相続放棄
先日、下記のような質問がありました。
父が亡くなりました。預金(100万円)よりも借金(1000万円)の方が多いので相続の放棄を考えています。
しかし、父が生命保険料を負担し、被保険者となっている生命保険契約があって、長男である私が死亡保険金3000万円を受け取ることになっています。
相続を放棄するとこの保険金を受け取れなくなり不利になるので相続の放棄をしないようにと考えています。どうすれば良いでしょうか?
さて、その答えは・・・。お父様が契約者で保険料も支払っていて、ご自分にかけていた保険金を受け取るわけですから相続財産ですね。放棄したら受け取れなくなりますよ。という答えが返ってきそうですが、もちろんこれは、間違っています。契約者と被保険者が同一の場合、受け取る死亡保険金は死亡した人の財産ではなく、保険金受取人の固有の財産となります。
つまり保険金は民法上、相続財産ではないので、相続放棄をしても受け取ることができるのです。めでたし・・めでたし。しかし、この相続放棄・・思わぬ落とし穴がある場合があるのです。
かなり昔のことになりますが、30代の女性の方が乳飲み子をおんぶしながら事務所に相談にこられたことがありました。
話を聞くと、ご主人が大きな借金を残して交通事故で亡くなったとのことです。商工会さんに相談したところ「相続放棄」という方法を教えてもらい助かったと言いながらも、何故かそわそわと落ち着かない様子でした。
「何かほかにご心配事でもあるのですか?」と聞くと、言いにくそうに「急に主人を亡くし、途方にくれています。これからこの子を抱えてどう生きていけばいいのか不安でいっぱいです。主人が少し保険に加入していてくれたのですが、それだけ受け取ることは虫が良すぎるのでしょうか?」と遠慮がちに話された。「奥さん安心してください。保険は受取人固有の財産ですから相続放棄をしても受取れます。」と私が答えると、少し安心されたようでした。
その後奥様から無事相続放棄の手続きを済ませた連絡がはいり、一安心したが、後日ご主人のご両親に債権者から請求があり、ひとり息子の借金のことを死んだ後に知らされた上、それを払えと言われて大変ショックを受けられていたという。
実はご両親も同時に相続放棄をしておけば何も慌てることはなかったのです。第一順位の相続人が放棄した場合、第二順位、第三順位の相続人に相続権が移ります。このケースの場合奥様は自分たちだけ相続放棄をするのでなく、ご主人のご両親にも相続放棄をしてもらうように話しておくべきだったのです。
もちろん相続放棄の手続きは、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に行うこととされていますので、先順位の相続人が放棄したことによって、次順位の自己が相続人になったことを知った時から3か月以内に相続の放棄を行えば良いことにはなりますが、第一順位の相続人が放棄するときは第二順位の相続人に話しておくべきでしょう。
このケースは大事には到りませんでしたが、税理士になりたてのころの私の忘れられない案件の一つになりました。
2016年5月27日(金) 著 者 千葉 和彦
« 相続税なんか払えるか! | トップページ | 過大設備投資 »
「ビジネス」カテゴリの記事
- 人口減少と少子高齢化(2025.09.01)
- 外国人の日本不動産の購入(2025.06.01)
- 厳しい外部環境に企業はどう対応すべきか(2025.05.01)
- 新年おめでとうございます。今年も「事業承継対策」を大きく前進させましょう。(2025.01.01)
- 常に未来を見つめながら攻め続けることが運を呼ぶ!(2024.12.01)
「経済」カテゴリの記事
- 食料品のみの消費税減税(2025.07.01)
- 外国人の日本不動産の購入(2025.06.01)
- 2019年の日本経済を大予測!(2019.01.07)
- 老後のお金(2018.08.01)
- 信託の活用について(2017.08.01)
「経営戦略」カテゴリの記事
- 建物を相続時精算課税で贈与!(2025.03.01)
- 自社の株式の評価が高い!(2025.02.01)
- 新年おめでとうございます。今年も「事業承継対策」を大きく前進させましょう。(2025.01.01)
- 常に未来を見つめながら攻め続けることが運を呼ぶ!(2024.12.01)
- 「将軍の日」から「伴走支援」に向けて(2024.08.01)
「経営計画」カテゴリの記事
- 厳しい外部環境に企業はどう対応すべきか(2025.05.01)
- 建物を相続時精算課税で贈与!(2025.03.01)
- 自社の株式の評価が高い!(2025.02.01)
- 新年おめでとうございます。今年も「事業承継対策」を大きく前進させましょう。(2025.01.01)
- 常に未来を見つめながら攻め続けることが運を呼ぶ!(2024.12.01)
「中小企業」カテゴリの記事
- 厳しい外部環境に企業はどう対応すべきか(2025.05.01)
- 自社の株式の評価が高い!(2025.02.01)
- 新年おめでとうございます。今年も「事業承継対策」を大きく前進させましょう。(2025.01.01)
- 常に未来を見つめながら攻め続けることが運を呼ぶ!(2024.12.01)
- 「将軍の日」から「伴走支援」に向けて(2024.08.01)
「役員報酬」カテゴリの記事
- 分掌変更による役員退職金(2024.03.01)
- 信託の活用について(2017.08.01)
- 「信託」を理解するコツは?(2017.07.06)
- 追徴課税は40億円!長男名義の株を「相続財産」認定・・名義株を考える・・(2017.05.01)
- 非顧客に聞け!(2016.10.31)
「税制」カテゴリの記事
- 食料品のみの消費税減税(2025.07.01)
- 外国人の日本不動産の購入(2025.06.01)
- 「相続時精算課税制度」の活用(2024.11.01)
- 特例事業承継税制の提出期限迫る!(2023.10.02)
- いよいよ消費税アップが本格化・・企業の対応は?(2019.04.23)
「自社株・株式・配当」カテゴリの記事
- 建物を相続時精算課税で贈与!(2025.03.01)
- よくある相続対策・・落とし穴(2024.10.01)
- 持株会社を活用した事業承継対策(2023.11.01)
- 「今年が最後のチャンス・・生前贈与」(2023.08.01)
- 会社設立から15年で上場!(2019.02.05)
「金融円滑化法」カテゴリの記事
- 信託の活用について(2017.08.01)
- 非顧客に聞け!(2016.10.31)
- 長寿企業に秘訣を学ぶ(2016.10.05)
- 捨てられる銀行(2016.08.30)
- JPBM永年表彰に参加して(2016.07.29)
「相続・贈与・信託・遺言」カテゴリの記事
- 厳しい外部環境に企業はどう対応すべきか(2025.05.01)
- 究極の相続対策(2025.04.01)
- 建物を相続時精算課税で贈与!(2025.03.01)
- 自社の株式の評価が高い!(2025.02.01)
- 新年おめでとうございます。今年も「事業承継対策」を大きく前進させましょう。(2025.01.01)


コメント