中小企業

2020年7月 2日 (木)

新型コロナ後を見据えて、今こそ社員教育に取り組もう!

 先日お会いした社長が言うには、最近急に、会社への入社希望者が増えだしたとのこと。それで面接日を決め、どこから応募してきたかを聞くと東京からという人が多いので、少し後ずさりしてしまうと言っていた。

 私は、その社長の話を聞いてコロナ後の人の流れが「大都市から地方へ」という流れが始まっているのかもしれないと感じた。「地方から大都市へ」という人の流れは、過去の常識となり、今後は、地方への流れが強くなってくるのではないかと。今やITの進化は日進月歩で、ITツールを活用すれば、どこでも仕事もこなせるし、生活コストが安く、3密を避けられる地方への流れが容易に予想される。先日、内閣府で発表された調査では、テレワーク経験者のうち、4人に1人が地方移住への関心を高めているという。

 そう考えると、地方企業の人材確保に明るい兆しが見えそうだが、決してそのようなことはない。その理由は、第一に日本の人口減少傾向だ。また第二に外国人人材の減少である。近年、海外実習生などの外国人が、地方の中小企業の重要な働き手になってきていることは否めない。


 政府も20194月から特定14業種での特定技能資格の創設などで積極的に外国人受け入れに力を入れてきたが、今回のコロナ禍で見直される可能性が高い。地元の中小企業は、相変わらず人材不足に悩まされることは変わらない。そこで、やはり今やるべきことは社員教育だと私は思う。今いる人材の能力を最大限引き出しているか、会社にとって生産性をもたらす仕事の与え方になっているかを再考する絶好の機会ではないかと考える。

 人材教育には、社員個々のスキルアップ、能力アップは当然重要だが、より重要なことは、組織能力の向上である。組織能力を向上させるためには、社員全員のベクトルを同じ方向に向かわせなければならない。社員が不安になっているときこそ、会社がなにを目指しているのか、どこに向かっているのかを社長が先頭に立って指し示すことが大事だ。

 そこで重要になってくるのは、会社の「経営理念」で、その理念が社員の一人一人に浸透していなければならない。具体的には毎朝朝礼で唱和をしたり、ミーティング時にも開始前に唱和していくなど、社員一人一人が「経営理念」に触れる機会を増やすことが必要だ。どんな立派な「経営理念」でも社員に浸透していなければ、「絵に描いた餅」だからだ。個々のスキルアップや能力アップを目指す社員教育は、ただやみくもに行うのではなく、この「経営理念」に沿って戦略的に取り組まなければならない。

 反復するが、今この時期こそ社員教育の時期だということを再認識して経営に取り組んでもらいたいと思う。

2020年3月10日 (火)

地域企業の生産性はまだまだ上がる

  巷ではコロナウイルス騒ぎで人が集まる行事が次々に中止になっている。当社でも政府の方針に倣って、3月のセミナーを中止することにした。2月のセミナーはまだこの騒ぎが始まる寸前だったので、予定通り約50名の参加者で実施することが出来た。

 2月のセミナーのテーマは「地域企業の生産性はまだまだ上がる」で、私の古くからの友人である丹治克之氏に講師をお願いした。丹治克之氏はキャノン株式会社に36年間勤務、その間数々の生産革新のプロジェクトを成功させた。その成功体験に基づいた講話は参加者の共感を呼んだようだ。セミナー終了後のアンケートには、ほぼ全員の方が参加して良かったというコメントを残してくれた。

   私は「組織能力」の考え方と「WATCH&THINK」→現場をジーッと見て、むだを見つけ、排除する方法を考えるという手法に感動した。セミナーの中で紹介された東大ものづくり経営研究センターの藤本隆宏教授によれば、組織能力は「個々の企業に特有の属性であり、組織の中で広く継承される組織遺伝子であり、ルーチンの束である。組織の能力は競合他社が真似することが難しく、個々の企業の競争力や収益に影響を与え、長期的に企業間の格差を生み出す。」ということだ。わかりやすく言うなら、例えばトヨタはノウハウをすべて公開しているが、それをそのまま活用できる企業はないのはなぜか・・そこに組織能力の本質があるのだ。丹治氏は当社のセミナーのこともその事例として話してくれた。当社では平成7年から毎月セミナーを実施してきており、今回のセミナーが257回目だった。私も他の会計事務所さんからやり方を聞かれ、何度も教えたことがあるが、どの会計事務所さんも継続しているところはない。その力が「組織能力」というものだそうだ。端的に言えば「組織能力=方針を実行する現場のルーチン力」ということなので、時間はかかるがこの組織能力の構築を自社の経営戦略としてしっかり認識していきたいと思う。

