2023年11月 1日 (水)

持株会社を活用した事業承継対策

持株会社は経営戦略の一つとして作られ活用されるのが本来の目的だが、昨今は事業承継対策として活用されるケースも多い。一般的なケースは、後継者が新規会社を立ち上げ、その新規会社が金融機関から融資を受け、先代の持っている株式を買い上げ、自分が承継する会社をその新設会社の子会社とするのである。そこで新設会社は持ち株会社として機能することになるのである。金融機関からの融資額はかなり多額になるケースが一般的で、その返済原資は、子会社からの配当になる。かなり業績の良い優良会社が子会社でないと成り立たないスキームでもある。しかし、その効果も大きいことは間違いない。まず先代が保有していた株式を売却することにより自社株式は相続財産からはずれるため、遺留分の対象にもならない。また、株式は売却されてしまうので、当然のことながら株価が以後、いくら上昇しようと心配はなくなる。また、ここで、先代は多額のキャッシュを手にすることになり、そのキャッシュを老後資金の確保、相続税の財源などにすることもできる。

 

 注意点としては、先代が株式を後継者の持株会社に譲渡する際に、譲渡所得税等の課税を受けるケースが多く、その税金を差し引いた手取り額は、さらに先代が使い切れなかった分に対して後継者が相続税の課税を受けることになる。また事業会社の業績悪化等により、返済に見合う配当が出せず、返済が出来なくなってしまうリスクもあることに十分留意すべきである。このスキームを活用する場合は、これらのリスクも十分に考慮しておかねばならない。

 

 そこで同じ持株会社でも借り入れをせずに、現金も使わずに、持ち株会社を作る方法がある。株式移転という方法だ。現在の事業会社の株主が、全員その新会社に株式を現物出資し、その対価として新会社の株式をもらう方法である。従って、新会社の株主もその事業会社の株主構成と同じ形になる。ただ、前の手法と違い、ここではもう一仕事必要になる。それは、先代から後継者は新会社の株を譲ってもらわなければならないのだ。しかも、後継者は、先代からその株式を譲り受けるにあたって、できるだけ株価を引き下げることが重要だ。引き下げる方法としては、いろいろ考えられると思うが、例えば、一例としてだが、その持株会社が事業会社の不動産を買い取るなどである。その時に、はじめて借入を活用することになる。不動産の場合だと3年後に相続税評価額になるから、時価と評価額の乖離でほぼ間違いなく自社株式の評価は引き下げられるのである。そして評価が下がった時点で、先代の株式を贈与等で異動させるのだ。

 

 いずれにしても、持株会社を作る場合は、注意点がいろいろあるので、事前に当事務所にご相談ください。

最近は、急に朝晩は冷え込むようになってきました。お身体ご自愛ください。

2023年10月 2日 (月)

特例事業承継税制の提出期限迫る!

 令和4年の税制改正で提出期限が1年延長され、令和6年3月31日になったのもつかの間、特例事業承継税制の届け出期限が半年後に迫りました。この特例を使うことに関しては、専門家の間でも賛否両論があるのは、周知の通りです。私もどちらかというと今まで消極派でした。できれば後世に引きずらないで対策を終えておくのが一番と考えてきました。

具体的には、自社株の評価を引き下げて、自社株の評価が下がった状態で相続時精算課税を活用し、後継者に贈与するのが一番と考えてきました。自社株の評価を引き下げるには、先代が退職するタイミングで役員退職金を支払うと、ほとんどの会社は一時的ではありますが、赤字になります。当然のことながら翌期には自社株の評価額は、下がりますので、そのタイミングで後継者に相続時精算課税で贈与します。しかし、何社かの顧問先に頼まれてシミュレーションしましたが、株価が高くなりすぎているところは、焼け石に水の状態で多額の贈与税が発生することがわかりました。(贈与額2500万円を超えた部分に、20%の贈与税がかかります。)しかも、その贈与税は後継者が払わなければならないので、後継者に大変な負担が生じます。金融機関の中には、贈与税分を後継者に融資することを前提にそのスキームの提案をしているところもあります。

