経営戦略

2020年7月 2日 (木)

新型コロナ後を見据えて、今こそ社員教育に取り組もう!

 先日お会いした社長が言うには、最近急に、会社への入社希望者が増えだしたとのこと。それで面接日を決め、どこから応募してきたかを聞くと東京からという人が多いので、少し後ずさりしてしまうと言っていた。

 私は、その社長の話を聞いてコロナ後の人の流れが「大都市から地方へ」という流れが始まっているのかもしれないと感じた。「地方から大都市へ」という人の流れは、過去の常識となり、今後は、地方への流れが強くなってくるのではないかと。今やITの進化は日進月歩で、ITツールを活用すれば、どこでも仕事もこなせるし、生活コストが安く、3密を避けられる地方への流れが容易に予想される。先日、内閣府で発表された調査では、テレワーク経験者のうち、4人に1人が地方移住への関心を高めているという。

 そう考えると、地方企業の人材確保に明るい兆しが見えそうだが、決してそのようなことはない。その理由は、第一に日本の人口減少傾向だ。また第二に外国人人材の減少である。近年、海外実習生などの外国人が、地方の中小企業の重要な働き手になってきていることは否めない。


 政府も20194月から特定14業種での特定技能資格の創設などで積極的に外国人受け入れに力を入れてきたが、今回のコロナ禍で見直される可能性が高い。地元の中小企業は、相変わらず人材不足に悩まされることは変わらない。そこで、やはり今やるべきことは社員教育だと私は思う。今いる人材の能力を最大限引き出しているか、会社にとって生産性をもたらす仕事の与え方になっているかを再考する絶好の機会ではないかと考える。

 人材教育には、社員個々のスキルアップ、能力アップは当然重要だが、より重要なことは、組織能力の向上である。組織能力を向上させるためには、社員全員のベクトルを同じ方向に向かわせなければならない。社員が不安になっているときこそ、会社がなにを目指しているのか、どこに向かっているのかを社長が先頭に立って指し示すことが大事だ。

 そこで重要になってくるのは、会社の「経営理念」で、その理念が社員の一人一人に浸透していなければならない。具体的には毎朝朝礼で唱和をしたり、ミーティング時にも開始前に唱和していくなど、社員一人一人が「経営理念」に触れる機会を増やすことが必要だ。どんな立派な「経営理念」でも社員に浸透していなければ、「絵に描いた餅」だからだ。個々のスキルアップや能力アップを目指す社員教育は、ただやみくもに行うのではなく、この「経営理念」に沿って戦略的に取り組まなければならない。

 反復するが、今この時期こそ社員教育の時期だということを再認識して経営に取り組んでもらいたいと思う。

2020年5月26日 (火)

電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも社長の責任である。

   今回の新型コロナウイルス騒動はなかなか落ち着きそうもない。直接大打撃を受けている観光関連の産業や飲食店などは、かつてない業績の落ち込みで今後に不安を増大させている。この業績の落ち込みは、遅かれ早かれほとんどの業種に及んでくるだろう。何故なら、すべての業種は、何らかの形でつながっているからだ。どの業界にとっても対岸の火事ではない。コロナ禍は、過去に類を見ない経済への打撃を与えているのだ。

 そのような中、同じ飲食業でも「もうだめだ。」とあきらめている社長もいればユニークな手作り弁当販売に切り替えて売り上げをあげている社長もいる。またコロナが収まった時のことを考えて、飲食券やボトルを割引前売り販売して売り上げを確保している社長もいる。

   30年余り税理士をしてきた私の経験則だが、逆境に強い社長は、本能的にとも言えるくらい前に進もうとする。しかし、それはやみくもにではなく、環境の変化にどう対応したらよいか、どうすれば必要とされる企業でいられるかを必死に考えるのだ。このような時こそあらゆる知恵を総動員して、実行に移していくことが大事なのは言うまでもない。

   その時に先頭に立つのは当然トップの社長だ。社長が弱気になったり、あきらめているところは、業績も低下するだけで、そのような会社に縁あって勤めた社員も、悲劇としか言いようがない。逆境の時こそトップの社長の心意気が問われる。辛いかもしれないが、それが社長の宿命だ。