   丹治氏は地域企業の現場改善の具体的手法としてワークショップ形式で取り組むことを勧めてくれた。ワークショップ形式とは自社に関わる各部署、関係機関が垣根を超え課題抽出、解決策検討、実践を重ねていく方法だ。また氏はワークショップ形式を取り入れる中で「WATCH&THINK」をメンバー全員で取り組むことが大事とも言っていた。ワークショップ形式での現場改善では「YWTMシート」を作成して課題を共有する。Y:今日やったことは何ですか?W:(やってみて)わかったことは何ですか?
T:(それを踏まえて)次にやることは何ですか?M:それをやるメリットは何ですか?
PDCAとは聞いたことがあるかと思うが、P(計画)がネックになって進まないことがあるので、取り組み易い「YWTMシート」を活用するのだ。これらの認識を全員で共有しながら次に進むということだ。その結果現場改善が進み生産性が上がれば、それはその会社の利益に直結していくことになる。今後ますます予想される人手不足時代に備える意味でもまずは現場改善に取り組むことをお勧めしたい。自社独自で難しい時はいつでも支援させていただきます。気軽にお声がけください。

2019年2月 5日 (火)

会社設立から15年で上場!

  昨年から一般社団法人日本中小企業経営支援専門家協会(略してJPBM以後この名称を使用する。)という長い名称の団体の理事に就任した。

 

このJPBMの前身は、1986年に事業承継問題に関心を持つ税理士が集結して設立された「日本事業承継コンサルタント協会」である。当時私は開業したばかりだったが、すぐに会員になった。同じ時期に入会した先生が2人いるが、今でも懇意にさせていただいている。

 

その後2009年に会員を税理士に限らず9士業が参加する形でJPBMが誕生した。従って私の入会歴は30年以上に及ぶことになる。

 

今でもよく思い出されることがある。

 

当時の入会の条件は、相続のシミュレーションのソフトとハードを購入しなければならなかった。当時コンピューターは高価なもので、相続のシミュレーションソフトもかなり画期的なものだったが、その価格がなんと1000万円を超えるもので、開業間もない私は、資金繰りに四苦八苦した思い出がある。

 

今思えばその仕組みを仕掛けたのは、のちに登場する分林会長だったと思う。



  事業承継コンサルタント協会は、主として中小企業の相続問題をどう解決するかが主要なテーマだったが、「後継者がいない」という問題が日本全国から浮上してきた。そこで、当時協会の常務理事をしていた分林氏(現在、会長)が、1991年に、日本M&Aセンターを立ち上げた。

 

その15年後の2006年10月には東証マザーズに上場、そして07年12月には東証1部にスピード上場を果たし現在に至っている。私の事務所のセミナー講師に分林会長をお呼びしたのは、丁度上場の前年だったと記憶している。現在では、時価総額4000億円を超える優良企業に成長している。そして今後ますます成長していくだろう。



  後継者難という外部環境の追い風は、当然だが、それだけで上場は難しい。良い人材を獲得し、その人材に力を発揮してもらえるようにする。会長が若い社員に話していることがある。それは一度でも肉体的・精神的な限界まで仕事に挑戦してみる、ということだ。そういう経験を積んでいると後々、強さとなって生きてくる。

 

それを経験したことがある人とない人では、とても大きな差ができると考えているのだ。まさに量は質へ転化するである。最初から質を求めても意外と失敗するものだ。


  分林会長は経営に絶対必要な4ヵ条があると考えている。

 

①収益性(これがなくては、企業そのものが存続できない。顧客、社員、関係者に報いることができない。)

②安定性(貸借対照表を充実させておく必要がある。M&Aセンターの自己資本比率75%である。)

③成長性(将来に向かって成長していかなくては、企業は存続する意味がないと会長は考えている)

④社会性(迷ったとき「社会に対して正しいことをしているか?」会長はドラッガーが言ったこの言葉を、会社経営者だけではなく、社員一人一人も規範とすべきと考えている。)

 

