。

何故なら、社長というのは何はともあれ自社の将来について常に考えている人のことを言うからです。この社長は自社の5年後~10年後についてじっくり考えているように思えません。

自分の年齢と自社の将来を考えた場合、必ず後継者問題が浮かんでくるはずです。社長業で大事な仕事は、経営計画を立てることです。そうすれば、必ずその延長線上に後継者問題があるはずです。

まず、A社長は後継者を決めることが大事です。そして、自社の株価評価は勿論ですが、個人的な財産も棚卸して自身の相続税のシミュレーションをするべきです。自社株の評価が高ければ、その対策を早急に検討しなければなりません。

いくら対策を早急にしても評価が下がらない場合には、平成25年度の改正で、以前より使い勝手が良くなっている「事業承継税制」の活用を考えましょう。

また後継者は決まっているが、まだ自分が現役中は、経営権を持っていたい場合や後継者候補が複数いて後継者を決めきれない場合は、一般社団法人に持たせておくといいと思います。あるいは信託を活用する方法もあります。信託を活用しますと、株式そのものは移動させても、経営権だけ自分に残しておくことが可能です。

「自分の目の黒いうちは、経営権を持ち続け、目を光らせておきたい。」時に、威力を発揮します。また上記の事例のA社長のように、相続財産が事業用財産と自社株しかないような場合は、事業を引き継がない他の相続人に対する遺留分対策も重要です。

自社株式と事業用財産はすべて後継者が相続できるように遺言してあげ、事業を引き継がない他の相続人に対しては、後継者受取人の保険に加入したり、あるいは相続した自社株式を自社で買い取れるようにしておき、後継者が代償金として現金を支払うことができるような仕組みを作ってあげておくことが重要です。

いずれにしても、A社長は、原理原則に戻り、本来の社長業である将来像をしっかり描いていきましょう。応援しています。

2017年8月29日    著 者  税理士  千葉 和彦

2017年8月 1日 (火)

信託の活用について

   前回は「信託」を理解するコツについて書かせていただきました。今回は、その「活用」ついて説明していきます。

信託とは、一言で言えば、「信じて託す」ことでした。ここでは、登場人物が3名登場します。すなわち委託者(託す人)・受託者(託される人)・受益者(実質上の所有者に見なされる人)の3名です。信託は委託者と受託者の間で「信託契約」を結ぶと同時に効果が生じます。

  以下信託が何故有効な対策になるのか見ていきたいと思います。

1 認知症対策として有効

   65歳以上の約5人に一人が認知症になり、2025年には認知症患者数は約700万人前後に達するとのことです。

認知症になると、遺言や不動産取引、相続税対策などが一切できなくなります。もちろん銀行口座も凍結され、親を施設にいれる資金も親の口座から引き出せません。

やむなく成年後見人を立てざるを得ませんが、成年後見人は本人の財産の保護が目的なので、施設の費用を引き出すことはできますが、子や孫に金銭を贈与したり、相続対策のためアパートを建てるなどの行為は、本人の財産を減らすことになるからまず認められません。

しかし「信託」を活用するとそれらの欠点をカバーすることが可能です。

2 事業承継対策に有効

  自社株式を長男に贈与した後、長男が死亡した場合、自社株式は事業に関わっていない長男の嫁に相続されるのが通常ですが、例えば、一緒に仕事をしている次男などに引き継がせることができます。

信託の仕組みを導入することで、民法の法定相続の概念にとらわれない柔軟な承継先の指定が何世代にわたっても可能になります。

3 不動産の共有化対策として有効

  遺産の大半が一つの不動産の場合、その不動産を共同相続してしまうことは大きなリスクを伴います。

つまり、共有不動産は、共有者全員が同意・協力しないと換価処分等ができませんので、共有者間で確執があると、不動産の有効活用ができなくなる可能性があります。

そこで、その不動産を信託し、受益権を共有化します。すると、共有者としての権利・財産価値は維持しつつ、管理処分権限を受託者に集約することができ、その結果、不動産の「塩漬け」を防ぐことができます。

4 遺産受取方法の多様化として有効

  一括で受け取るのではなく、毎月の生活費として「定額給付」にすることができます。

5 相続発生時でもスムーズな財産管理法として有効

  相続発生時から遺言執行が完了するまでの、資産凍結の期間を排除できます。

6 財産隔離機能を利用したリスクヘッジとして有効

  詐害行為にならない範囲においては、委託者の債権者からの差押えを回避したり、自己破産・民事再生による清算対象の財産から除外が可能になります。

「信託」そのものは直接「節税対策」にならないかも知れませんが、相続対策として重要な「遺産争いの防止対策」として大きな成果を生み出すことができます。

是非皆様も活用を検討されてみてはいかがでしょうか。応援しています。

2017年7月28日 著 者 税理士  千葉 和彦

2017年7月 6日 (木)

「信託」を理解するコツは?