   かつての名経営コンサルタントの一倉定先生は、その著書で「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも社長の責任である。」と言い放ち、「社長が知らないうちに起こったことでもすべて社長の責任なのだ。何がどうなっていようと、結果に対する責任はすべて社長が取らなければならないのだ。人の上に立つものは、部下が何をしようとそれはすべて自分の責任である。という態度がなければ、本当の意味で人を使うことはできないのである。部下の信頼を得ることができないからである。」と話している。中小企業の業績は、99%社長で決まると言われているが、今回ほど社長のリーダーシップが問われるときはないのではないかと考える。

   では、何をまずすべきかと問われれば、それは、何と言っても資金確保が最優先である。それもできるだけ低利で長期間の据え置きを前提に借りることが大事だ。まずは一番取引のある金融機関に相談して見ることが先決だ。中には借りたものは返さなくてはならないからと話す方もいるが、まずは借りて手元に置き、使わなかったら後日返せばよいだけである。その間の利息は保険料と思えば安いものだ。まずは、いろいろな制度を活用して、資金確保しておき、この時期を生き延びることが、社長、従業員いずれにおいても最大課題であるからだ。

 辛いことだが、どのような時でも社長は、業績の結果を外部環境や従業員のせいにしてはならない。すべては社長の責任であるということを肝に銘じて、覚悟を決めて、笑顔で取れる対策を着実に実行していかなければならない。同じ社長として応援しています。

 

2019年4月 4日 (木)

生保業界に激震・・全損保険の販売停止

  2019年2月14日「全損型保険、販売停止!」の報道が各紙に取り上げられた。

 

ここ数年、節税だけが前面に押し出された「全損型保険」の大量販売を国税、金融庁が問題視し、各生保会社に税務通達の見直しを通知、生保各社が即時に販売を停止したのである。

 

生保のプロ代理店の方の中には、涙目で今後何を売っていったら良いのかと途方に暮れている方もいる。それほど今回、各保険会社が販売停止をした全損タイプの保険いわゆる「節税保険」というものが、多くの中小企業の経営者の支持を受け販売されてきたのだ。

   経営はリスクに囲まれており、いつ何が起こるかわからない。そのため、その防衛策の一つとして保険ほど心強いものはないというのが正直な感想だ。

 

自分の会社の借入金や固定費などを踏まえ、会社を取り巻くリスクに備えた必要保障額を計算し、保険に入っておけば、企業本来の目的である「存続と発展」を実現することができる。経営者の死亡や自然災害がすぐに会社の倒産につながらないようにしておくことこそが、社員や家族をかかえている会社にとっては必須であり、これが本来、企業保険が「企業防衛」と言われる所以でもある。

 

しかも、同時に節税もできるとなれば、保険の魅力は大きい。「節税、貯蓄、保障」を備えた商品は、周りを見渡す限り保険以外になかなか見当たらない。今回は、その「節税」面だけを強調した販売方法に国税、金融庁のメスが入ったのであるが、再度、保険本来の「保障」機能を見直し、企業を取り巻く将来のリスクに備えるという保険機能の原点に立ち返り、自社の必要保障額等を見直す良い機会ではないかと考える。


  そこで、生命保険ではないが、国が運営する「中小企業倒産防止共済」(経営セーフティ共済)の活用も見直してはいかがだろうか?名前の通り、取引先が倒産した場合には、掛金の10倍まで融資が受けられ、連鎖倒産を避けるためのものであるが、その掛金は、掛け捨てではなく積立で、解約するとほとんど戻ってくる。

 

その掛け金は、月額5000円から20万円までの範囲で自由に選択でき、年払い(前納)することもできる。掛金総額が800万円まで積み立てることができる。このセーフティ共済の掛け金は、前に述べたように、積立なので、本来、税務上は損金(必要経費)にはならない。しかし、国はこのセーフティ共済への加入促進のため掛金の全額損金を認めている。生保ほどの全損のインパクトはないが、これらの活用も再度見直してはいかがだろうか。

 

  今回、急な通達改正が予定されているが、今までも何度か経験してきたことだ。ここは、慌てふためかず、冷静に、成り行きを見守りながら、企業の本来の企業防衛としての保険の原点に立ち返り、自社の必要保障額をしっかり見直していこうではありませんか。


 保険は、企業防衛のほかにも相続税の納税資金準備や遺留分対策としても有効(もちろん法定相続人1人につき500万円の非課税枠があるのは従来通りである。)であり、活用のメリットは大きいので、継続して保険の活用をすべきだと思う。応援しています。

2019年4月1日   著 者  税理士  千葉 和彦

2019年2月 5日 (火)

会社設立から15年で上場!