この4つが揃った企業が良い経営を行っている企業で、揃っていない企業はいずれ存続できなくなる可能性が高いと言っている。我々も経営に携わるうえで、上記のことを胸に刻み、進んでいきましょう。そうすれば、たとえ上場はできなくても、それ以上に地域から喜んでいただきながら存続できる会社になれると信じています。一緒に頑張りましょう。

 

 

 

2019年1月31日 著 者   税理士  千葉 和彦

2018年10月 2日 (火)

日本の事業者の2/3が後継者不在

   年商10億円未満の事業者の約2/3が後継者不在だ。(帝国データバンク2017年発表)日本の約400万事業者のうち、年商10億円未満は97%を占めているのだから、これが、日本の中小企業の現状といっても過言ではないでしょう。この数年で数十万社の中小企業が事業承継のタイミングを間違いなく迎えることになります。

   先代が、第一にすべきことは、早急に後継者を決めることです。しかし、魅力のない会社は誰も継ぎたがりません。経常利益をしっかり出し、将来性も見込めるような企業しか誰も継ぎたがりません。後継者に次を託すためには、自分の代で、しっかりと自社の事業を磨き上げ、その中で後継者を見極め、時間をかけて引き継いでいく必要があるのです。では、後継者の見つからない企業はどうなるのでしょうか?魅力のない会社を誰も引き継ぎたがらないように、M&Aの相手もなかなか見つかりません。そうなると廃業しか方法がなくなります。昨今廃業はかなり増えてきています。しかし、簡単に廃業といいますが、社員がいれば解雇しなければなりませんし、退職金の問題もあります。取引先との事業中止の根回しも必要です。また設備など希望するような価格で売れるとは限りません。解散の場合の税金もあります。廃業するのにもエネルギーとお金がかかるのです。

   どのような道を選択するにしても早い取り組みと意思決定が重要です。後継者を決めるには、まずは、一人で悩んでいないで、親族に相談して見ましょう。思わぬ知恵がでることもあります。また会社内に有力な人材がいる時は、こちらの意向を早く伝え、後継者教育に取り組みましょう。会社に魅力があれば、早めにM&Aの専門家に相談するのも一法です。いずれの方法を取るにしても、スピードが大事です。オーナー社長の早い意思決定と覚悟、思い切りが大事なのです。高齢になっても社長を譲らない、譲りたくても譲れない・・・と様々な想いや悩みを抱えているオーナー社長も多いことでしょう。しかし、進むべき道を決めずして1日、2日と経ちすれば、5年、10年は、あっという間です。その間、自分も社員もまた年を重ねていくのです。それに、後継者を決めてからも、自社株の異動の問題、社内の組織体制の整備、後継者を補佐する人の確保、後継者への段階的な権限の委譲、承継後の経営計画の策定、経営者の個人保証への対応など・・しなければならないことが山積みです。早く後継者を確保し、次の段階に進まなければならないのです。平成30年改正の「新事業承継税制」も後継者が決まって初めて活用できるのです。次回は新事業承継税制の活用について書きたいと思います。

2018年9月25日 著 者 税理士  千葉 和彦

2018年3月 3日 (土)

外国人技能実習生制度の活用

 「どんなに募集をかけても申し込みがない。」「やっと新人が採用できたと思ったらすぐに辞められた。」「とにかく人が取れない。」人手不足がどの業界でも深刻です。
 
最近お会いした社長さん方、運送業、建設業、介護事業、販売業・・・・。どの業種に限らず悩みは共通のようです。中には、「先生うちのトップ営業マンにこんな手紙がきているよ」と見せてくれた社長がいます。
 
その手紙の中には、その営業マン個人あてにA4の用紙びっしりと甘い言葉で転職の誘いが書かれていました。誰でも引き込まれそうな名文で、魅力ある言葉で一杯。やる気のある若い人なら誰でも心が動かされて当然と思えるものでした。
 
特に介護業界は深刻さが増してきています。このままでは団塊の世代が後期高齢者になる2030年までに30万人以上の介護士が不足し、患者さんへ十分な介護サービスが提供できないだけでなく、現在働いている職員の疲弊にもつながりかねません。
 
もちろん人手不足を補うという目的だけで今回の外国人介護実習生を採用することはできませんが、介護実習生を計画的に採用することで、事業計画も立てやすくなることは間違いありません。
 
