公私混同の活用
よく「公私混同は経営上してはいけない。」と言われる。そのことに特に異論を唱えるものではない。ご存知のように、税務では、「公私混同」と言う言葉はタブーであり、特に同族間の取引は目の敵にされている。しかしその反面、銀行からの借り入れの際には、必ず代表者の個人保証が取られ、さらに代表者個人の住宅まで担保に取られ、万が一の時、代表者一家はすべてを失う。私に言わせれば、このことが、公私混同と言わずして、何というのだろうか?と疑問を投げかけたい。大企業の社長が、会社の借入金の個人保証をしているなどと言う話は、聞いたことがないからだ。
私の知り合いにとても優秀な若き社長がいる。人格的にも優れ、先見性にも非凡なものを持っている。彼自身、日頃から公私混同を戒めながら、当然のことながら、日曜、祭日もなく、朝早くから夜遅くまで必死で働いている。その努力の甲斐があり、前期も、この不況の中で、税引き前で約3000万円の利益を計上した。しかし彼の役員報酬はわずか月30万円だ。私がむっとしたのは、彼が、その少ない役員報酬を誇りに思っている節さえ感じられたからだ。
私は思わずそんな彼に「そんな役員報酬で会社が、いくら利益を出しても自慢できないよ。」と話してしまった。すると彼は、意外な表情をして「千葉さん。私は会社に蓄積ができる前に、自分だけたくさんの報酬をもらうことで、会社を食い物にしたくないのです。」と反論してきた。彼の考えの中には、公私混同をせずに、同族色を脱皮することが良い経営であり、それが優れた経営者であり、自分はそれを目指しているのだという自負がありありと見えた。
私は「私は、君のことが好きだし、将来、地元経済を背負っていく若き経営者として大いに期待しているが、その考えは間違っているよ。」と断言した。そして「経営者にとって一番大事な責務は何か?」と聞いた。 彼は、清々しい表情で「会社を通して社会に貢献していくことです。」と彼らしい回答をしてきた。私はさらに「ではそのような会社にするには何が大事か?」とたたみ込んで、聞いた。彼は、ちょっと考えて「強い会社を作ることです。」と答えた。私は、続けて「強い会社にするにはどうすれば良いのか?」と尋ねた。彼は、「会社で利益を出すことです。」と即答した。
私は、「会社で利益を出すだけでは、強い会社を作れないよ」と答えた。そして続けて「連帯保証の例を考えればわかるように、中小同族企業が公私を完全に区別する事はそもそも不可能なのだから、ここは、社員や税法が許す範囲で、積極的に公私混同を活用すべきだ。個人と法人を合わせての資本蓄積効率を高めていくことが、中小同族企業が強くなる方法だ。大企業の経営と一緒に考えてはいけないのだ。だから、とりあえず来期からの役員報酬を法人の税率より低い範囲で見直すことから始めた方が良いよ」とアドバイスした。
10年もかかってやっとためた内部留保でさえ、わずか2~3年で吹き飛ぶことを考えれば、当然の戦略ではないでしょうか。
9月28日(火)朝から強い雨が降り続いています。
2010年9月28日 著者 千 葉 和 彦
(千葉会計事務所:千葉経営企画㈱:千葉和彦税理士事務所)
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