同族株主以外への自社株の譲渡・贈与は額面金額で大丈夫か?
自社株の件では、頭を痛めている社長が多い。創業以来、人の二倍も三倍も休みもなく、無我夢中で働いてきたら、いつの間にか一株1万円の株が、10万円になっていたというケースがほとんどだ。
その会社の資本金1000万円でその全部を社長一人で所有していたとするなら、何とその自社株の評価は一億円にも膨らんでいることになる。その絵に描いた餅のような数字が、社長所有の預貯金、不動産に合算されて、相続税がかかってくるのだから、後継者をはじめ残された相続人はたまったものではない。
「この国は中小企業を税金で潰そうとしているのか?」と良く聞かれるが、なんとも答えようがないのが現実だ。
平成7年に、ある有名な秤のメーカーのオーナー社長が1株100円(額面50円)で63万株を取引先のオーストラリア人に、総額6300万円で売却した。課税庁は、その譲渡人が平成6年に金融機関4行に対して、同社株式を一株につき、約800円で売却している事実を踏まえ、その株式の時価は794円であるとし、平成12年、そのオーストラリア人に対し、3億円を超える贈与税の決定処分を行った。
すなわち相続税法7条の「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を譲り受けた場合」に該当するものと認定し、課税を行ったものだ。
このオーストラリア人(以後原告という)は、この処分を不服として、東京国税局長に対し異議申し立てをしたところ棄却された。さらに原告はそのことを不服として国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、こちらからも棄却されたため、東京地方裁判所への訴訟に至った。
なお、課税庁が上告しなかったため、この裁判は一審確定に終わっている。
所得税法の通達では、個人間で売買する場合の評価について次のように定めている。
上場株式以外の場合は、次の順番で評価すべきというものだ。①売買実例のあるもの・・最近において売買の行われたもののうち適正と認められる価額。 ②発行法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人等の価額があるもの(私見では、通常そのような法人はありえないと考える。)。 ③上記①②に該当しない場合・・純資産価額等を参酌して通常取引される価額。
課税庁は①の売買実例があるとして今回の取引価額である時価は100円ではなく794円が正しいと主張している。しかし、金融機関は純然たる第三者ということができず(融資等の取引の拡大を期待している)①には該当しないことになる。
そうなると、「相続税の財産評価基本通達188」の取り扱いから「同族株主以外の株主等が取得した株式」については配当還元方式によって評価することになる。
すなわち、中小同族企業において、同族以外の株主には配当を受領する以外に直接の経済的利益を享受することが ないという実態を考慮したものである。つまり配当10%なら額面金額ということになる。
平成17年10月12日判決は、原告の全面勝訴に終わることになった。
このことで、同族株主以外の方に贈与・売買するときは、自信を持って、配当還元方式で堂々と移動させることができることを根拠づけたものと考える。自社株対策に是非活用したいものである。早い時期からの取り組みに少しでもお役にたてればと思います。
2012年2月22日(水) 千葉 和彦