「交換の特例」の上手な活用
「固定資産の交換の特例」というものが古くからあります。この特例は、土地や建物といった固定資産を同じ種類の固定資産と交換したときに、譲渡がなかったものとみなす(・・・)制度です。この制度には過去何度か手を焼かされたので、今回取り上げました。
かれこれ20年ほど前のことです。知り合いの社長から電話がありました。近所の方から、社長が所有している土地を売ってほしいという話があったのですが、その方が、たまたま社長の自宅の隣接地を所有している方だったのです。そこで、社長は自分の土地を売っても良いが、交換条件で、隣接地を売ってほしいと話したそうです。話はトントン拍子にまとまり、お互いに土地を売却することになりました。しかし、ただ売ると税金が大変なので、税金のかからない「交換」という方法を使いたいということでした。
交換には一定の要件がありますので、当然、私は、電話口でその社長にいくつか質問をしました。①交換する土地は不動産業の方が販売目的で持っているものでないこと。すなわち固定資産かどうかです。②交換する固定資産は土地と土地であること。③交換予定の土地は双方ともに1年以上所有していたものであること。かつ、交換のために取得したものではないこと。④交換により取得する固定資産は譲渡する固定資産と同じ用途に使用すること。宅地なら宅地として使用することです。⑤交換により取得する固定資産と譲渡する固定資産の時価の差が、高い方の価額の20%以内であること。社長の回答から、いずれの要件も満たしていたので、私は「大丈夫でしょう。ただし来年必ず申告してくださいよ。」と電話を切りました。
何か月か経過し、社長との会話を忘れかけていた時、再度、その社長から、それもかなり興奮した様子で電話がありました。「先生、税金かからないといったのに税金きたぞ。責任とれよ。」と。詳しく聞いてみると、不動産取得税の納付書が県税事務所から届いたことがわかりました。私は、自分の説明が不足していたことを大いに反省しました。それ以来、たとえ交換が成立して所得税がかからない場合でも、不動産取得税や登録免許税、印紙税などの税金と、司法書士や税理士に頼んだ時には報酬が発生する旨を必ず話しています。一般の方に取っては、税金はみな一緒と考えている方が多いからです。私の苦い体験です。
またある時、当社の関与先の社長から「交換先の相手から税金はかからないが申告は必要だと教えられたので、先生に頼もうと思って。」と交換の申告の依頼を受けました。当然この時も前述のように要件を確認していきました。すると、どうやら交換の相手は不動産業者で販売用土地と交換したことがわかりました。もうお気づきでしょうが、不動産業者の販売用土地では交換は成立しませんから、社長は譲渡所得税を納税しなければなりません。その業者さんに、私からも電話してみましたが、けんもほろろに電話を切られました。
ただ悪いことばかりではありません。この特例で先祖代々の土地が生きたこともあります。相続で複数の土地をすべて相続人5人の共有にしており、10年間荒れ野原になっていた土地を、順列組み合わせのパズルのようにこの「交換」を活用することで、土地の所有者が一人か、仲の良い者だけで所有することになり、すべて有効活用することができました。
この「交換」ですが、便利なようで、前述のすべての要件を満たす必要は勿論ですが、思わぬ落とし穴がありますから慎重に検討してください。
2018年11月30日 著 者 税理士 千葉 和彦
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