税制

2023年10月 2日 (月)

特例事業承継税制の提出期限迫る!

 令和4年の税制改正で提出期限が1年延長され、令和6年3月31日になったのもつかの間、特例事業承継税制の届け出期限が半年後に迫りました。この特例を使うことに関しては、専門家の間でも賛否両論があるのは、周知の通りです。私もどちらかというと今まで消極派でした。できれば後世に引きずらないで対策を終えておくのが一番と考えてきました。

具体的には、自社株の評価を引き下げて、自社株の評価が下がった状態で相続時精算課税を活用し、後継者に贈与するのが一番と考えてきました。自社株の評価を引き下げるには、先代が退職するタイミングで役員退職金を支払うと、ほとんどの会社は一時的ではありますが、赤字になります。当然のことながら翌期には自社株の評価額は、下がりますので、そのタイミングで後継者に相続時精算課税で贈与します。しかし、何社かの顧問先に頼まれてシミュレーションしましたが、株価が高くなりすぎているところは、焼け石に水の状態で多額の贈与税が発生することがわかりました。(贈与額2500万円を超えた部分に、20%の贈与税がかかります。)しかも、その贈与税は後継者が払わなければならないので、後継者に大変な負担が生じます。金融機関の中には、贈与税分を後継者に融資することを前提にそのスキームの提案をしているところもあります。

 特例事業承継税制は、何度も改正が繰り返され現在の制度に至った経緯から、わかりにくいことが、多くの企業が取り組みにくくなっている原因の一つと考えられます。先日ある方が私にこの制度をラグビーのボールに例えて説明してくれました。すなわち、ボールを持ち続けている間は、納税猶予され、そのボールを落とした時に課税が生じるというものです。ボールを持ち続けるためには、まず5年間は、代表を続け、株式も持ち続けなければなりません。有名なジャニーズ事務所の後継者の方が代表を下りないのもここに理由があると思います。

この制度ですが、贈与から5年以内は多少厳しめの要件がありますが、5年経過すると比較的緩やかな要件のみになります。まず、厳しめの当初5年間でボールを落としたと認定される場合について列挙してみます。(ボールを落とすと猶予税額+利息の納付が必要です。)

① 後継者が代表者でなくなった。(事故等の已む得ない場合を除く。)

② 一族の議決権が50%以下になった。

③ 後継者が一族の中で筆頭株主でなくなった。

④ (一株でも)対象となった株式を売却した。

⑤ 本業を廃業した。(不動産賃貸業になったなど)

⑥ 毎年の報告、届け出を怠った。遅れた。

では、次に5年経過後にボールを落としたとされる場合にはどのようなものがあるでしょうか?

① 対象となった株式を売却した(売却した分のみ取り消し)

② 本業を廃業(不動産賃貸業になった場合など)

③ 3年おきの届け出を怠った。遅れた。

 また上記の理由で5年経過後にボールを落とした時には、5年間の利子税は免除されます。そのため、贈与・相続時には贈与税・相続税は払えないけど、5年経過後であれば資金繰り的にも払える目途があるのであれば、いったん事業承継税制を適用して納税を猶予しておき、5年経過後取りやめの届出書を提出すれば、本税だけの納付で済むようです。

また、5年経過後に業績が悪化し、売却や解散した場合には、売却や解散時の株価等をもとに再計算し、差額は免除されるというセーフティーネットが敷かれています。なかなか複雑な制度ではありますが、事業承継の選択肢に是非加えていただきたいと思います。応援しています。

2019年4月23日 (火)

いよいよ消費税アップが本格化・・企業の対応は?