  昨年から一般社団法人日本中小企業経営支援専門家協会(略してJPBM以後この名称を使用する。)という長い名称の団体の理事に就任した。

 

このJPBMの前身は、1986年に事業承継問題に関心を持つ税理士が集結して設立された「日本事業承継コンサルタント協会」である。当時私は開業したばかりだったが、すぐに会員になった。同じ時期に入会した先生が2人いるが、今でも懇意にさせていただいている。

 

その後2009年に会員を税理士に限らず9士業が参加する形でJPBMが誕生した。従って私の入会歴は30年以上に及ぶことになる。

 

今でもよく思い出されることがある。

 

当時の入会の条件は、相続のシミュレーションのソフトとハードを購入しなければならなかった。当時コンピューターは高価なもので、相続のシミュレーションソフトもかなり画期的なものだったが、その価格がなんと1000万円を超えるもので、開業間もない私は、資金繰りに四苦八苦した思い出がある。

 

今思えばその仕組みを仕掛けたのは、のちに登場する分林会長だったと思う。



  事業承継コンサルタント協会は、主として中小企業の相続問題をどう解決するかが主要なテーマだったが、「後継者がいない」という問題が日本全国から浮上してきた。そこで、当時協会の常務理事をしていた分林氏(現在、会長)が、1991年に、日本M&Aセンターを立ち上げた。

 

その15年後の2006年10月には東証マザーズに上場、そして07年12月には東証1部にスピード上場を果たし現在に至っている。私の事務所のセミナー講師に分林会長をお呼びしたのは、丁度上場の前年だったと記憶している。現在では、時価総額4000億円を超える優良企業に成長している。そして今後ますます成長していくだろう。



  後継者難という外部環境の追い風は、当然だが、それだけで上場は難しい。良い人材を獲得し、その人材に力を発揮してもらえるようにする。会長が若い社員に話していることがある。それは一度でも肉体的・精神的な限界まで仕事に挑戦してみる、ということだ。そういう経験を積んでいると後々、強さとなって生きてくる。

 

それを経験したことがある人とない人では、とても大きな差ができると考えているのだ。まさに量は質へ転化するである。最初から質を求めても意外と失敗するものだ。


  分林会長は経営に絶対必要な4ヵ条があると考えている。

 

①収益性(これがなくては、企業そのものが存続できない。顧客、社員、関係者に報いることができない。)

②安定性(貸借対照表を充実させておく必要がある。M&Aセンターの自己資本比率75%である。)

③成長性(将来に向かって成長していかなくては、企業は存続する意味がないと会長は考えている)

④社会性(迷ったとき「社会に対して正しいことをしているか?」会長はドラッガーが言ったこの言葉を、会社経営者だけではなく、社員一人一人も規範とすべきと考えている。)

 

この4つが揃った企業が良い経営を行っている企業で、揃っていない企業はいずれ存続できなくなる可能性が高いと言っている。我々も経営に携わるうえで、上記のことを胸に刻み、進んでいきましょう。そうすれば、たとえ上場はできなくても、それ以上に地域から喜んでいただきながら存続できる会社になれると信じています。一緒に頑張りましょう。

 

 

 

2019年1月31日 著 者   税理士  千葉 和彦

2018年9月 4日 (火)

「経営者保証に関するガイドライン」について

「経営者保証に関するガイドライン」というものをご存知でしょうか?2013年12月に公表され、翌2014年2月に適用が開始されました。適用からすでに4年半が経過しますが、経営者の中ではまだまだ知らない方が多いというのが実態です。と言うのも、この制度が単に「個人保証が解除できる制度」と、誤った解釈で普及する懸念があったため、安易な広報ができないという難しさがあったようです。

   ガイドライン以前の経営者保証は、経営者が個人保証することにより、資金調達を円滑にする一方、思い切った事業展開を阻害する面もありました。ましてや、経営に失敗したときは、早期に事業再生等を行いたくても、更に大きな壁になってしまうものでした。

