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2018年10月30日 (火)

新事業承継税制の活用について

   今回のテーマは前回の約束通り、新事業承継税制の上手な活用について考えたいと思います。まずこの制度を活用する際に考えるべきことは、自社にとって、そもそもこの納税猶予制度を選択する必要があるか否かの確認です。何故なら、この制度をわざわざ使わなくても暦年贈与や相続時精算課税を活用したほうが良い場合も多いからです。それを知るために第一にすべきことは自社の株価評価です。

   そもそもこの新制度は、株価が高くなりすぎているところに有効ですが、仮に株価が高くても、その原因を調べることで評価引き下げができる場合もあります。株価評価引き下げが可能な場合は、引き下げ後の価格で、相続時精算課税で贈与する方法も一つでしょう。しかし、あらゆることを考えても、株価が上がり過ぎて、手の打ちようがない場合はこの新制度はかなり有効です。いずれにしても、まずは自社の株価を知ることが大前提です。

   さて、新事業承継税制ですが、ご存知のようにこの制度は、納税の免除ではなく、猶予ですから、将来にわたって、諸条件の縛りはついてきます。手続きも専門家に依頼すると費用も当然かかります。(特例承継計画は認定経営革新等支援機関の資格を持つ専門家に依頼する必要があります。) 活用する際は、これらのことを総合的に考えて、慎重に臨む必要があります。またいろいろ検討した結果、この制度を活用しようとする場合も、いきなり活用するのではなくて、少しでも株価評価を引き下げてから実施すべきです。贈与者が死亡し自社株部分の猶予税額は免除になっても、贈与を受けた非上場株式等の評価額自体は、贈与時の価格で贈与者の相続財産に加算され、全体の相続税が重くなるからです。

    この制度を活用する場合には、2023年3月31日までに特例承継計画を都道府県に提出しておくことが必須です。期日までに、提出がないとこの制度の活用はできません。ただし、計画書をだして、この制度を活用しなかったとしても何の罰則もありませんので、取りあえず出しておくという選択もあります。また制度を活用するには、いつでも生前贈与ができるように諸条件を満たす準備を進めておきましょう。たとえば株式の贈与を受ける受贈者ですが、贈与を受ける日まで引き続き3年以上にわたりその会社の役員(取締役、会計参与及び監査役など)であることなどの要件があるので、早めに役員への就任をしておくことなどが必要です。

  またこの届出さえしておけば、贈与ではなく相続でいきなりこの制度を活用することもできます。しかし、その場合、遺産分割が紛糾して分割協議が調わず、後継者が5か月以内に代表者に就任、8か月以内に分割協議を添付して都道府県知事に対して認定申請書の提出ができない場合はこの制度の活用はできなくなりますので、事前に必ず遺言書を残しておくことが必須です。まずは上記のような準備をしながら、この制度の活用について検討していかれてはいかがでしょうか。目的は円滑な事業承継で自社の存続、発展が目的であることを忘れず考えていただければと思います。応援しています。

 2018年10月26日(金)著 者  税理士   千葉 和彦 

2018年10月 2日 (火)

日本の事業者の2/3が後継者不在

   年商10億円未満の事業者の約2/3が後継者不在だ。(帝国データバンク2017年発表)日本の約400万事業者のうち、年商10億円未満は97%を占めているのだから、これが、日本の中小企業の現状といっても過言ではないでしょう。この数年で数十万社の中小企業が事業承継のタイミングを間違いなく迎えることになります。

   先代が、第一にすべきことは、早急に後継者を決めることです。しかし、魅力のない会社は誰も継ぎたがりません。経常利益をしっかり出し、将来性も見込めるような企業しか誰も継ぎたがりません。後継者に次を託すためには、自分の代で、しっかりと自社の事業を磨き上げ、その中で後継者を見極め、時間をかけて引き継いでいく必要があるのです。では、後継者の見つからない企業はどうなるのでしょうか?魅力のない会社を誰も引き継ぎたがらないように、M&Aの相手もなかなか見つかりません。そうなると廃業しか方法がなくなります。昨今廃業はかなり増えてきています。しかし、簡単に廃業といいますが、社員がいれば解雇しなければなりませんし、退職金の問題もあります。取引先との事業中止の根回しも必要です。また設備など希望するような価格で売れるとは限りません。解散の場合の税金もあります。廃業するのにもエネルギーとお金がかかるのです。

   どのような道を選択するにしても早い取り組みと意思決定が重要です。後継者を決めるには、まずは、一人で悩んでいないで、親族に相談して見ましょう。思わぬ知恵がでることもあります。また会社内に有力な人材がいる時は、こちらの意向を早く伝え、後継者教育に取り組みましょう。会社に魅力があれば、早めにM&Aの専門家に相談するのも一法です。いずれの方法を取るにしても、スピードが大事です。オーナー社長の早い意思決定と覚悟、思い切りが大事なのです。高齢になっても社長を譲らない、譲りたくても譲れない・・・と様々な想いや悩みを抱えているオーナー社長も多いことでしょう。しかし、進むべき道を決めずして1日、2日と経ちすれば、5年、10年は、あっという間です。その間、自分も社員もまた年を重ねていくのです。それに、後継者を決めてからも、自社株の異動の問題、社内の組織体制の整備、後継者を補佐する人の確保、後継者への段階的な権限の委譲、承継後の経営計画の策定、経営者の個人保証への対応など・・しなければならないことが山積みです。早く後継者を確保し、次の段階に進まなければならないのです。平成30年改正の「新事業承継税制」も後継者が決まって初めて活用できるのです。次回は新事業承継税制の活用について書きたいと思います。

2018年9月25日 著 者 税理士  千葉 和彦

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