 1993年より外国人技能実習生制度が制度化され、様々な職種で活用されてきましたが、その対象職種に、新たに介護が昨年11月より加わりました。
 
この外国人技能実習制度の趣旨は人材不足を単に補うものではなく、日本の企業が発展途上国の若者を技能実習生として受け入れ、実際の実務を通じて実践的な技術や技能・知識を学んでもらい、帰国後母国の経済発展に役立ててもらうことを目的とした公的制度です。
 
そのため宿舎を新築して積極的に受け入れを準備しているところもあれば、文化や価値観の違いを踏まえた十分な指導ができるか戸惑っているところも多いようです。
 
 この制度に対する理解不足から過去には賃金不払いや失踪事件なども数多くあり、ただ単に安い賃金で人手不足を補おうという考え方ではだめです。この制度を取り入れる際には、この制度に対し、十分な理解と準備、また子供が一人増えるくらいの覚悟を持って取り組まなければなりません。
 
 そのためにはベトナムの送り出し機関も日本側の監理団体もしっかりしたところを選択する必要があります。現在ベトナムには約240の送り出し機関がありますが、そのほとんどが弱小(数名から数十名/年間)です。信頼できる送り出し機関選定のポイントは以下の通りです。
 
①専用の学校施設を所有しているか
 
②専用の学生寮を所有しているか
 
③専任の日本人有資格教師が常任しているか
 
④教育方針、教師、プログラムは会話重視型か
 
⑤候補生の与信の取り方は適切か⑥送り出し機関が法律を遵守しているかなどです。
 
 今回上記の条件をすべてクリアしているベトナムの派遣元の責任者の方を4月20日に仙台にお招きし、直接本人から話を伺う機会を持つことができました。
 
是非この機会に関心のある方は参加していただき、直接疑問点などぶつけて生の声を聞いていただければと思います。一人でも多くの方の参加をお待ちしています。
 
2018年2月26日 税理士 千葉和彦
 
 

2018年2月 1日 (木)

平成30年度税制改正の目玉‥事業承継税制

 平成30年度の税制改正の目玉は何と言っても、「事業承継税制の改正」だ。今年度4月1日以後スタートする。
 
当初経済産業省は、ドイツなどに「5年で免除」の制度があるということで、我が国も同じく事業を5年継続したら猶予税額はすべて免除することを提案していたようだ。
 
しかし実際に財務省がドイツに行って調べてみると、遊休不動産、賃貸不動産、余裕資金を除いた事業用財産にかかる分だけが免除だったことが判明したため5年で免除案は受け入れられなかったようだ。
 
 今回の改正は新たに創設されたもので、前の「事業承継税制」は、そのまま生きていることにも注意が必要だ。
 
各新聞紙上では10年間の限定で、と書かれているが、今回の改正では、5年以内(平成35年3月31日)に認定経営革新等支援機関の支援・援助のもとに「特例承継計画」を都道府県に提出することが条件であり、
 
それから5年以内に自社株の贈与の実行をすることが大前提なので、提出が5年後ぎりぎりになった場合に、そこから5年以内にということで、10年限定という書き方をしているのだ。
 
届け出はあくまでも5年以内が条件であることに注意が必要だ。
 
自社株の贈与の実行は、平成39年12月31日までが条件なので、正式には9年9ヶ月に限定された制度になる。
 
もし提出後、5年以内に代表者が自社株の贈与をせずに死亡した場合は、相続税の納税猶予として、当然この猶予制度は使えることになるので、まずは提出しておくというのも一つの対策になるだろう。
 