  今年の10月1日からの消費税アップが現実化してきた。税務当局や商工会議所、その他関係機関の対策セミナーが始まっている。当事務所でも先日、恒例のオーナーズセミナーで消費税の改正について話した。

 

今回の消費税改正は、軽減税率が導入されることで、経理処理が複雑になることがポイントだ。

 

まずは自社の売り上げに、この軽減税率になるものがあるかどうかを確認することから始めなければならない。軽減税率の対象になるのは、酒類及び外食を除く「飲食料品」、定期購読契約が締結された週2回以上発行される「新聞」だ。まずは飲食料品の商品を扱っているところが行動を急がなければならない。

 

手書きでは対応が難しいので、早い時期にレジの導入、受発注システムの改修・入れ替えのスケジュールを立てなければならない。いずれも補助金制度の対象になるので、上手に活用してもらいたい(軽減税率対策補助金事務局のホームページ参照)。

 

食品関係の卸売業、食品製造業は、請求書管理システムが区分記載請求等保存方式に対応しているかシステム会社に確認し、必要に応じて改修・入れ替えを進めなければならない。また売上がすべて標準税率の会社でも仕入れには必ず軽減税率のものが含まれるので、区分記載するなど対応をしっかり考えておかなければならない。

 

  経理処理の対策はもちろん必要だが、これも経営が順調に進んでこそのものだ。この消費税アップで自社の経営が窮地にたたされない準備こそが最重要課題だ。

 

いままでの経験では、消費税アップ後は、必ず消費の減少がつきものだった。今回も例外ではない。来年のオリンピック開催後は日本経済全体に不景気の足音が忍び寄ってくるのが聞こえる。不景気になってもしっかり資金が回り、利益が出せるような企業体質にしておく必要がある。

 

それには、過大な設備投資を控え、内部留保を減らさないようにしなければならない。

 

内部留保が悪いことのように話している方もいるが、そのような言葉に惑わされず、しっかりと内部留保を確保していこう。不景気になり、赤字になれば、金融機関も融資をしてくれないので、しっかりと自己資金を増やしておき、来るべき不況を乗り切るようにしよう。

 

 

2019年4月19日  著 者   税理士  千葉 和彦

2019年4月 4日 (木)

生保業界に激震・・全損保険の販売停止

  2019年2月14日「全損型保険、販売停止!」の報道が各紙に取り上げられた。

 

ここ数年、節税だけが前面に押し出された「全損型保険」の大量販売を国税、金融庁が問題視し、各生保会社に税務通達の見直しを通知、生保各社が即時に販売を停止したのである。

 

生保のプロ代理店の方の中には、涙目で今後何を売っていったら良いのかと途方に暮れている方もいる。それほど今回、各保険会社が販売停止をした全損タイプの保険いわゆる「節税保険」というものが、多くの中小企業の経営者の支持を受け販売されてきたのだ。

   経営はリスクに囲まれており、いつ何が起こるかわからない。そのため、その防衛策の一つとして保険ほど心強いものはないというのが正直な感想だ。

 

自分の会社の借入金や固定費などを踏まえ、会社を取り巻くリスクに備えた必要保障額を計算し、保険に入っておけば、企業本来の目的である「存続と発展」を実現することができる。経営者の死亡や自然災害がすぐに会社の倒産につながらないようにしておくことこそが、社員や家族をかかえている会社にとっては必須であり、これが本来、企業保険が「企業防衛」と言われる所以でもある。

 

しかも、同時に節税もできるとなれば、保険の魅力は大きい。「節税、貯蓄、保障」を備えた商品は、周りを見渡す限り保険以外になかなか見当たらない。今回は、その「節税」面だけを強調した販売方法に国税、金融庁のメスが入ったのであるが、再度、保険本来の「保障」機能を見直し、企業を取り巻く将来のリスクに備えるという保険機能の原点に立ち返り、自社の必要保障額等を見直す良い機会ではないかと考える。


  そこで、生命保険ではないが、国が運営する「中小企業倒産防止共済」(経営セーフティ共済)の活用も見直してはいかがだろうか?名前の通り、取引先が倒産した場合には、掛金の10倍まで融資が受けられ、連鎖倒産を避けるためのものであるが、その掛金は、掛け捨てではなく積立で、解約するとほとんど戻ってくる。

 

