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2022年12月 2日 (金)

名義預金について

 私が開業して間もないころの失敗談です。

 80代の奥様からご主人の相続税の申告を依頼されたことがありました。亡くなったご主人は医師で内科クリニックを営まれていました。相続人は奥様と東京に住む長男の2名でした。奥様の話では、ご主人は真面目で数字にも強く、毎年、所得税の申告は税理士には頼まず、ご自分でされていたとのことでした。

 相続財産について尋ねると、同じ敷地内にある自宅とクリニックの土地と建物、そして銀行預金のみということでした。続いて、私は奥様の預金について尋ねました。名義預金の確認をしたかったからです。奥様は、看護学校卒業後、看護師として大病院に勤務し、ご主人の独立後はクリニックで看護師として昼夜問わず働いていたとのことです。今思うとチェックが甘かったと反省していますが、見させていただいた奥様名義の預金の額くらいしかないという奥様の話を信じ、問題ないと考え申告を済ませました。

 申告後2年程経過した時点で、税務調査が入りました。調査官の話だと奥様名義の定期預金が5000万円別にあるが、これはご主人の「名義預金」ではないかというのです。私は「これは困った。」と内心思いながらも、若い時、奥様は看護師をしていてそれなりの所得があったことや奥様の実家は裕福で、父親が奥様の結婚の時、多額の結婚祝い金を持たせてくれたなどの説明をしました。しかし5000万円という金額の説明には足らず、その定期預金は名義預金として修正を余儀なくされました。何よりも長年ご主人を看護師として支えてきたにも関わらず、ご主人は白色申告だったので、奥様は給与を支給されていなかったことが致命的でした。

 相続税の世界では、夫婦共に力を合わせて築いた財産でも本来は誰のものか、どういう過程で形成されたものかが問題となります。よくお金には色はないと言われますが、贈与するとか、事業をしていれば給料で支払うとか、敢えて色を付けてお金を動かす必要があるのです。このご夫妻の場合も、青色申告で奥様に専従者給与を支払っていれば調査官も5000万円全てが名義預金だと主張することはできなかったでしょう。

 これ以降、私は相続の打合せで訪問した際は、相続人の預貯金を可能な限り見させていただくようにしています。「なぜ私の通帳まで見せなくてはいけないの?」と怒られる方もおられますが、その際は名義預金について詳しく説明して納得いただくようにしています。

 また、贈与のケースでよく見かけるのが、祖父が孫たちに、110万円を贈与して孫名義の通帳と印鑑を「孫に無駄使いされないように」と祖父が自分で管理しているケースです。もらった本人が自由に使えないのでは贈与は成立しません。これは完全に「名義預金」に認定されますので注意が必要です。

 誰かがお金の流れを追えば真実がわかると話していましたが、「名義預金」も名義は誰でも真の持ち主は誰かということです。将来、誤解を生まないように日頃からしっかり現預金の管理をしていってもらいたいものですね。

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