たとえ使わなかったとしても特に罰則はないのだから、まずは提出しておきたい。
 
仮に、提出を忘れ、代表者が死亡した場合でも前の「事業承継税制」は使えるので決して諦めてはいけない。
 
ただしその場合の納税猶予は80%しかできず、しかも80%の雇用継続要件からも逃げることはできない。
 
 今まで、この制度が活用されなかった一番の理由は、80%の雇用継続要件だ。
 
今回は、この要件も実質撤廃と言ってよい。
 
もし雇用が80%維持できなかった場合には、経営革新等支援機関を通じて、なぜ達成できなかったか等の実績報告を提出し、妥当と認められればOKということになるからだ。
 
これはOKを前提にしたものと考えられる。
 
 また出口のリスクも今回軽減されている。
 
5年経過後に株式を譲渡、合併、清算をした場合に、その時の株式の時価分の税金しかかけられず、その差額分は免除されることになった。
 
このように使い勝手が良くなった「事業承継税制」だが、今まで通り、資産管理会社には適用できないのが残念だ。
 
不動産や預貯金、有価証券の割合が70%を超えるか、又は家賃収入が売り上げの75%を超えると、その会社は資産管理会社と見られてしまう。
 
しかし、従業員を5名以上(生計を別にした親族でもOK)雇用していれば、資産管理会社と見られないので、対策の一つに加えてはいかがだろうか。
 
今回の制度は株価評価が高くなりすぎている会社に活用するものだが、以前のように退職金を支給し、株価評価を引き下げる手法や暦年贈与を活用する手法は有効なので、自社に合った方法での対応が重要と考える。
 
ただ株価が高くなりすぎて困っているところは、今回の「事業承継税制」を大いに活用してはいかがだろうか。応援しています。
 
2018年1月29日    税理士  千葉和彦

2017年8月30日 (水)

そろそろ本気で事業承継を考えないと!

  8月のオーナーズセミナーでは、良くあるケースとして下記の事例を取り上げました。

【事例】

『私の父は、製造業を営むA社のオーナー経営者です。いわゆるワンマン経営者であり、年齢は70歳になりますが、常に生涯現役を言葉にしており、事業承継のことは一切口にしません。私は、息子で専務という肩書きはあるものの、経営に関する権限は一切なく、従業員の一部は、会社の将来を心配しているという声も耳にします。

 また、同業他社の二代目同士でよく会社の株価や相続税の話題があがりますが、実際A社株の株価が今いくらで、ましてや父の相続税がいくらになるか分からない状況です。さらに父個人の土地建物がA社の本社としての事業用財産になっています。

 したがって、他の二人の兄弟との遺産分けのバランスについても悩みどころです。しかし、当然、父にもそのような話を一切口にすることはできません。』

 上記のようなケース、多いのではないでしょうか?まず私が最初に思うのは、A社の社長は、一番大事な社長業をしていないということです。

何故なら、社長というのは何はともあれ自社の将来について常に考えている人のことを言うからです。この社長は自社の5年後~10年後についてじっくり考えているように思えません。

自分の年齢と自社の将来を考えた場合、必ず後継者問題が浮かんでくるはずです。社長業で大事な仕事は、経営計画を立てることです。そうすれば、必ずその延長線上に後継者問題があるはずです。

まず、A社長は後継者を決めることが大事です。そして、自社の株価評価は勿論ですが、個人的な財産も棚卸して自身の相続税のシミュレーションをするべきです。自社株の評価が高ければ、その対策を早急に検討しなければなりません。

いくら対策を早急にしても評価が下がらない場合には、平成25年度の改正で、以前より使い勝手が良くなっている「事業承継税制」の活用を考えましょう。

また後継者は決まっているが、まだ自分が現役中は、経営権を持っていたい場合や後継者候補が複数いて後継者を決めきれない場合は、一般社団法人に持たせておくといいと思います。あるいは信託を活用する方法もあります。信託を活用しますと、株式そのものは移動させても、経営権だけ自分に残しておくことが可能です。

「自分の目の黒いうちは、経営権を持ち続け、目を光らせておきたい。」時に、威力を発揮します。また上記の事例のA社長のように、相続財産が事業用財産と自社株しかないような場合は、事業を引き継がない他の相続人に対する遺留分対策も重要です。

自社株式と事業用財産はすべて後継者が相続できるように遺言してあげ、事業を引き継がない他の相続人に対しては、後継者受取人の保険に加入したり、あるいは相続した自社株式を自社で買い取れるようにしておき、後継者が代償金として現金を支払うことができるような仕組みを作ってあげておくことが重要です。

いずれにしても、A社長は、原理原則に戻り、本来の社長業である将来像をしっかり描いていきましょう。応援しています。

2017年8月29日    著 者  税理士  千葉 和彦

2017年8月 1日 (火)

信託の活用について

   前回は「信託」を理解するコツについて書かせていただきました。今回は、その「活用」ついて説明していきます。

信託とは、一言で言えば、「信じて託す」ことでした。ここでは、登場人物が3名登場します。すなわち委託者(託す人)・受託者(託される人)・受益者(実質上の所有者に見なされる人)の3名です。信託は委託者と受託者の間で「信託契約」を結ぶと同時に効果が生じます。