その掛け金は、月額5000円から20万円までの範囲で自由に選択でき、年払い(前納)することもできる。掛金総額が800万円まで積み立てることができる。このセーフティ共済の掛け金は、前に述べたように、積立なので、本来、税務上は損金(必要経費)にはならない。しかし、国はこのセーフティ共済への加入促進のため掛金の全額損金を認めている。生保ほどの全損のインパクトはないが、これらの活用も再度見直してはいかがだろうか。

 

  今回、急な通達改正が予定されているが、今までも何度か経験してきたことだ。ここは、慌てふためかず、冷静に、成り行きを見守りながら、企業の本来の企業防衛としての保険の原点に立ち返り、自社の必要保障額をしっかり見直していこうではありませんか。


 保険は、企業防衛のほかにも相続税の納税資金準備や遺留分対策としても有効(もちろん法定相続人1人につき500万円の非課税枠があるのは従来通りである。)であり、活用のメリットは大きいので、継続して保険の活用をすべきだと思う。応援しています。

2019年4月1日   著 者  税理士  千葉 和彦

2018年12月 6日 (木)

「交換の特例」の上手な活用

「固定資産の交換の特例」というものが古くからあります。この特例は、土地や建物といった固定資産を同じ種類の固定資産と交換したときに、譲渡がなかったものとみなす(・・・)制度です。この制度には過去何度か手を焼かされたので、今回取り上げました。

  かれこれ20年ほど前のことです。知り合いの社長から電話がありました。近所の方から、社長が所有している土地を売ってほしいという話があったのですが、その方が、たまたま社長の自宅の隣接地を所有している方だったのです。そこで、社長は自分の土地を売っても良いが、交換条件で、隣接地を売ってほしいと話したそうです。話はトントン拍子にまとまり、お互いに土地を売却することになりました。しかし、ただ売ると税金が大変なので、税金のかからない「交換」という方法を使いたいということでした。

   交換には一定の要件がありますので、当然、私は、電話口でその社長にいくつか質問をしました。①交換する土地は不動産業の方が販売目的で持っているものでないこと。すなわち固定資産かどうかです。②交換する固定資産は土地と土地であること。③交換予定の土地は双方ともに1年以上所有していたものであること。かつ、交換のために取得したものではないこと。④交換により取得する固定資産は譲渡する固定資産と同じ用途に使用すること。宅地なら宅地として使用することです。⑤交換により取得する固定資産と譲渡する固定資産の時価の差が、高い方の価額の20%以内であること。社長の回答から、いずれの要件も満たしていたので、私は「大丈夫でしょう。ただし来年必ず申告してくださいよ。」と電話を切りました。

  何か月か経過し、社長との会話を忘れかけていた時、再度、その社長から、それもかなり興奮した様子で電話がありました。「先生、税金かからないといったのに税金きたぞ。責任とれよ。」と。詳しく聞いてみると、不動産取得税の納付書が県税事務所から届いたことがわかりました。私は、自分の説明が不足していたことを大いに反省しました。それ以来、たとえ交換が成立して所得税がかからない場合でも、不動産取得税や登録免許税、印紙税などの税金と、司法書士や税理士に頼んだ時には報酬が発生する旨を必ず話しています。一般の方に取っては、税金はみな一緒と考えている方が多いからです。私の苦い体験です。

  またある時、当社の関与先の社長から「交換先の相手から税金はかからないが申告は必要だと教えられたので、先生に頼もうと思って。」と交換の申告の依頼を受けました。当然この時も前述のように要件を確認していきました。すると、どうやら交換の相手は不動産業者で販売用土地と交換したことがわかりました。もうお気づきでしょうが、不動産業者の販売用土地では交換は成立しませんから、社長は譲渡所得税を納税しなければなりません。その業者さんに、私からも電話してみましたが、けんもほろろに電話を切られました。

   ただ悪いことばかりではありません。この特例で先祖代々の土地が生きたこともあります。相続で複数の土地をすべて相続人5人の共有にしており、10年間荒れ野原になっていた土地を、順列組み合わせのパズルのようにこの「交換」を活用することで、土地の所有者が一人か、仲の良い者だけで所有することになり、すべて有効活用することができました。