   今回は、前回の約束に従い、「信託」について話を進めていきます。

巷では「信託」という言葉が大分聞かれるようになりましたが、まだまだ一般的ではないようです。それは「信託」が何となくわかりにくく感じられるからです。

信託を一言で言えば・・・「信じて託す」・・ことにつきます。そう考えれば簡単なことですが、登場人物が二人ではなく三人なので、話をややこしくしているようです。

さて、その登場人物は、委託者、受託者、受益者の三人ですが、この三者の関係をしっかり理解することが信託を理解するコツです。

まず例えば委託者が自分の財産の管理を受託者にまかせます。財産は受託者の名義に変わります(ここが最初の理解の難関です。)名義は変わりますが、それは受託者がその財産を管理、処分しやすいように名義が変わるだけで、真の所有者ではありません。

それでは真の所有者は委託者のままかというと、決してそうではなく、受益者が真の所有者になります。(ここが一番わかりにくいところですね。)

例えば委託者である父が自分のアパートを同族の法人を受託者として信託し、受益者を長男にしたとします。

アパートの名義は受託者になった同族法人になりますが、真の所有者は受益者の長男です。当然信託後のアパートの家賃は長男のものになるので、長男は毎年の家賃を自分の不動産所得して確定申告します。

しかし、これで「めでたし、めでたし」ということにはなりません。真の所有者が長男であるならば、信託した時点で委託者である父からアパートが贈与されたことになるので、のんびりと不動産所得の申告を済ませ、やれやれとしているところに、多額の贈与税が押し寄せてきます。

このように、真の所有者=受益者を誰にするかで、時には思わぬ税金が発生することがあります。

そうならないようにするには、委託者である父をそのまま受益者にしておきます。そうすると、委託者と受益者は同じ人物ですから、贈与税の問題もなくなり、不動産所得の申告も今まで通りです。

では、信託する前と何も変わらないではないか?という疑問が生じます。確かに税務上は特に大きく変わることはありませんが、(他の不動産所得と損益の通算ができないくらいです。)大きく変わる点があります。

それは、委託者である父親が認知症になったり、脳梗塞で倒れたりした場合です。認知症や脳梗塞で病状に伏し、意思表示ができなくなった瞬間から父親の財産は凍結され、銀行預金の解約も不動産や株式の贈与や売買などが一切できなくなります。これは大きなリスクです。何故なら父親の入院費用や手術費用さえも父親の口座からは引き出せなくなるからです。

このようなリスクに対処できるのが「信託」です。この「信託」をしていると受託者の判断で預金の引き出しだけでなく、必要であればアパートの修繕、売却などもでき、急な事態に慌てることもありません。

しかも信託契約は万が一の場合の次の受益者も指定しておくことができるため、遺言の代用を兼ねることもできます。遺言は敷居が高くてなかなか書けなかった人でも信託契約だと意外と抵抗が少なく簡単にできたりするケースも多いようです。

このように活用の仕方では大きな成果を生むことのできるのが「信託」だということを是非皆さんにも理解していただけましたら幸いです。

2017年6月30日(金) 著 者  千葉 和彦

2017年6月 1日 (木)

65歳以上5人に1人が・・・!

    認知症は高齢になればなるほど、発症する危険が高まります。また、認知症は特別な人に起こる特別な出来事ではなく、歳をとれば誰にでも起こりうる身近な症状です。

厚労省の予測によると65歳以上の約5人に1人が認知症になり、団塊の世代が75歳以上になる2025年には、認知症患者数は約700万人前後に達するとのことです。

  認知症になると、まず困るのが遺言や不動産取引、相続税対策などがいっさいできなくなることです。平成18年、この認知症が争点となり、横浜地裁で「遺言無効」の判決がくだされました。しかも、無効の判決を受けた遺言は公正証書遺言でした。

話は7年前に遡ります。平成11年、80歳のAさんが遺言を作りたいと信託銀行に電話しました。銀行員は自宅を訪問し、多くの不動産について、相続人4人にどう配分したいかを聞き取り、メモにして公証人に遺言作成を依頼しました。出来上がった遺言書を公証人が読み上げ、本人が自署して、実印を押したとあります。