  以下信託が何故有効な対策になるのか見ていきたいと思います。

1 認知症対策として有効

   65歳以上の約5人に一人が認知症になり、2025年には認知症患者数は約700万人前後に達するとのことです。

認知症になると、遺言や不動産取引、相続税対策などが一切できなくなります。もちろん銀行口座も凍結され、親を施設にいれる資金も親の口座から引き出せません。

やむなく成年後見人を立てざるを得ませんが、成年後見人は本人の財産の保護が目的なので、施設の費用を引き出すことはできますが、子や孫に金銭を贈与したり、相続対策のためアパートを建てるなどの行為は、本人の財産を減らすことになるからまず認められません。

しかし「信託」を活用するとそれらの欠点をカバーすることが可能です。

2 事業承継対策に有効

  自社株式を長男に贈与した後、長男が死亡した場合、自社株式は事業に関わっていない長男の嫁に相続されるのが通常ですが、例えば、一緒に仕事をしている次男などに引き継がせることができます。

信託の仕組みを導入することで、民法の法定相続の概念にとらわれない柔軟な承継先の指定が何世代にわたっても可能になります。

3 不動産の共有化対策として有効

  遺産の大半が一つの不動産の場合、その不動産を共同相続してしまうことは大きなリスクを伴います。

つまり、共有不動産は、共有者全員が同意・協力しないと換価処分等ができませんので、共有者間で確執があると、不動産の有効活用ができなくなる可能性があります。

そこで、その不動産を信託し、受益権を共有化します。すると、共有者としての権利・財産価値は維持しつつ、管理処分権限を受託者に集約することができ、その結果、不動産の「塩漬け」を防ぐことができます。

4 遺産受取方法の多様化として有効

  一括で受け取るのではなく、毎月の生活費として「定額給付」にすることができます。

5 相続発生時でもスムーズな財産管理法として有効

  相続発生時から遺言執行が完了するまでの、資産凍結の期間を排除できます。

6 財産隔離機能を利用したリスクヘッジとして有効

  詐害行為にならない範囲においては、委託者の債権者からの差押えを回避したり、自己破産・民事再生による清算対象の財産から除外が可能になります。

「信託」そのものは直接「節税対策」にならないかも知れませんが、相続対策として重要な「遺産争いの防止対策」として大きな成果を生み出すことができます。

是非皆様も活用を検討されてみてはいかがでしょうか。応援しています。

2017年7月28日 著 者 税理士  千葉 和彦

2017年7月 6日 (木)

「信託」を理解するコツは?

   今回は、前回の約束に従い、「信託」について話を進めていきます。

巷では「信託」という言葉が大分聞かれるようになりましたが、まだまだ一般的ではないようです。それは「信託」が何となくわかりにくく感じられるからです。

信託を一言で言えば・・・「信じて託す」・・ことにつきます。そう考えれば簡単なことですが、登場人物が二人ではなく三人なので、話をややこしくしているようです。

さて、その登場人物は、委託者、受託者、受益者の三人ですが、この三者の関係をしっかり理解することが信託を理解するコツです。

まず例えば委託者が自分の財産の管理を受託者にまかせます。財産は受託者の名義に変わります(ここが最初の理解の難関です。)名義は変わりますが、それは受託者がその財産を管理、処分しやすいように名義が変わるだけで、真の所有者ではありません。

それでは真の所有者は委託者のままかというと、決してそうではなく、受益者が真の所有者になります。(ここが一番わかりにくいところですね。)

例えば委託者である父が自分のアパートを同族の法人を受託者として信託し、受益者を長男にしたとします。

アパートの名義は受託者になった同族法人になりますが、真の所有者は受益者の長男です。当然信託後のアパートの家賃は長男のものになるので、長男は毎年の家賃を自分の不動産所得して確定申告します。

しかし、これで「めでたし、めでたし」ということにはなりません。真の所有者が長男であるならば、信託した時点で委託者である父からアパートが贈与されたことになるので、のんびりと不動産所得の申告を済ませ、やれやれとしているところに、多額の贈与税が押し寄せてきます。

このように、真の所有者=受益者を誰にするかで、時には思わぬ税金が発生することがあります。

そうならないようにするには、委託者である父をそのまま受益者にしておきます。そうすると、委託者と受益者は同じ人物ですから、贈与税の問題もなくなり、不動産所得の申告も今まで通りです。