  この「交換」ですが、便利なようで、前述のすべての要件を満たす必要は勿論ですが、思わぬ落とし穴がありますから慎重に検討してください。

2018年11月30日    著 者  税理士   千葉 和彦

2018年2月 1日 (木)

平成30年度税制改正の目玉‥事業承継税制

 平成30年度の税制改正の目玉は何と言っても、「事業承継税制の改正」だ。今年度4月1日以後スタートする。
 
当初経済産業省は、ドイツなどに「5年で免除」の制度があるということで、我が国も同じく事業を5年継続したら猶予税額はすべて免除することを提案していたようだ。
 
しかし実際に財務省がドイツに行って調べてみると、遊休不動産、賃貸不動産、余裕資金を除いた事業用財産にかかる分だけが免除だったことが判明したため5年で免除案は受け入れられなかったようだ。
 
 今回の改正は新たに創設されたもので、前の「事業承継税制」は、そのまま生きていることにも注意が必要だ。
 
各新聞紙上では10年間の限定で、と書かれているが、今回の改正では、5年以内(平成35年3月31日)に認定経営革新等支援機関の支援・援助のもとに「特例承継計画」を都道府県に提出することが条件であり、
 
それから5年以内に自社株の贈与の実行をすることが大前提なので、提出が5年後ぎりぎりになった場合に、そこから5年以内にということで、10年限定という書き方をしているのだ。
 
届け出はあくまでも5年以内が条件であることに注意が必要だ。
 
自社株の贈与の実行は、平成39年12月31日までが条件なので、正式には9年9ヶ月に限定された制度になる。
 
もし提出後、5年以内に代表者が自社株の贈与をせずに死亡した場合は、相続税の納税猶予として、当然この猶予制度は使えることになるので、まずは提出しておくというのも一つの対策になるだろう。
 
たとえ使わなかったとしても特に罰則はないのだから、まずは提出しておきたい。
 
仮に、提出を忘れ、代表者が死亡した場合でも前の「事業承継税制」は使えるので決して諦めてはいけない。
 
ただしその場合の納税猶予は80%しかできず、しかも80%の雇用継続要件からも逃げることはできない。
 
 今まで、この制度が活用されなかった一番の理由は、80%の雇用継続要件だ。
 
今回は、この要件も実質撤廃と言ってよい。
 
もし雇用が80%維持できなかった場合には、経営革新等支援機関を通じて、なぜ達成できなかったか等の実績報告を提出し、妥当と認められればOKということになるからだ。
 
これはOKを前提にしたものと考えられる。
 
 また出口のリスクも今回軽減されている。
 
5年経過後に株式を譲渡、合併、清算をした場合に、その時の株式の時価分の税金しかかけられず、その差額分は免除されることになった。
 
このように使い勝手が良くなった「事業承継税制」だが、今まで通り、資産管理会社には適用できないのが残念だ。
 
不動産や預貯金、有価証券の割合が70%を超えるか、又は家賃収入が売り上げの75%を超えると、その会社は資産管理会社と見られてしまう。
 
しかし、従業員を5名以上(生計を別にした親族でもOK)雇用していれば、資産管理会社と見られないので、対策の一つに加えてはいかがだろうか。
 
今回の制度は株価評価が高くなりすぎている会社に活用するものだが、以前のように退職金を支給し、株価評価を引き下げる手法や暦年贈与を活用する手法は有効なので、自社に合った方法での対応が重要と考える。
 
ただ株価が高くなりすぎて困っているところは、今回の「事業承継税制」を大いに活用してはいかがだろうか。応援しています。
 
2018年1月29日    税理士  千葉和彦

2017年8月 1日 (火)

信託の活用について

   前回は「信託」を理解するコツについて書かせていただきました。今回は、その「活用」ついて説明していきます。

信託とは、一言で言えば、「信じて託す」ことでした。ここでは、登場人物が3名登場します。すなわち委託者(託す人)・受託者(託される人)・受益者(実質上の所有者に見なされる人)の3名です。信託は委託者と受託者の間で「信託契約」を結ぶと同時に効果が生じます。