その後、相続が発生し、この遺言での取得財産が少なかった相続人から「遺言無効」の訴えがなされ、裁判所はこの遺言を無効にする判決を下します。

 判決では遺言作成2年前から本人の認知症が進行しており、すでに自分の年齢も、年月日も、自分の子供の数も分からず、嫁と孫の区別がつかなかったとあります。

これらの状況に照らせば、多数の不動産を4人の子に区別して分けて、遺言執行人についても項目ごとに区分して2名に分け、そのうち1人の執行人である信託銀行の報酬を決めることなど出来ないはず。よって遺言能力はなかったので「遺言無効」という判決でした。

遺言を依頼した親族側からすれば、信託銀行と公証人が受託するなら多少の認知症でも大丈夫だろう、と思ったのでしょう。しかし、認知症が進んでからでは、遺言は遅かったのです。

  相続が発生すると、銀行の口座が凍結されてしまうことは良く知られていますが、認知症になっても口座が凍結されてしまうことは案外知られていません。親が認知症になり、施設に入ることになっても、その資金を親の口座から子供が引き出すこともできません。

また、施設に入る資金がないので、その資金を捻出するために、親の住んでいた住居を売却して資金にしようと思っても当然一切できません。預貯金を動かすには成年後見人を立てざるを得なくなります。

しかし成年後見人は本人の財産の保護が仕事ですから、施設の費用等は引き出すことができますが、子や孫に金銭を贈与したり、相続対策のためにアパートを建てるなどの行為はまず認められません。それは本人の財産を減らすことになるからです。従って、遺言や相続対策は、認知症になる前にしっかり行っておくことが重要になります。

   『相続対策中に認知症になってしまうリスクに対処する方法はありませんか?』とよく聞かれます。その場合には、初めて耳にする方には、わかりにくいかもしれませんが「信託」という方法があります。

しかし、この「信託」も本人が認知症になってしまってからでは、不可能です。何故なら「信託」は「信託契約」という契約だからです。

次回は「信託」についてわかりやすく事例を踏まえてお話していきたいと思います。

2019年5月30日(火)   著 者   税理士   千葉  和彦

2017年5月 1日 (月)

追徴課税は40億円!長男名義の株を「相続財産」認定・・名義株を考える・・

   戸建て住宅販売大手の飯田グループホールディングス(GHD)が、創業者の相続に絡み、東京国税局に80億円以上の相続財産の申告漏れを指摘されていたことが明らかになった。

申告から漏れていたのは関連会社の「自社株」で、長男名義であったにもかかわらず創業者の財産に当たると認定されて40億円にも上る追徴課税をされた。

 東京国税局が申告漏れを指摘したのは、同GHDの創業者・飯田一男氏から長男に引き継がれた資産管理会社の株式。長男名義となっていたものの、取得に際しての資金を一男氏が負担していたことから「名義株」であると認定され、過少申告加算税などを含めて40億円の追徴課税が課されたのだ。

すなわち、税法上、このような名義株は名義人の財産ではなく真の所有者(実質的な所有者)の資産として扱われるので注意が必要だ。

   平成2年以前の商法では株式会社を設立するときの発起人の最低人数が7名とされていたため、創業者だけでは足りず、親族、従業員などの名前を借りることが一般的に行われていた。すなわち、歴史の長い会社ほど名義株が残っている可能性が高い。

しかも、株主は名義だけを貸しているので、自分がその会社の株主であることを認識していないケースも多い。株主名簿、もしくは、法人税申告書別表二「同族会社の判定に関する明細書」にて、そこに記載されている名義人が真実の株主であるのか否かを確認し、整理しておくことが何よりも重要だ。しかも名義株の整理は、名義貸借当事者が存命中に、できるだけ友好的に処理を進めておくことが、最良の事前対策になる。

まずは、名義株かどうか事実関係をはっきりさせ、名義株主には、書面による承諾を取り付けておくことが重要だ。それは名義人に「自分は名義人であること」を一筆書いておいてもらうことだ。そして法人税申告書別表第二の株主の記載を変更しておく。この明細書は、法人税部門だけでなく資産課税部門でも情報として管理しているので重要な資料になるからだ。

もし、名義貸与に関する覚書や念書等が存在せず、配当を長年その名義人が受領していた場合や名義書換の協力を得られないときは、名義人からの株式買い取りや、種類株式を活用した少数株主排除を検討するなどの対策も視野にいれなければならない。

 また所在不明で連絡の取れない株主について、次の①、②の要件をいずれも満たしているときは、取締役会の決議により、裁判所の許可を得て株式を売却すること(自己株式取得も可能)が認められている。

① 株主に対する通知又は催告が5年以上継続して到達しないと

② その株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったとき

ちなみに会社が無配の場合でも、継続して5年間配当を受領していないことに該当する。また会社が勝手に売却するわけだから、その代金は裁判所へ供託することになるが、株主は整理することができる。

いずれにせよ、この名義株問題は頭の痛いところだが、避けて通ることはできない。後回しにすればするほど、解決するのに何倍もエネルギーを使うことになる。まずはすぐに着手することから始めようではないか。応援しています。
 
2017年4月27日(木)  税理士 千葉 和彦

2016年10月31日 (月)

非顧客に聞け!