では、信託する前と何も変わらないではないか?という疑問が生じます。確かに税務上は特に大きく変わることはありませんが、(他の不動産所得と損益の通算ができないくらいです。)大きく変わる点があります。

それは、委託者である父親が認知症になったり、脳梗塞で倒れたりした場合です。認知症や脳梗塞で病状に伏し、意思表示ができなくなった瞬間から父親の財産は凍結され、銀行預金の解約も不動産や株式の贈与や売買などが一切できなくなります。これは大きなリスクです。何故なら父親の入院費用や手術費用さえも父親の口座からは引き出せなくなるからです。

このようなリスクに対処できるのが「信託」です。この「信託」をしていると受託者の判断で預金の引き出しだけでなく、必要であればアパートの修繕、売却などもでき、急な事態に慌てることもありません。

しかも信託契約は万が一の場合の次の受益者も指定しておくことができるため、遺言の代用を兼ねることもできます。遺言は敷居が高くてなかなか書けなかった人でも信託契約だと意外と抵抗が少なく簡単にできたりするケースも多いようです。

このように活用の仕方では大きな成果を生むことのできるのが「信託」だということを是非皆さんにも理解していただけましたら幸いです。

2017年6月30日(金) 著 者  千葉 和彦

2017年6月 1日 (木)

65歳以上5人に1人が・・・!

    認知症は高齢になればなるほど、発症する危険が高まります。また、認知症は特別な人に起こる特別な出来事ではなく、歳をとれば誰にでも起こりうる身近な症状です。

厚労省の予測によると65歳以上の約5人に1人が認知症になり、団塊の世代が75歳以上になる2025年には、認知症患者数は約700万人前後に達するとのことです。

  認知症になると、まず困るのが遺言や不動産取引、相続税対策などがいっさいできなくなることです。平成18年、この認知症が争点となり、横浜地裁で「遺言無効」の判決がくだされました。しかも、無効の判決を受けた遺言は公正証書遺言でした。

話は7年前に遡ります。平成11年、80歳のAさんが遺言を作りたいと信託銀行に電話しました。銀行員は自宅を訪問し、多くの不動産について、相続人4人にどう配分したいかを聞き取り、メモにして公証人に遺言作成を依頼しました。出来上がった遺言書を公証人が読み上げ、本人が自署して、実印を押したとあります。

その後、相続が発生し、この遺言での取得財産が少なかった相続人から「遺言無効」の訴えがなされ、裁判所はこの遺言を無効にする判決を下します。

 判決では遺言作成2年前から本人の認知症が進行しており、すでに自分の年齢も、年月日も、自分の子供の数も分からず、嫁と孫の区別がつかなかったとあります。

これらの状況に照らせば、多数の不動産を4人の子に区別して分けて、遺言執行人についても項目ごとに区分して2名に分け、そのうち1人の執行人である信託銀行の報酬を決めることなど出来ないはず。よって遺言能力はなかったので「遺言無効」という判決でした。

遺言を依頼した親族側からすれば、信託銀行と公証人が受託するなら多少の認知症でも大丈夫だろう、と思ったのでしょう。しかし、認知症が進んでからでは、遺言は遅かったのです。

  相続が発生すると、銀行の口座が凍結されてしまうことは良く知られていますが、認知症になっても口座が凍結されてしまうことは案外知られていません。親が認知症になり、施設に入ることになっても、その資金を親の口座から子供が引き出すこともできません。

また、施設に入る資金がないので、その資金を捻出するために、親の住んでいた住居を売却して資金にしようと思っても当然一切できません。預貯金を動かすには成年後見人を立てざるを得なくなります。

しかし成年後見人は本人の財産の保護が仕事ですから、施設の費用等は引き出すことができますが、子や孫に金銭を贈与したり、相続対策のためにアパートを建てるなどの行為はまず認められません。それは本人の財産を減らすことになるからです。従って、遺言や相続対策は、認知症になる前にしっかり行っておくことが重要になります。

   『相続対策中に認知症になってしまうリスクに対処する方法はありませんか?』とよく聞かれます。その場合には、初めて耳にする方には、わかりにくいかもしれませんが「信託」という方法があります。

しかし、この「信託」も本人が認知症になってしまってからでは、不可能です。何故なら「信託」は「信託契約」という契約だからです。

次回は「信託」についてわかりやすく事例を踏まえてお話していきたいと思います。

2019年5月30日(火)   著 者   税理士   千葉  和彦

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