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2014年11月 4日 (火)

民事信託契約の活用

 来年から相続税が重くなるためか相続対策でアパートを建てたいという方の相談が急に増えてきた。

 

ただ実際に相談に来られる方の大半はアパートを建てるべき本人のご子息等で、当の本人は、かなりのご高齢で名前を書くのも覚束ないということがよくある。その場合、多くは残念ながらアパートを建てることはもちろん、不動産の売却等も無理だ。

 

というのは、高齢で字が書けないとなると、判断能力も欠けている可能性が高いからだ。判断能力に問題なしという医師の診断書でもあれば別だが、大抵は業者や銀行、司法書士から拒否され、建設の契約、借入の契約、登記など一切できないだろう。

 

そこで、慌てて成年後見人を立てる方がいるが、成年後見人は本人の資産の保全が第一なので、資産を減らすようなことはできない。借り入れやアパート建設などもってのほかということになる。孫の入学金さえも本人の資産を減らすということで、払ってあげられないことが多い。

 

つまり、資産の活用などの相続対策は一切できないのだ。

 

その欠点をカバーするものがある。「民事信託」あるいは「家族信託」と言われる「信託契約」だ。しかも信託会社に頼むのではないので、コストを抑えることもできる。

 

例えば、父親が自分の不動産の管理、運用、処分を長男に信託するとしよう。この場合、税務上課税が発生しないように最初の受益者は父親のままにしておく。

 

父親の死後、受益権を長男にすれば受益権の引き継ぎになり、不動産の相続と同じ効果になる。

 

委託者が資産運用の途中で認知症になった場合でも不動産の有効活用や売却などが受託者である長男ができるので、認知症対策としても有効だ。さらに、その次の受益者を指定しておくことも可能なのが信託の強みだ。

 

 不動産の共有は相続での禁じ手だが、この信託を活用する方法がある。不動産をどうしても共有にせざるを得ない場合、あるいはすでに共有になっている場合に、共有者全員が委託者兼受益者となり、受託者をこの中の一人に任せる方法だ。

 

この受託者の意志で修繕などの管理、売却等ができるようにしておき、他の共有者はその不動産からあがる果実はいただくが、口は出さないということになる。すなわち、共有で心配される「意見の不意一致」を防御することができるのだ。

 

 信託は自社株対策にも応用できる。自社株式をたまたま評価の下がったタイミングで後継者に贈与したいが、議決権だけは自分で持っておきたいという方もいるだろう。そのような場合は自己信託という方法がある。

 

委託者である父親が自分を受託者として自社株を信託し、受益者を長男にするのだ。その時点で自社株の贈与は成立するが、議決権は受託者である父親に残ったままになる。

 

この場合委託者と受託者は同一者なので、契約当事者が一人になり、当然契約はできないので、その委託者が単独で「信託宣言」を公正証書で行い、その書面を公証人から認証を受けた時に効力が生じることになる。

 

例えば役員退職金でその期だけ赤字になり株価が下がったので、後継者に今のうちに株を贈与しておきたいが、まだ後継者は一人前でないので、一抹の不安があるなどという時に活用できる。相続は時期を選べないが、贈与は時期を選べることの活用だ。

 

 信託法が改正されて7年になるが、信託はまだまだ一般的ではない。先日税理士会でもやっと信託税制についての研修会が開催された。会場は500人ほどの税理士で熱気に溢れていたが、10年後には、この「民事信託」も当たり前のように普及しているに違いない。

 

 

 

2014年10月30日(木) 著 者  千葉 和彦

 

 

 

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