 「作成依頼していた来年のオリジナルカレンダーが届きました。」と総務の報告を受け、今年も終わりが近いことに改めて気づかされました。

年末には当社恒例のオーナーズセミナー懇親会、年明けには新春セミナーとビッグイベントが控えています。

その新春セミナーでは十勝バスの野村社長に講演いただく予定です。約40年ぶりに利用客数を増やし、路線バスの運送収入を上昇に転じさせ、増収、増益を実現した社長です。

   十勝バスは、北海道帯広市を中心に路線バスを運営しています。マイカーの普及や人口減少で利用客数は毎年減少し、厳しい経営状況が続いていました。このような場合、まずどの経営者でも考え実施することがコスト削減です。

そして、その筆頭が人件費です。十勝バスも、毎年給与や賞与のカットによる人件費の削減を続けてきました。そのため社員の心は荒み、荒れ果てていたようです。

野村社長が98年4月に父親の跡を継ぎ入社してから「利用客を増やすために営業を強化しよう」と言い続けてきたものの社員の返答は「嫌だ」「無駄だ」「無理だ」の繰り返しでした。

しかし08年、燃料費の高騰でいよいよ経営危機が深刻化します。ここで再度社員に「営業して利用客を増やそう」と呼びかけたところ、なんとか応じてくれ、社員が「ここからやりたい」と指さしたのは、中心部から離れた小さなバス停でした。

「最初は1つの停留所でいい。でも、もしここで成果が出たら、隣の停留所でもやろう。そうやって成果が出るたびに営業するエリアを広げていこうね。」とバス停から半径200メートル程に住む約300世帯の住人の自宅を一軒一軒回る「戸別訪問」を実施しました。

「どうしてバスに乗っていただけないのですか?」大半の人が「行きたい方向への路線がない」などと答えます。

「年一回でもいいんですよ。1回くらいなら、行きたい方向へ向かうバスがあるじゃないですか?」そう食らいつく社長に「うーん」と考え込んだある人が答えたのです。

「良く考えたら、バスがどこに向かっているかを知らないんだ。前と後ろ、どちらから乗ればいいかも知らないし、料金も分からない。だからちょっと怖いんだよな」社長は目が回るほど驚きました。

そんな根本的なことすら知らなかったのか。あるいはしばらく乗らない間に忘れてしまったのか・・・。要するに、お客様がバスに乗らないのは「不便」だからではない。「不安」だからでした。

この発見が突破口になり、とにかくお客様の不安を解消しようと、バスの乗り方を説明するパンフレットを作成して地元で配りました。またケーブルテレビでバスの乗り方を説明するCMも流しました。

戸別訪問を重ねると、こんな要望も聞こえてきました。「病院に行くのにバスを使いたい。」「スーパーにバスで行きたい。」しかし社長たちは最初不思議でならなかったようです。なぜなら、バス路線はすでに、主な病院やスーパーは必ず通るように設計されているからです。

しかし、どの停留所の近くにどんな施設があるかが、地域住民には分かりにくかったのです。そこで、どの路線を使えば、どんな施設に行けるかを解説する「目的別時刻表」を作成しました。

この取り組みを通じて、社長は気づきました。バス会社を経営していると、ともするとバスを運行することが「目的」になってしまいます。しかし、お客様にとっては、バスは「手段」に過ぎません。自分たちの都合や常識を脇に置き、お客様にとっての「良き手段」に徹することが、極めて重要です。

   このように十勝バスは奇跡の復活を遂げました。その一番は「非顧客」に聞いたことです。」「非顧客」とは「顧客であってもおかしくないにもかかわらず顧客になっていない人たち」です。

まさしく十勝バスにとってはバスに乗らない地域住民のことです。その非顧客の声にこそヒントがあったのです。貴社にも「非顧客」は必ずいるはずです。

十勝バス野口社長の話は地元の社長さん達に、多くのヒントを与えてくれるものと思います。新春お待ちしています。

2016年10月31日 著者 税理士 千葉 和彦