65歳以上5人に1人が・・・!
認知症は高齢になればなるほど、発症する危険が高まります。また、認知症は特別な人に起こる特別な出来事ではなく、歳をとれば誰にでも起こりうる身近な症状です。
厚労省の予測によると65歳以上の約5人に1人が認知症になり、団塊の世代が75歳以上になる2025年には、認知症患者数は約700万人前後に達するとのことです。
認知症になると、まず困るのが遺言や不動産取引、相続税対策などがいっさいできなくなることです。平成18年、この認知症が争点となり、横浜地裁で「遺言無効」の判決がくだされました。しかも、無効の判決を受けた遺言は公正証書遺言でした。
話は7年前に遡ります。平成11年、80歳のAさんが遺言を作りたいと信託銀行に電話しました。銀行員は自宅を訪問し、多くの不動産について、相続人4人にどう配分したいかを聞き取り、メモにして公証人に遺言作成を依頼しました。出来上がった遺言書を公証人が読み上げ、本人が自署して、実印を押したとあります。
その後、相続が発生し、この遺言での取得財産が少なかった相続人から「遺言無効」の訴えがなされ、裁判所はこの遺言を無効にする判決を下します。
判決では遺言作成2年前から本人の認知症が進行しており、すでに自分の年齢も、年月日も、自分の子供の数も分からず、嫁と孫の区別がつかなかったとあります。
これらの状況に照らせば、多数の不動産を4人の子に区別して分けて、遺言執行人についても項目ごとに区分して2名に分け、そのうち1人の執行人である信託銀行の報酬を決めることなど出来ないはず。よって遺言能力はなかったので「遺言無効」という判決でした。
遺言を依頼した親族側からすれば、信託銀行と公証人が受託するなら多少の認知症でも大丈夫だろう、と思ったのでしょう。しかし、認知症が進んでからでは、遺言は遅かったのです。
相続が発生すると、銀行の口座が凍結されてしまうことは良く知られていますが、認知症になっても口座が凍結されてしまうことは案外知られていません。親が認知症になり、施設に入ることになっても、その資金を親の口座から子供が引き出すこともできません。
また、施設に入る資金がないので、その資金を捻出するために、親の住んでいた住居を売却して資金にしようと思っても当然一切できません。預貯金を動かすには成年後見人を立てざるを得なくなります。
しかし成年後見人は本人の財産の保護が仕事ですから、施設の費用等は引き出すことができますが、子や孫に金銭を贈与したり、相続対策のためにアパートを建てるなどの行為はまず認められません。それは本人の財産を減らすことになるからです。従って、遺言や相続対策は、認知症になる前にしっかり行っておくことが重要になります。
『相続対策中に認知症になってしまうリスクに対処する方法はありませんか?』とよく聞かれます。その場合には、初めて耳にする方には、わかりにくいかもしれませんが「信託」という方法があります。
しかし、この「信託」も本人が認知症になってしまってからでは、不可能です。何故なら「信託」は「信託契約」という契約だからです。
次回は「信託」についてわかりやすく事例を踏まえてお話していきたいと思います。
2019年5月30日(火) 著 者 税理士 千葉 和彦
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