  「経営者保証に関するガイドライン」は、このような事業展開も再チャレンジも難しい経営環境を改善し、産業活性化を図るため、政府(金融庁と中小企業庁)の後押しで、中小企業団体および金融機関団体の関係者、学識経験者、専門家等の検討の成果をまとめたものです。融資の際に経営者保証を不要とするための条件を明らかにするとともに、早期に事業再生や廃業を決断した場合は経営者に一定の生活費を残し、自宅に住み続けるための可能性などを示したものになります。新規融資はもとより既存融資についても、融資条件の見直しや借り換えなどの際に考慮されることになります。内容だけ見れば、経営者サイドにとって有益なものです。しかし、このガイドラインは、何ら法的な拘束力を持つものではなく、いわば、企業・経営者と金融機関との間の「紳士協定」のようなものです。金融機関も利益を上げなくてはなりませんしリスク対策もしなければなりません。そう易々と保証ははずせません。そのため「経営者保証ガイドライン」の資格要件は下記の4条件をすべて満たす必要があります。

① 法人と経営者個人の資産経理が明確に分離されている。
② 法人と経営者の間のやりとりが、社会通念上適切な範囲を超えていない。
③ 法人のみの資産・収益力で借入返済が可能と判断し得る。
④ 適時適切に財務情報が提供されている。

上記の4条件をすべて満たすことは多くの中小企業にとって、正直なかなか難しいところです。しかし、上記の4条件を満たすことに取り組み、経営を改善していくことは、経営の健全化、経営強化につながることです。その結果「経営者保証」も外せることになります。

   余談ですが、ある顧問先の社長さんが、当社のセミナーの翌日、早速、銀行に出向き、交渉の後、見事に保証を外してもらいました。銀行の担当者からは、「誰からこの制度を聞きましたか?当行の当支店では第一号の適用になります。」と言われたそうです。その後も何社かの経営者が保証を外してもらっています。いずれの顧問先さんも上記4条件をすでに満たし、さらに経営強化に努めているところでした。この保証問題は事業承継をする場合にも非常に重要です。何故なら多額の債務の個人保証をしている先代を見て、なかなか事業承継に踏み切れない後継者も多いからです。円滑な事業承継のためにも更に事業に磨きをかけ、後継者が個人保証をしなくても良いような会社にし、次世代に引き継ぎたいものです。我々も引き続き後方支援させていただきます。

2018年8月31日(金)   著 者   税理士    千葉 和彦

2018年3月 3日 (土)

外国人技能実習生制度の活用

 「どんなに募集をかけても申し込みがない。」「やっと新人が採用できたと思ったらすぐに辞められた。」「とにかく人が取れない。」人手不足がどの業界でも深刻です。
 
最近お会いした社長さん方、運送業、建設業、介護事業、販売業・・・・。どの業種に限らず悩みは共通のようです。中には、「先生うちのトップ営業マンにこんな手紙がきているよ」と見せてくれた社長がいます。
 
その手紙の中には、その営業マン個人あてにA4の用紙びっしりと甘い言葉で転職の誘いが書かれていました。誰でも引き込まれそうな名文で、魅力ある言葉で一杯。やる気のある若い人なら誰でも心が動かされて当然と思えるものでした。
 
特に介護業界は深刻さが増してきています。このままでは団塊の世代が後期高齢者になる2030年までに30万人以上の介護士が不足し、患者さんへ十分な介護サービスが提供できないだけでなく、現在働いている職員の疲弊にもつながりかねません。
 
もちろん人手不足を補うという目的だけで今回の外国人介護実習生を採用することはできませんが、介護実習生を計画的に採用することで、事業計画も立てやすくなることは間違いありません。
 
 1993年より外国人技能実習生制度が制度化され、様々な職種で活用されてきましたが、その対象職種に、新たに介護が昨年11月より加わりました。
 
この外国人技能実習制度の趣旨は人材不足を単に補うものではなく、日本の企業が発展途上国の若者を技能実習生として受け入れ、実際の実務を通じて実践的な技術や技能・知識を学んでもらい、帰国後母国の経済発展に役立ててもらうことを目的とした公的制度です。
 
そのため宿舎を新築して積極的に受け入れを準備しているところもあれば、文化や価値観の違いを踏まえた十分な指導ができるか戸惑っているところも多いようです。
 
 この制度に対する理解不足から過去には賃金不払いや失踪事件なども数多くあり、ただ単に安い賃金で人手不足を補おうという考え方ではだめです。この制度を取り入れる際には、この制度に対し、十分な理解と準備、また子供が一人増えるくらいの覚悟を持って取り組まなければなりません。
 
