建物を相続時精算課税で贈与!
昨年のエッセイ「よくある相続対策・・落とし穴」(4)で「建物を相続時精算課税で贈与してはいけない。」と書きました。その理由は「相続時精算課税は贈与した時点での評価額で持ち戻されるからだ。建物は、年々評価額が下がっていくものと考えると・・・。つまり間違いなく評価額が下がると思われるものは、相続時精算課税で贈与してはならない。」ということです。建物の評価は将来必ず下がっていきますので、それだけを考えると確かにこの税制を活用すると不利になることは明白です。しかし、その建物が収益物件の場合は、一概に不利とは言えません。例えばアパートの建物をこの制度を活用して子どもに贈与した場合を考えてみましょう。相続税評価額2500万円(時価では約6000万円のアパートになります。)で利回りは6%と仮定します。子どもにはアパートの建物と毎年約360万円の家賃収入を渡すことができます。必要経費や税金などコストはかかりますが、手取りを貯めることで、子どもは、将来それを納税資金の原資にすることもできます。
所得税は累進課税なので、所得が多いほど税額は増えます。高所得者の親から税率の低い子どもへ収益物件を贈与すれば、家族全体の所得税額を抑えるというメリットもあります。また建物だけでなく土地も一緒に移せば土地の値上がり分の相続税も抑えることができます。ただし評価額2500万円の建物だけでしたら「相続時精算課税制度」の適用を受ける届け出を出せば、その時点での贈与税はかかりませんが、贈与額2500万円を超えた分には20%の贈与税が課されます。納めた税金は、将来の親の相続の時に精算されるのですが、土地の評価が高すぎる場合には無理せず建物だけの贈与でも効果はあると考えます。贈与の時に建物が古い場合には親がリフォームを済ませてから贈与した方がいいでしょう。修繕程度のリフォームでは評価額は上がらないからです。
注意しなければならないことは、贈与したい建物にローンが残っている場合です。贈与したい物件にローンが残っている場合には、通常の売買と見なされ、通常の取引価額からローン残高を差し引いた金額が贈与されたとみなされます。更に、親は譲渡収入があったと見なされ、譲渡税が課されてしまいます。これが「負担付贈与」といわれるものです。借金が残っている物件は、すべて返済してから贈与するのが良いでしょう。
もうひとつ注意が必要なのは、アパートの賃借人の敷金です。アパートの建物を贈与するわけですから、当然、敷金も引き継がれることになります。この敷金は返済義務のあるローンと同じ性格のものなので、建物だけを贈与すると負担付贈与とみなされます。この場合は、敷金相当額の現金を同時に贈与することで、負担付贈与を回避することができます。さて現金を贈与したらその現金にも贈与税がかかるのではと疑問が残るかもしれませんが、この現金は贈与者が入居者から預かっていた敷金分(債務)を受贈者に移した(精算)だけですから、そこには経済的利益は発生しません。ですから贈与した敷金相当分の現金には贈与税はかからないのです。
「負担付贈与」とならないためにも、ローンが付いていないアパートなどの建物を贈与する場合にも、忘れずに敷金分の現金も付けてあげるようにしましょう。