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2021年4月 2日 (金)

個人事業主が親族に事業承継する際の良い選択肢は?・・「小規模宅地の特例」の活用

   相続税を大きく減らす制度として注目してほしいのが、昔からある制度なのですが、更に平成25年の改正で大幅に適用範囲が広げられた「小規模宅地の特例」の活用です。

   小規模宅地の特例とは、亡くなった人が住んでいた土地、事業をしていた土地、貸していた土地について、一定の要件を満たす人が相続した時に、その宅地の評価額を最大で80%も減額できる特例です。この特例を使うと、その土地を相続していない他の相続人の相続税も減税されるので、他の相続人の同意も得られ易いと考えます。

   先日、ある方に相続の申告を依頼されました。亡くなられた方は高齢で、相続人は息子さん一人でした。その方と息子さんは10年くらい前までは自分たちの工場で一緒に働いていました。その後、事業主も息子さんに変わり、その後、毎年、息子さんが事業主として青色申告をしていました。また、その方はその息子さん夫婦と同居しておりました。自宅と工場の敷地、建物は父親名義でした。勿論、父親への家賃は支払っておりません。自宅も工場も立地条件が良いため評価額が高くなっており、そのままでは相続税も高くなりそうでした。しかしここで、検討の結果、小規模宅地の特例の活用が使えました。自宅の敷地の330㎡まで80%の評価減、工場の敷地400㎡まで80%の評価減を併用して活用することができ、その結果、相続税がほとんどかからなくなったのです。最初、相談に見えられた時は、かなり不安そうでしたが、概算の税額を伝えると、ホッと胸をなでおろしたようでした。

   今回の場合は、父親と同居していたこと、かつ息子さんが事業をしていたことで、特定居住用宅地等と特定事業用宅地等に該当し、この制度が使え、大成功でしたが、もし同居していなかった場合は、いずれの制度も使えなかったと考えられます。このように、評価減の大きな小規模宅地の特例が相続発生時に使えるかどうかはいくつかの条件が整っていなければなりません。しかし、逆に相続が発生する前から、準備をしておくことがこの制度を最大限に活かすコツです。

   例えば、父親との同居が難しい場合は、父生前中に長男が父所有の工場に相場の家賃を支払うことで貸付事業用宅地として200㎡まで50%評価減の特例の適用を受けられる可能性が高まります。もし家賃を支払わないでいれば更地評価になります。更にこの場合、事前対策として考えられるのは、法人成です。現在の個人事業を法人組織に変更して、長男が役員に就任し、父へ家賃を支払うことで特定同族会社事業用宅地として400㎡まで80%の評価減を受けられる可能性が高まります。このように、事前対策をすることで、評価減を受けられる可能性が広がります。

 個人の事業承継を考える場合は、個人的な見解ではありますが、個人版事業承継税制を活用するより、この「小規模宅地の特例」の制度を活用できるように相続発生前から対策をしておく方法をお勧めしたいと思います。

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