 そのためにはベトナムの送り出し機関も日本側の監理団体もしっかりしたところを選択する必要があります。現在ベトナムには約240の送り出し機関がありますが、そのほとんどが弱小(数名から数十名/年間)です。信頼できる送り出し機関選定のポイントは以下の通りです。
 
①専用の学校施設を所有しているか
 
②専用の学生寮を所有しているか
 
③専任の日本人有資格教師が常任しているか
 
④教育方針、教師、プログラムは会話重視型か
 
⑤候補生の与信の取り方は適切か⑥送り出し機関が法律を遵守しているかなどです。
 
 今回上記の条件をすべてクリアしているベトナムの派遣元の責任者の方を4月20日に仙台にお招きし、直接本人から話を伺う機会を持つことができました。
 
是非この機会に関心のある方は参加していただき、直接疑問点などぶつけて生の声を聞いていただければと思います。一人でも多くの方の参加をお待ちしています。
 
2018年2月26日 税理士 千葉和彦
 
 

2017年10月31日 (火)

会社の出口戦略②

 前回のエッセイでは、会社の出口は、5つしかないことを話しました。それは、①上場②親族あるいは社員等への事業承継③M&A④自主的廃業による解散、清算⑤倒産です。

  人間に寿命があるように会社にも寿命があります。ですから、早い時期からこの出口を見据えた経営が必要なのです。その中でも①は全企業の0.1%だけが成し得る特別なケース、⑤は当然避けなければならないケースと考えると、地元中小企業の出口は②~④に絞られます。

  しかし、選択はしたくないものの⑤の倒産に追い込まれることもあり得ます。暢気に構えていると、多くの関係者に迷惑をかけるだけでなく、会社資産は勿論のこと、個人資産もすべて失い路頭に迷うことになります。信用も失墜し、家族まで失い、失意のうちに老後を送ることになるかもしれません。最悪の場合でも、こうなることだけは避けなければなりません。そのためには、社長自身の早い決断と専門家への相談が重要です。

 倒産すると、ほとんどの経営者が住み慣れた自宅まで失ってしまうケースが多いようです。専門家の多くは、自宅にこだわることは無意味と言いきる方が多いようですが、私は倒産した経営者の最後の砦としても、自宅を残すことは意義のあることと考えます。

  それは経営者の老後の心の支えになっていくものだからです。永年住み慣れた自宅と年金があればなんとかなるのです。多くの経営者は会社の債務の連帯保証人になっており、大抵の場合、社長の自宅には、会社の金融機関からの借入金の担保がついています。例えば時価3000万円の自宅に5000万円の金融機関の担保がついているのです。もし、倒産の危機を感じたら、金融機関の了解を得て、自宅を親戚や知人等に時価で購入してもらう工夫をし、自分たちは家賃を支払い住めるようにします。何年後かには、自分の子息などが買い戻すこともできるかもしれません。

  親戚等に資金がない場合は、ローンを組んでもらう方法もあります。表札も何も変わりませんから近所の方々に知られることもありません。わざわざ謄本を取って誰が所有者かなどと調べる物好きもいないからです。金融機関が、この自宅を競売にかけても落札価格は時価の70%が相場であることや長い年月がかかることを考えれば、理論的にも最大回収が使命の金融機関としては、担保をはずしてくれる可能性が高いと思います。いずれにしても、この仕組みを実行するには、日頃から金融機関、親戚と良好な関係を結んでいることが前提になることは言うまでもありません。
 

 創業して10年で80%が消えると言われている変化の激しい経済環境の中で、出口として倒産にならざるを得ない場合もあります。そんな時でも最後まで諦めず、専門家に相談するなど出来ることを冷静に進めていきましょう。そうすれば、老後も路頭に迷うことなく暮らすことができるものと確信しています。経営者の皆さん、いつでも応援しています。

  

2017年10月28日(土) 著 者  税理士 千葉 和彦

2017年10月 2日 (月)

会社の出口戦略

   私の顧問している会社が廃業することになり、先日社長と解散、精算の手続きについて打ち合わせをしました。社長は父親から家業を引き継ぐ時かなり苦労をされたようで、この事業は自分の代で終わりと決め、着々と早い時期から準備をすすめてきました。

まずは借入金を極力減らすようにし、その間に社員には退職金を支給し、独立希望の社員には仕入れノウハウを伝え、顧客も一部渡すなどして独立を支援してきました。今期中に在庫が一掃できる見通しも立ちいよいよ解散に向けて着手することになりました。