  以下信託が何故有効な対策になるのか見ていきたいと思います。

1 認知症対策として有効

   65歳以上の約5人に一人が認知症になり、2025年には認知症患者数は約700万人前後に達するとのことです。

認知症になると、遺言や不動産取引、相続税対策などが一切できなくなります。もちろん銀行口座も凍結され、親を施設にいれる資金も親の口座から引き出せません。

やむなく成年後見人を立てざるを得ませんが、成年後見人は本人の財産の保護が目的なので、施設の費用を引き出すことはできますが、子や孫に金銭を贈与したり、相続対策のためアパートを建てるなどの行為は、本人の財産を減らすことになるからまず認められません。

しかし「信託」を活用するとそれらの欠点をカバーすることが可能です。

2 事業承継対策に有効

  自社株式を長男に贈与した後、長男が死亡した場合、自社株式は事業に関わっていない長男の嫁に相続されるのが通常ですが、例えば、一緒に仕事をしている次男などに引き継がせることができます。

信託の仕組みを導入することで、民法の法定相続の概念にとらわれない柔軟な承継先の指定が何世代にわたっても可能になります。

3 不動産の共有化対策として有効

  遺産の大半が一つの不動産の場合、その不動産を共同相続してしまうことは大きなリスクを伴います。

つまり、共有不動産は、共有者全員が同意・協力しないと換価処分等ができませんので、共有者間で確執があると、不動産の有効活用ができなくなる可能性があります。

そこで、その不動産を信託し、受益権を共有化します。すると、共有者としての権利・財産価値は維持しつつ、管理処分権限を受託者に集約することができ、その結果、不動産の「塩漬け」を防ぐことができます。

4 遺産受取方法の多様化として有効

  一括で受け取るのではなく、毎月の生活費として「定額給付」にすることができます。

5 相続発生時でもスムーズな財産管理法として有効

  相続発生時から遺言執行が完了するまでの、資産凍結の期間を排除できます。

6 財産隔離機能を利用したリスクヘッジとして有効

  詐害行為にならない範囲においては、委託者の債権者からの差押えを回避したり、自己破産・民事再生による清算対象の財産から除外が可能になります。

「信託」そのものは直接「節税対策」にならないかも知れませんが、相続対策として重要な「遺産争いの防止対策」として大きな成果を生み出すことができます。

是非皆様も活用を検討されてみてはいかがでしょうか。応援しています。

2017年7月28日 著 者 税理士  千葉 和彦

2017年7月 6日 (木)

「信託」を理解するコツは?

   今回は、前回の約束に従い、「信託」について話を進めていきます。

巷では「信託」という言葉が大分聞かれるようになりましたが、まだまだ一般的ではないようです。それは「信託」が何となくわかりにくく感じられるからです。

信託を一言で言えば・・・「信じて託す」・・ことにつきます。そう考えれば簡単なことですが、登場人物が二人ではなく三人なので、話をややこしくしているようです。

さて、その登場人物は、委託者、受託者、受益者の三人ですが、この三者の関係をしっかり理解することが信託を理解するコツです。

まず例えば委託者が自分の財産の管理を受託者にまかせます。財産は受託者の名義に変わります(ここが最初の理解の難関です。)名義は変わりますが、それは受託者がその財産を管理、処分しやすいように名義が変わるだけで、真の所有者ではありません。

それでは真の所有者は委託者のままかというと、決してそうではなく、受益者が真の所有者になります。(ここが一番わかりにくいところですね。)

例えば委託者である父が自分のアパートを同族の法人を受託者として信託し、受益者を長男にしたとします。

アパートの名義は受託者になった同族法人になりますが、真の所有者は受益者の長男です。当然信託後のアパートの家賃は長男のものになるので、長男は毎年の家賃を自分の不動産所得して確定申告します。

