米国の銀行破綻
5月1日に米国のファースト・リパブリック銀行(総資産約32兆円)が破綻した。米国史上2番目に大きい銀行の破綻となった。米国では3月にシリコンバレー銀行、シグネチャー銀行が破綻したばかりだった。
米国は長年、低金利政策(世界中どこの先進国も同じ政策で、日本は日銀総裁が変わった今でも続けている。)を取ってきたが、昨年よりインフレを抑えるために、何回か金利の引き上げを実施してきた。金利の引き上げは、周知の通り、国債などの長期債券の時価を引き下げる。長期債券は満期まで所有すれば額面で償還が保障されているものが大半なので、低金利の時は、この債券で運用すればある程度の運用益が受け取れ、リスクも避けられるのだ。
しかし、今回のファースト・リパブリック銀行では、わずか3か月で日本円にすると約8兆円が流出したため、手持ちの現金では足りなくなり、満期保有目的の有価証券である債券を損切して売却せざる得なくなった。含み損が表に出てしまったのだ。そのため債務超過に陥り、破綻したというものだ。
混乱を避けるため米政府は預金者を100%保護することを表明し、金融不安を鎮静化させようとしている。本来米国では25万ドル(日本円で約3300万円、ちなみに日本はペイオフで1000万円が保障されている。日本で、全額保証してほしい場合は、無利息の決済口座にする必要がある。)が保障されているが、リパブリック銀行は企業や富裕層向けの銀行であるため、保障されていない預金が多く、バンクランと言われる取り付け騒ぎにもつながったのである。
米国、日本のメディアは今回の破綻はそれほど心配する必要がないものと、口をそろえて発表しているが、その言葉を鵜呑みにして楽観視して良いものだろうか?あのリーマンショックを予測した米国の経済評論家であるピーター・シフは、今回はリーマンショックよりもっとひどい金融危機の始まりに過ぎないと警告を促している。
全預金者を保護するということになれば、確かに混乱は一時収まるものの、米政府の資金にも限界があるので、インフレで貨幣価値を下げ負債を軽くしなければならないことにもなる。また心配されるのが、銀行経営者のモラルハザード、倫理観の欠如にもつながらないかということである。
そのことを考えてか米政府は今後、銀行の法規制を強め、今回のリパブリック銀行の経営陣に対しても責任逃れは許さず、経営責任を追及することにも言及している。このことは良いことだが、銀行の貸し渋りにもつながりかねないか不安になる。銀行が貸し渋れば、不動産価値も下がり、企業の活動も低迷するからだ。どちらにしても困難が待ち受けている。我々は冷静に情報を大手メディア以外からも入手しつつ、日本への影響もあることを前提に今後の情報にアンテナを高くしていきたい。