社長は「私は事業を子供に引き継ぐのは罪悪と考えています。M&Aも嫌いです。私の友人などはM&Aで自分の会社を高く売り、自分だけ悠々自適ですよ。自分がスカウトしてきた幹部社員にも一言も話さず、M&Aの契約成立後は一切かかわらないのですからね。社員は浮かばれませんよ。」私もM&Aのお手伝いをしたり、進めたりしていることから社長の言葉が心に突き刺さりました。

先日も当社の関与先さんが、M&Aをしたばかりだからです。この社長にも事前にかなりの葛藤がありました。それは、やはり社員のことです。

しかし、自分の子どもは跡を継がないことが決定しており、5年~10年後考えた場合、社員のためにもM&Aをしようと決意したのでした。社員の福利厚生が悪くなったりしないように進めたのは勿論、事前に幹部社員とも十分な打ち合わせを重ね、納得の上で進めました。そのためにも自分も5年間は代表権を持たない会長という形で残り、引き続き支援していく内容でした。

   日本の社長の平均年齢も約62歳になりました。しかし、そのうち後継者が決まったのは約3分の1だけです。残りの3分の2の企業は後継者が決まっていないのです。事業承継対策は早いほど良いと言われています。

従って、社長は現実から目をそむけず、この問題と向き合うことから始めなければなりません。会社の出口は、5つあります。①上場②親族あるいは社員等への事業承継③M&A④自主的廃業による解散、精算⑤倒産です。人間に寿命があるように会社にも寿命があります。早い時期からこの出口を見据えた経営が必要です。

   例えばM&Aをするにしても相手のあることですから、時間がどのくらいかかるかわかりません。その間に後継者が出てきたら②の方法に切り替えることも自由です。

いずれにしましても早い時期での取り組みがポイントです。①は全企業の0.1%ですから、かなり特別のケースですし⑤は当然避けなければなりません。そうしますと、結局我々中小企業の出口は②、③、④に絞られるのではないでしょうか。

私は、いずれの方法も良いと考えています。問題は、その取り組み方です。会社を取り巻く関係者(販売先、仕入先、銀行、官公庁、株主、従業員、地域社会そして自分自身・・経営者です。)にいかに迷惑をかけず、幕引きができるかです。

それには、①自分の会社の出口から決して目をそむけないこと。②一日でも早く取り組むこと。この2点に絞られるのではないでしょうか?出口を考えるきっかけは、やはり「経営計画」を立てることです。

自社の5~10年後、更に10年後~20年後の延長線上には必ず、この出口の問題があるからです。是非経営者の皆さん「経営計画」を立てることから始めましょう。応援しています。

2017年 9月29日(金) 著 者  税理士  千葉  和彦

2017年8月30日 (水)

そろそろ本気で事業承継を考えないと!

  8月のオーナーズセミナーでは、良くあるケースとして下記の事例を取り上げました。

【事例】

『私の父は、製造業を営むA社のオーナー経営者です。いわゆるワンマン経営者であり、年齢は70歳になりますが、常に生涯現役を言葉にしており、事業承継のことは一切口にしません。私は、息子で専務という肩書きはあるものの、経営に関する権限は一切なく、従業員の一部は、会社の将来を心配しているという声も耳にします。

 また、同業他社の二代目同士でよく会社の株価や相続税の話題があがりますが、実際A社株の株価が今いくらで、ましてや父の相続税がいくらになるか分からない状況です。さらに父個人の土地建物がA社の本社としての事業用財産になっています。

 したがって、他の二人の兄弟との遺産分けのバランスについても悩みどころです。しかし、当然、父にもそのような話を一切口にすることはできません。』

 上記のようなケース、多いのではないでしょうか?まず私が最初に思うのは、A社の社長は、一番大事な社長業をしていないということです。

何故なら、社長というのは何はともあれ自社の将来について常に考えている人のことを言うからです。この社長は自社の5年後~10年後についてじっくり考えているように思えません。

自分の年齢と自社の将来を考えた場合、必ず後継者問題が浮かんでくるはずです。社長業で大事な仕事は、経営計画を立てることです。そうすれば、必ずその延長線上に後継者問題があるはずです。

