「個人版事業承継税制」の活用について
2019年の税制改正で、法人版事業承継税制の後を追いかけるように10年間限定の個人版事業承継税制が導入された。この適用期間は法人より一年遅れの2019年から2028年までの10年間となる。
個人版では青色申告に係る事業(不動産賃貸業は除く)を行っていた事業者の後継者として円滑化法の認定を受けた者が、この10年間に贈与又は相続等により、特定事業用資産を取得した場合に、その青色申告に係る事業の継続等一定の要件のもと、その特定資産に係る贈与税・相続税の全額の納付が猶予される。また、後継者の死亡等、一定の事由がある場合には、納税が猶予されている贈与税・相続税の納税が免除されるというものだ。 対象者として想定されるのは、個人事業の製造業、小売業、旅館、クリニック、各士業などだ。画期的な制度と一部もてはやされてきたが、2019年度の利用実績はない。後で述べるが非常に使い勝手が悪いからのようだ。
個人版での「特定事業用資産」とは、先代事業者の事業の用に供されていた資産で、贈与又は相続等の日の属する年の前年分の青色申告書(複式簿記を活用した)の貸借対照表に計上されたものをいう。
主として①宅地(400㎡まで)②建物(床面積800㎡まで)③②以外の減価償却資産で次のもの(固定資産税の課税対象とされたもの、自動車税・軽自動車税の営業用の標準税率が適用されるもの、その他一定のもの「貨物運送用など一定の自動車、乳牛、果樹等の生物、特許権等の無形固定資産」)が対象となる。後継者は、先代事業者の事業を確実に承継するための具体的な計画を記載した「個人事業承継計画」を策定し、認定経営革新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所)の所見を記載の上、2024年3月31日までに都道府県知事に提出しその確認を受けなければならない。その後2028年12月31日までに行われた相続・贈与について承継税制の適用を受けることができる。
ここで私が問題としたいのは、その贈与を受ける時に、先代事業者である贈与者から、特定事業用資産の全ての贈与を受ける必要があるということだ。青色決算書の貸借対照表に計上されているものはすべて一度に贈与しなければならない。今回は建物だけ又は土地だけにしようとはいかないことだ。また、事業用資産の中には設備や備品など経年劣化するものもあるだろうが、もし買い替えたりする場合には、その都度届け出が必要ということだ。実務的に誰がその作業を行うのだろうかということである。おそらく何十年と続くそのような手続き面もしっかりと管理できるか、あるいは管理してくれる人がいる場合には大いに活用の余地はあると思うが、そうでない場合は、慎重に取り組まなければならないと思う。