「相続時精算課税制度」の活用
先日ある不動産セミナーに参加した時のことです。
講師が「私なんかは祖父、祖母、父親、母親から毎年110万円ずつ贈与してもらっているのですよ。
110万円までは贈与税がかからないので、その最大限の活用です・・・・・」と話された。
私は驚き、セミナー終了後、講師に「暦年贈与はもらった人の一年分の合計金額が110万円まで非課税ということで、贈与した人ごとに110万円の非課税枠があるのではないですよ。あなたの場合ですと395,000円の贈与税がかかりますよ」と注意を促しました。
広く一般に定着した制度でも大きな誤解をしている人がいるので、注意が必要です。
さて、もしそのセミナー講師が相続時精算課税を選択したとするとどうなるのでしょうか?
相続時精算課税を選択するかどうかは、もらう人が決めます。
贈与を受けた翌年申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」を税務署に提出すれば、手続きは完了です。
しかし、ここで注意しなければならないのは、この選択を一度してしまうと贈与者の死亡まで変えることはできないということです。
慎重に選択すべきであることを付け加えておきます。
では、この講師が今年(令和6年)4人から110万円ずつ贈与を受けたとしたらどうでしょうか?
相続時精算課税制度では贈与者一人ごとに2500万円ずつの非課税枠がありますので、その時点での贈与税は当然かかりません。
それでは、その4人それぞれの非課税枠2500万円をすべて使い切った後に110万円ずつ4人から贈与を受けた場合はどうでしょうか?昨年までは、2500万円を超えた部分に単純に20%の課税で、88万円(22万×4人)の税金ですが、令和6年から相続時精算課税制度にも毎年110万円の基礎控除が新設されたので、注意が必要です。
新設された相続時精算課税制度の基礎控除110万円は暦年贈与と同様に、贈与者が何人いようと受贈者一人につき、年間110万円が限度です。
上記のように4人から相続時精算課税で贈与を受けた場合は、受贈財産の割合で110万円をそれぞれ按分することになります。この場合だと贈与税の総額は66万円(16.5万円×4人)となります。
また、先日、ある人が「昔、相続時精算課税を活用して長男に2500万円まで自社株を贈与しましたので、もうこれ以上贈与すると税金がかかると思い、そのままですが・・・。」と話していた方がおりました。
今年の改正で新しくできた110万円基礎控除は以前に届け出を済ませ、すでに2500万円使い切った方にも使えます。
更に相続時精算課税制度での110万円基礎控除は、暦年贈与と違い、相続時に持ち戻す必要は一切なく、申告もいらないという画期的なものです。
贈与税を払うのが嫌なら毎年110万円の贈与を考えて見てはいかがでしょうか?
相続時精算課税制度を活用した110万円の贈与ならば、万が一7年以内に贈与者に相続があっても、その贈与の持ち戻しはありません。
大変有効な相続対策になるのではないでしょうか?