まず、A社長は後継者を決めることが大事です。そして、自社の株価評価は勿論ですが、個人的な財産も棚卸して自身の相続税のシミュレーションをするべきです。自社株の評価が高ければ、その対策を早急に検討しなければなりません。

いくら対策を早急にしても評価が下がらない場合には、平成25年度の改正で、以前より使い勝手が良くなっている「事業承継税制」の活用を考えましょう。

また後継者は決まっているが、まだ自分が現役中は、経営権を持っていたい場合や後継者候補が複数いて後継者を決めきれない場合は、一般社団法人に持たせておくといいと思います。あるいは信託を活用する方法もあります。信託を活用しますと、株式そのものは移動させても、経営権だけ自分に残しておくことが可能です。

「自分の目の黒いうちは、経営権を持ち続け、目を光らせておきたい。」時に、威力を発揮します。また上記の事例のA社長のように、相続財産が事業用財産と自社株しかないような場合は、事業を引き継がない他の相続人に対する遺留分対策も重要です。

自社株式と事業用財産はすべて後継者が相続できるように遺言してあげ、事業を引き継がない他の相続人に対しては、後継者受取人の保険に加入したり、あるいは相続した自社株式を自社で買い取れるようにしておき、後継者が代償金として現金を支払うことができるような仕組みを作ってあげておくことが重要です。

いずれにしても、A社長は、原理原則に戻り、本来の社長業である将来像をしっかり描いていきましょう。応援しています。

2017年8月29日    著 者  税理士  千葉 和彦

2017年8月 1日 (火)

信託の活用について

   前回は「信託」を理解するコツについて書かせていただきました。今回は、その「活用」ついて説明していきます。

信託とは、一言で言えば、「信じて託す」ことでした。ここでは、登場人物が3名登場します。すなわち委託者(託す人)・受託者(託される人)・受益者(実質上の所有者に見なされる人)の3名です。信託は委託者と受託者の間で「信託契約」を結ぶと同時に効果が生じます。

  以下信託が何故有効な対策になるのか見ていきたいと思います。

1 認知症対策として有効

   65歳以上の約5人に一人が認知症になり、2025年には認知症患者数は約700万人前後に達するとのことです。

認知症になると、遺言や不動産取引、相続税対策などが一切できなくなります。もちろん銀行口座も凍結され、親を施設にいれる資金も親の口座から引き出せません。

やむなく成年後見人を立てざるを得ませんが、成年後見人は本人の財産の保護が目的なので、施設の費用を引き出すことはできますが、子や孫に金銭を贈与したり、相続対策のためアパートを建てるなどの行為は、本人の財産を減らすことになるからまず認められません。

しかし「信託」を活用するとそれらの欠点をカバーすることが可能です。

2 事業承継対策に有効

  自社株式を長男に贈与した後、長男が死亡した場合、自社株式は事業に関わっていない長男の嫁に相続されるのが通常ですが、例えば、一緒に仕事をしている次男などに引き継がせることができます。

信託の仕組みを導入することで、民法の法定相続の概念にとらわれない柔軟な承継先の指定が何世代にわたっても可能になります。

3 不動産の共有化対策として有効

  遺産の大半が一つの不動産の場合、その不動産を共同相続してしまうことは大きなリスクを伴います。

つまり、共有不動産は、共有者全員が同意・協力しないと換価処分等ができませんので、共有者間で確執があると、不動産の有効活用ができなくなる可能性があります。

そこで、その不動産を信託し、受益権を共有化します。すると、共有者としての権利・財産価値は維持しつつ、管理処分権限を受託者に集約することができ、その結果、不動産の「塩漬け」を防ぐことができます。

4 遺産受取方法の多様化として有効

  一括で受け取るのではなく、毎月の生活費として「定額給付」にすることができます。

5 相続発生時でもスムーズな財産管理法として有効

  相続発生時から遺言執行が完了するまでの、資産凍結の期間を排除できます。

6 財産隔離機能を利用したリスクヘッジとして有効

  詐害行為にならない範囲においては、委託者の債権者からの差押えを回避したり、自己破産・民事再生による清算対象の財産から除外が可能になります。

「信託」そのものは直接「節税対策」にならないかも知れませんが、相続対策として重要な「遺産争いの防止対策」として大きな成果を生み出すことができます。

是非皆様も活用を検討されてみてはいかがでしょうか。応援しています。

2017年7月28日 著 者 税理士  千葉 和彦

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