しかし、これで「めでたし、めでたし」ということにはなりません。真の所有者が長男であるならば、信託した時点で委託者である父からアパートが贈与されたことになるので、のんびりと不動産所得の申告を済ませ、やれやれとしているところに、多額の贈与税が押し寄せてきます。

このように、真の所有者=受益者を誰にするかで、時には思わぬ税金が発生することがあります。

そうならないようにするには、委託者である父をそのまま受益者にしておきます。そうすると、委託者と受益者は同じ人物ですから、贈与税の問題もなくなり、不動産所得の申告も今まで通りです。

では、信託する前と何も変わらないではないか?という疑問が生じます。確かに税務上は特に大きく変わることはありませんが、(他の不動産所得と損益の通算ができないくらいです。)大きく変わる点があります。

それは、委託者である父親が認知症になったり、脳梗塞で倒れたりした場合です。認知症や脳梗塞で病状に伏し、意思表示ができなくなった瞬間から父親の財産は凍結され、銀行預金の解約も不動産や株式の贈与や売買などが一切できなくなります。これは大きなリスクです。何故なら父親の入院費用や手術費用さえも父親の口座からは引き出せなくなるからです。

このようなリスクに対処できるのが「信託」です。この「信託」をしていると受託者の判断で預金の引き出しだけでなく、必要であればアパートの修繕、売却などもでき、急な事態に慌てることもありません。

しかも信託契約は万が一の場合の次の受益者も指定しておくことができるため、遺言の代用を兼ねることもできます。遺言は敷居が高くてなかなか書けなかった人でも信託契約だと意外と抵抗が少なく簡単にできたりするケースも多いようです。

このように活用の仕方では大きな成果を生むことのできるのが「信託」だということを是非皆さんにも理解していただけましたら幸いです。

2017年6月30日(金) 著 者  千葉 和彦

2017年6月 1日 (木)

65歳以上5人に1人が・・・!

    認知症は高齢になればなるほど、発症する危険が高まります。また、認知症は特別な人に起こる特別な出来事ではなく、歳をとれば誰にでも起こりうる身近な症状です。

厚労省の予測によると65歳以上の約5人に1人が認知症になり、団塊の世代が75歳以上になる2025年には、認知症患者数は約700万人前後に達するとのことです。

  認知症になると、まず困るのが遺言や不動産取引、相続税対策などがいっさいできなくなることです。平成18年、この認知症が争点となり、横浜地裁で「遺言無効」の判決がくだされました。しかも、無効の判決を受けた遺言は公正証書遺言でした。

話は7年前に遡ります。平成11年、80歳のAさんが遺言を作りたいと信託銀行に電話しました。銀行員は自宅を訪問し、多くの不動産について、相続人4人にどう配分したいかを聞き取り、メモにして公証人に遺言作成を依頼しました。出来上がった遺言書を公証人が読み上げ、本人が自署して、実印を押したとあります。

その後、相続が発生し、この遺言での取得財産が少なかった相続人から「遺言無効」の訴えがなされ、裁判所はこの遺言を無効にする判決を下します。

 判決では遺言作成2年前から本人の認知症が進行しており、すでに自分の年齢も、年月日も、自分の子供の数も分からず、嫁と孫の区別がつかなかったとあります。

これらの状況に照らせば、多数の不動産を4人の子に区別して分けて、遺言執行人についても項目ごとに区分して2名に分け、そのうち1人の執行人である信託銀行の報酬を決めることなど出来ないはず。よって遺言能力はなかったので「遺言無効」という判決でした。

遺言を依頼した親族側からすれば、信託銀行と公証人が受託するなら多少の認知症でも大丈夫だろう、と思ったのでしょう。しかし、認知症が進んでからでは、遺言は遅かったのです。

  相続が発生すると、銀行の口座が凍結されてしまうことは良く知られていますが、認知症になっても口座が凍結されてしまうことは案外知られていません。親が認知症になり、施設に入ることになっても、その資金を親の口座から子供が引き出すこともできません。

また、施設に入る資金がないので、その資金を捻出するために、親の住んでいた住居を売却して資金にしようと思っても当然一切できません。預貯金を動かすには成年後見人を立てざるを得なくなります。

