国が抜いた「伝家の宝刀」・・最高裁も相続人側が敗訴
4月19日、各方面の注目を集める裁判の結果が出た。最高裁が3月15日「弁論」を開いたことで、よもや国側が負けるのではと取り沙汰されていたが、結論は相続人側の負けが確定した。これで2016年から始まった路線価論争は、一応の決着を見ることになった。
「伝家の宝刀」とは「いざという時以外めったに使用しない」ものの例えだが、国税では「財産評価基本通達6項」がその「伝家の宝刀」だ。財産評価基本通達の第一章総則6項には「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価格は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と短く書かれている。さすがに「伝家の宝刀」と言われるだけあって、この総則6項を適用して評価したケースは過去10年間でわずか9件だけで、すべて国側の勝訴となっている。過去あまりに露骨な節税対策に対し、この宝刀を抜いてきたようだ。今回もかなり露骨な節税対策が目に余ったのではないだろうか。
さて、今回の内容はこうである。札幌在住の甲さんは当時90歳で2008年に信託銀行に相談に行った。甲さんには問題となる不動産の他に既に7億程の資産があったので、心配になったのも無理はない。そこから信託銀行主導?の相続対策がスタートしたものと思われる。甲さんには妻、長男、長女、次男と4人の推定相続人がいたが、まずは同年に次男の子(孫)を養子縁組した。翌2009年1月に東京都内のマンション8.4億円、12月に川崎市内のマンション5.5億円を信託銀行からそれぞれ6.3億円、3.8億円借り入れし購入した。ちなみに銀行内部の稟議書は「相続対策のため」で、後に裁判では行政側の証拠として使われた。
2012年6月に94歳で甲さんは亡くなった。物件購入による約10億円の評価引き下げで他の財産も合わせて2013年3月に相続税ゼロの申告をした。財産の大半は、一代飛ばしで、養子の孫が相続した。川崎マンションは2013年3月に5.2億円で、相続申告前に売ってしまった。甲さんの元々の不動産は全て札幌だった。買ったのは東京と川崎。相続税はゼロ。相続人は、相続後すぐに川崎のマンションを売却。やり過ぎ感満載といえる。今回の場合、路線価評価額が不動産価額の4分の1だったこと、元々あった財産を含めて相続税がゼロになったこと、購入の目的があきらかに租税回避とみなされたことなど総合的に判断されたようだ。
これから不動産を活用しての相続対策をする方は下記のことに気を付けなければならない。
①相続直前の対策はできるだけ控えること。
相続人の祖父が物件を取得したのは亡くなる3年数か月前で、当時90歳という高齢だった。また相続人である孫との養子縁組も物件購入時期と近接していた。金融機関も貸し出し稟議書に「相続対策」と明記していた。
②短期の不動産売却は避ける。
相続人は相続した物件を、相続から9か月という短期間で売却し現金化している。
今回の件も、一族の将来の事業承継対策を考えた場合に、一番しっかりしている孫に今後の不動産事業は任せたいと考え、養子縁組をし、管理運営しやすいように地元札幌市内の不動産を何か所か購入し、更に発展させようと事業計画を立てていたなどのストーリー性が大事だったのではないだろうか?その結果、税金も減っていたということなら当局もここまで問題にしなかったのではと考える。