遺留分対策
遺言は、公正証書がお勧めだが、それを言っているとなかなか進まないので、私は、目の前の白紙の用紙に、その場で本人の自筆で書いてもらっている。最後に住所と名前、日付と印鑑(できるだけ実印、なければ拇印)を押してもらい、形式要件を欠如しないようにチェックする。遺言書は封をしなくても有効だが、できるだけ封をして保管してもらっている。これで法的には有効だが、実務的には、もう一押し必要だ。それは、遺言執行者を指定しておくことだ。できればその遺言執行者に遺言書を預けておくのも良いと思う。私も何通かお預かりしている。ただ私も年齢に不足はないので、早いうちに本人たちの了解を取り、私の息子に預けておこうかと考えている。
しかし、遺言があっても、「遺留分侵害額請求」(一昨年までは遺留分減殺請求があると不動産や株などは共有となり、後々の処分が大変だったが、民法の改正により遺留分侵害額請求権として金銭での請求になった。)の問題が残る。全相続人に遺留分を超える財産を残していれば問題ないが、通常はなかなか難しい。例えば会社の後継者が自社株のほとんどを相続する場合などだ。自社株評価は高く評価されることが多く、先代の相続財産の多くを占めるケースが多い。そうなると結果として事業後継者の相続割合が高く、他の相続人は遺留分以下というケースが多くなる。他の相続人は1年以内に内容証明等でこの事業承継者に遺留分を請求してくることになる。勿論請求するかどうかは相続人次第であるが・・・。
遺留分とは、相続財産の確保に関する最低限の権利をいい、兄弟以外の法定相続人(配偶者、子、父母)に必ず保障されているものだ。例えば、相続人が配偶者のみの場合、被相続人が全財産を配偶者以外の誰かに遺贈すると遺言しても、配偶者が遺留分の権利を主張すれば、遺産の2分の1は確保できることになる。このように遺言があっても揉めているほとんどがこの遺留分が原因と言える。前回書いたようにご夫婦だけの場合、兄弟には遺留分がないので、お互いに遺言をしておけば済むが、通常はそう簡単にはいかない。
どうしても、相続で揉めないためには、遺留分に配慮した遺言や事前の対策が必要になる。事前の対策の一つとして有効なのは生命保険の活用だ。前述したように、事業を引き継ぐ長男に自社株などを相続させる場合は、自社株評価が高くなっていると、他の相続人に配慮した遺言が難しいケースが多い。そのような場合には、長男受取で父親が終身の生命保険に加入しておくと良い。そうすると長男はその受け取った保険金で他の相続人に遺留分の支払いに活用できる。また保険金は受取人固有の財産なので、遺産分割の対象にも遺留分の計算の対象にもならない。さらに相続税の非課税枠も使えるというおまけつきだ。ただし、相続財産のほとんどが生命保険金などという極端な場合には、遺留分の計算に入れられることもあるから、この生命保険を活用する場合は、あくまで私見だが、財産総額に対して2割くらいが良いと思う。