しかし成年後見人は本人の財産の保護が仕事ですから、施設の費用等は引き出すことができますが、子や孫に金銭を贈与したり、相続対策のためにアパートを建てるなどの行為はまず認められません。それは本人の財産を減らすことになるからです。従って、遺言や相続対策は、認知症になる前にしっかり行っておくことが重要になります。

   『相続対策中に認知症になってしまうリスクに対処する方法はありませんか?』とよく聞かれます。その場合には、初めて耳にする方には、わかりにくいかもしれませんが「信託」という方法があります。

しかし、この「信託」も本人が認知症になってしまってからでは、不可能です。何故なら「信託」は「信託契約」という契約だからです。

次回は「信託」についてわかりやすく事例を踏まえてお話していきたいと思います。

2019年5月30日(火)   著 者   税理士   千葉  和彦

2017年5月 1日 (月)

追徴課税は40億円!長男名義の株を「相続財産」認定・・名義株を考える・・

   戸建て住宅販売大手の飯田グループホールディングス(GHD)が、創業者の相続に絡み、東京国税局に80億円以上の相続財産の申告漏れを指摘されていたことが明らかになった。

申告から漏れていたのは関連会社の「自社株」で、長男名義であったにもかかわらず創業者の財産に当たると認定されて40億円にも上る追徴課税をされた。

 東京国税局が申告漏れを指摘したのは、同GHDの創業者・飯田一男氏から長男に引き継がれた資産管理会社の株式。長男名義となっていたものの、取得に際しての資金を一男氏が負担していたことから「名義株」であると認定され、過少申告加算税などを含めて40億円の追徴課税が課されたのだ。

すなわち、税法上、このような名義株は名義人の財産ではなく真の所有者(実質的な所有者)の資産として扱われるので注意が必要だ。

   平成2年以前の商法では株式会社を設立するときの発起人の最低人数が7名とされていたため、創業者だけでは足りず、親族、従業員などの名前を借りることが一般的に行われていた。すなわち、歴史の長い会社ほど名義株が残っている可能性が高い。

しかも、株主は名義だけを貸しているので、自分がその会社の株主であることを認識していないケースも多い。株主名簿、もしくは、法人税申告書別表二「同族会社の判定に関する明細書」にて、そこに記載されている名義人が真実の株主であるのか否かを確認し、整理しておくことが何よりも重要だ。しかも名義株の整理は、名義貸借当事者が存命中に、できるだけ友好的に処理を進めておくことが、最良の事前対策になる。

まずは、名義株かどうか事実関係をはっきりさせ、名義株主には、書面による承諾を取り付けておくことが重要だ。それは名義人に「自分は名義人であること」を一筆書いておいてもらうことだ。そして法人税申告書別表第二の株主の記載を変更しておく。この明細書は、法人税部門だけでなく資産課税部門でも情報として管理しているので重要な資料になるからだ。

もし、名義貸与に関する覚書や念書等が存在せず、配当を長年その名義人が受領していた場合や名義書換の協力を得られないときは、名義人からの株式買い取りや、種類株式を活用した少数株主排除を検討するなどの対策も視野にいれなければならない。

 また所在不明で連絡の取れない株主について、次の①、②の要件をいずれも満たしているときは、取締役会の決議により、裁判所の許可を得て株式を売却すること(自己株式取得も可能)が認められている。

① 株主に対する通知又は催告が5年以上継続して到達しないと

② その株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったとき

ちなみに会社が無配の場合でも、継続して5年間配当を受領していないことに該当する。また会社が勝手に売却するわけだから、その代金は裁判所へ供託することになるが、株主は整理することができる。

いずれにせよ、この名義株問題は頭の痛いところだが、避けて通ることはできない。後回しにすればするほど、解決するのに何倍もエネルギーを使うことになる。まずはすぐに着手することから始めようではないか。応援しています。
 
2017年4月27日(木)  税理士 千葉 和彦

2016年10月31日 (月)

非顧客に聞け!

