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2015年3月30日 (月)

自社株式4億円を贈与税0で贈与

 どんなに評価が高くなった自社株式も贈与税0で贈与することが可能だ。と言っても「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」を活用しての話だが。すでにこの制度は平成20年に成立していた。

しかし、利用する会社はほとんどなかった。何故ならそれを実行するには制約が多すぎ、使い勝手が悪かったからだ。そのため平成25年度に改正され、いよいよ今年からその改正が適用された。

その結果、以前と異なり、実務的に使える制度になった。せっかくのこの機会だからこそ、この制度をじっくり研究して事業承継に役立てる必要がある。


 先日セミナーでこの話をしていたら、聴講されていた社長から質問があった。「当社は社員500人の会社ですが、当社でもこの制度は使えますか?」と。私が業種を聞くと、小売業ということだ。人数が多いので一瞬駄目かなと言う思いが頭をよぎったが、改めて資本金を聞くと、5000万円ということだった。

中小企業基本法では、小売業の場合、資本金は5000万円以下または従業員数50人以下が中小企業と定義しているので、この会社は中小企業となり、この制度が使えるということになる。(上場会社や資産管理会社は残念ながらこの制度は使えない。)一瞬社長の顔がほころんだかのように見えた。

後で聞くと、この会社の株式は社長一人でほとんど所有しており、優良企業のため株価評価は6億円にもなっており、小手先の対策ではどうしようもない状況のようだった。


 仮に発行済議決権株式数の3分の2にあたる自社株式4億円の贈与を後継者が受けたとすると、約2億円の贈与税が課せられる。しかし次の条件をクリアして、この制度を使えば贈与税を払わずに自社株式を後継者に贈与できることになる。

まず一番の条件は①中小企業であること。以下②5年平均8割以上の雇用を確保し続けることだ。(改正前は毎年8割以上の確保が条件だった。)③5年間は代表者であり続けること。かつ④株式を所有し続けること。⑤資産管理会社に該当しないことが条件になっている。十分に検討の余地が出てきたのではないだろうか?


 贈与する側の条件としては、①会社の代表者(だったでも可)であること。②本人と同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主だったこと。受贈者の条件としては①会社の代表者であること、②贈与を受けた後で、本人と同族関係者で、発行済議決権株式数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主であること。

しかも③贈与を受ける時点で20歳以上かつ役員就任3年以上という条件だ。今回の改正では親族以外へもこの税制が適用になった。贈与者が死亡した時点で、贈与税は免除される。

相続税は通常通りかかることになるが、発行済議決権株数の3分の2までの80%の税額の納税猶予制度を活用すれば相続税というコストを最小限に抑えた事業承継が可能になる。

この制度は資産管理会社には適用しないということで、かなりがっかりされている持株会社、不動産管理会社のオーナーの方も多いと思うが、例えば、常時使用従業員を5人以上雇用するなどの条件を満たせば資産管理会社とはみなされないなどの例外規定もあるので、すぐに諦めず、それらの条件を満たしていないか、あるいは満たすことはできないかを検討することも重要だと思う。

自社株式の評価が高くなりすぎて、途方にくれているオーナー社長は是非、今年から施行された「改正事業承継税制」の活用も選択肢の一つに入れて見てはいかがだろうか。

2015年3月29日   著 者  税理士 千葉 和彦

2015年3月 2日 (月)

高くなり過ぎた自社株対策は?その1

 事業承継対策と言えば、まず自社の株式の対策だ。甲社長は30年前に会社を興した。資本金1000万円も社長が一人で出資し、自らが先頭に立ち無我夢中で頑張ってきた。

社員数も増え会社で社屋も購入し、何とか毎期経常利益を出せるほどになった。しかし最近出る会合、会合で事業承継という言葉が聞こえてくる。

何やら周囲が騒がしいのだ。先日も友人から「お前の会社の株式は今いくらくらいしているの?」と聞かれた。「資本金1000万円だから1000万円でないの」と甲社長は答えた。すると友人は「何を言っているのだ。それは額面だろう。俺が聞いているのは評価だよ。評価。」と言う。

甲社長は「そんなの計算したこともないしわからないよ」と憮然として言った。すると友人は心配そうにこう言った。「すぐに顧問の税理士に頼んで、評価してもらえよ。会社の株式の評価は計算上額面の何倍にもなっているケースが多いようだよ。

もし10倍だったら1000万円の資本金は1億円と計算されて、それがお前の相続財産の一つになるのだぞ。」甲社長は、慌てふためき、早速顧問税理士に評価をしてもらうと何と50倍とのこと。

顧問の先生曰く「社長の会社は、社長の頑張りで過去20年以上一度も赤字を出していない優良会社です。そのため、内部留保もしっかり積み上がった結果そのくらいの評価になったのです。もし社長に万が一のことがあると億単位で相続税がかかってきますよ。」と涼しい顔。

更に顧問税理士は「社長のところは高くなりすぎていて、小手先では評価はいくらも落ちません。評価を落とせないと移動も難しいので、手が着けようがないということです。」と続けた。

甲社長は顔を真っ赤にして「先生、何故もっと早くアドバイスしてくれなかったのですか?」と声を荒げて言うと、顧問税理士は「今まで何度もアドバイスしたのに、社長は聞く耳さえ持ってくれなかったではないですか。わたしのせいにされても困りますよ」とあきれ顔で言った。

目の前の業績を上げるのに精いっぱいで確かに経理を甘く見てきたことは自分が一番知っている。あまつさえ、顧問税理士には税務申告だけきちんとしてもらえばよいと考えていた。何とか優良企業にしようと日夜を問わず、頑張ってきた報いがこれかと思うと眠れない夜が続いた。

 どうでしょうか。皆さんにも心当たりのあるお話ではありませんか。もし、甲社長のように、まだ自社株の評価をしていない社長は、すぐに顧問税理士に評価をしてもらってください。まずは自社の状態を知ることが先決です。

対策は、自社の状態を把握してからです。聞きかじりで、やみくもにやっては失敗のもとです。甲社長の顧問税理士は手の打ちようがないと、さじを投げたように言っていましたが、対策が全くないということではありません。

甲社長の顧問税理士は、口をすっぱくしてアドバイスしてきたのに聞く耳を持たなかった甲社長に少し意地悪をしたのかもしれませんね。

甲社長のように何歳からでも遅すぎるということはありません。失敗するのは諦めてしまう場合です。諦めずにいろいろな情報を取り入れ、前向きに取り組んでいけば必ず道は開けます。次回は具体的な対策をお話しします。


2015年2月18日     著者 税理士 千葉 和彦

 

 

 

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