 「作成依頼していた来年のオリジナルカレンダーが届きました。」と総務の報告を受け、今年も終わりが近いことに改めて気づかされました。

年末には当社恒例のオーナーズセミナー懇親会、年明けには新春セミナーとビッグイベントが控えています。

その新春セミナーでは十勝バスの野村社長に講演いただく予定です。約40年ぶりに利用客数を増やし、路線バスの運送収入を上昇に転じさせ、増収、増益を実現した社長です。

   十勝バスは、北海道帯広市を中心に路線バスを運営しています。マイカーの普及や人口減少で利用客数は毎年減少し、厳しい経営状況が続いていました。このような場合、まずどの経営者でも考え実施することがコスト削減です。

そして、その筆頭が人件費です。十勝バスも、毎年給与や賞与のカットによる人件費の削減を続けてきました。そのため社員の心は荒み、荒れ果てていたようです。

野村社長が98年4月に父親の跡を継ぎ入社してから「利用客を増やすために営業を強化しよう」と言い続けてきたものの社員の返答は「嫌だ」「無駄だ」「無理だ」の繰り返しでした。

しかし08年、燃料費の高騰でいよいよ経営危機が深刻化します。ここで再度社員に「営業して利用客を増やそう」と呼びかけたところ、なんとか応じてくれ、社員が「ここからやりたい」と指さしたのは、中心部から離れた小さなバス停でした。

「最初は1つの停留所でいい。でも、もしここで成果が出たら、隣の停留所でもやろう。そうやって成果が出るたびに営業するエリアを広げていこうね。」とバス停から半径200メートル程に住む約300世帯の住人の自宅を一軒一軒回る「戸別訪問」を実施しました。

「どうしてバスに乗っていただけないのですか?」大半の人が「行きたい方向への路線がない」などと答えます。

「年一回でもいいんですよ。1回くらいなら、行きたい方向へ向かうバスがあるじゃないですか?」そう食らいつく社長に「うーん」と考え込んだある人が答えたのです。

「良く考えたら、バスがどこに向かっているかを知らないんだ。前と後ろ、どちらから乗ればいいかも知らないし、料金も分からない。だからちょっと怖いんだよな」社長は目が回るほど驚きました。

そんな根本的なことすら知らなかったのか。あるいはしばらく乗らない間に忘れてしまったのか・・・。要するに、お客様がバスに乗らないのは「不便」だからではない。「不安」だからでした。

この発見が突破口になり、とにかくお客様の不安を解消しようと、バスの乗り方を説明するパンフレットを作成して地元で配りました。またケーブルテレビでバスの乗り方を説明するCMも流しました。

戸別訪問を重ねると、こんな要望も聞こえてきました。「病院に行くのにバスを使いたい。」「スーパーにバスで行きたい。」しかし社長たちは最初不思議でならなかったようです。なぜなら、バス路線はすでに、主な病院やスーパーは必ず通るように設計されているからです。

しかし、どの停留所の近くにどんな施設があるかが、地域住民には分かりにくかったのです。そこで、どの路線を使えば、どんな施設に行けるかを解説する「目的別時刻表」を作成しました。

この取り組みを通じて、社長は気づきました。バス会社を経営していると、ともするとバスを運行することが「目的」になってしまいます。しかし、お客様にとっては、バスは「手段」に過ぎません。自分たちの都合や常識を脇に置き、お客様にとっての「良き手段」に徹することが、極めて重要です。

   このように十勝バスは奇跡の復活を遂げました。その一番は「非顧客」に聞いたことです。」「非顧客」とは「顧客であってもおかしくないにもかかわらず顧客になっていない人たち」です。

まさしく十勝バスにとってはバスに乗らない地域住民のことです。その非顧客の声にこそヒントがあったのです。貴社にも「非顧客」は必ずいるはずです。

十勝バス野口社長の話は地元の社長さん達に、多くのヒントを与えてくれるものと思います。新春お待ちしています。

2016年10月31日 著者 税理士 千葉 和彦