 特例事業承継税制は、何度も改正が繰り返され現在の制度に至った経緯から、わかりにくいことが、多くの企業が取り組みにくくなっている原因の一つと考えられます。先日ある方が私にこの制度をラグビーのボールに例えて説明してくれました。すなわち、ボールを持ち続けている間は、納税猶予され、そのボールを落とした時に課税が生じるというものです。ボールを持ち続けるためには、まず5年間は、代表を続け、株式も持ち続けなければなりません。有名なジャニーズ事務所の後継者の方が代表を下りないのもここに理由があると思います。

この制度ですが、贈与から5年以内は多少厳しめの要件がありますが、5年経過すると比較的緩やかな要件のみになります。まず、厳しめの当初5年間でボールを落としたと認定される場合について列挙してみます。(ボールを落とすと猶予税額+利息の納付が必要です。)

① 後継者が代表者でなくなった。(事故等の已む得ない場合を除く。)

② 一族の議決権が50%以下になった。

③ 後継者が一族の中で筆頭株主でなくなった。

④ (一株でも)対象となった株式を売却した。

⑤ 本業を廃業した。(不動産賃貸業になったなど)

⑥ 毎年の報告、届け出を怠った。遅れた。

では、次に5年経過後にボールを落としたとされる場合にはどのようなものがあるでしょうか?

① 対象となった株式を売却した(売却した分のみ取り消し)

② 本業を廃業(不動産賃貸業になった場合など)

③ 3年おきの届け出を怠った。遅れた。

 また上記の理由で5年経過後にボールを落とした時には、5年間の利子税は免除されます。そのため、贈与・相続時には贈与税・相続税は払えないけど、5年経過後であれば資金繰り的にも払える目途があるのであれば、いったん事業承継税制を適用して納税を猶予しておき、5年経過後取りやめの届出書を提出すれば、本税だけの納付で済むようです。

また、5年経過後に業績が悪化し、売却や解散した場合には、売却や解散時の株価等をもとに再計算し、差額は免除されるというセーフティーネットが敷かれています。なかなか複雑な制度ではありますが、事業承継の選択肢に是非加えていただきたいと思います。応援しています。

2023年9月 1日 (金)

再度、「生前贈与」の改正について

前回に引き続き今回も「贈与」について書かせていただきます。まずは「生前贈与」の改正点について整理していきたいと思います。

 まず、最初に確認すべきは、改正の適用は令和611日以後に行われる贈与からで、令和51231日までは、従来通りということです。それで年内の駆け込み贈与を推奨するような記事が出回っているわけです。しかし、前回も書かせていただきましたが、親族間の資産移転は節税だけに目が行くと、親族間が不和になったり、親の資金が足りなくなったりと思わぬ落とし穴があったりしますので、慎重に進めてほしいと思います。これは、過去に実際にあった事例ですが、ある父親が、長男のお子さんたち(孫さんたちです。)に長年贈与をしてきました。しかし、次男には子供がいなかったため、次男の方には、贈与をしていませんでした。次男はそのことを日頃から不満に思っており、父親死亡後の遺産分割協議で、その生前贈与分も遺産総額に含めて分割することを長男に強く主張したため、長男ともめてしまったのです。このように、親族間の感情というものは存外、複雑なところもありますから、何度も言うようですが、贈与は慎重にしなければなりません。

 今回の改正では、「3年持ち戻し」が「7年持ち戻し」になりました。非常にわかりにくいのですが、完全に「7年持ち戻し」になるのは2030年(令和12年)からです。それまで順次7年に近づいていくイメージです。この持ち戻しには、基礎控除110万円以下で贈与の申告不要な場合もすべて持ち戻されることも念頭に置いておいてください。

 今回の改正では「相続時精算課税制度」にも来年から基礎控除110万円が設けられました。こちらは、基礎控除の110万円であれば申告も不要ですし、持ち戻しの対象からも外されています。単純に考えると、どうせ持ち戻しされるなら基礎控除分を持ち戻さなくて良い「相続時精算課税制度」を利用される方が増えるかもしれません。ただし注意していただきたいのは、この「相続時精算課税制度」は後戻りできない制度ということです。一度選択してしまえば、その選択をした贈与者、受贈者間の贈与はすべて「相続時精算課税制度」しか取れないということです。慎重に判断する必要があります。ただ私の経験では、過去に、土地や自社株式の贈与で、この制度を利用された方は現在になって喜ばれている方が多いように思います。それもこの10年間土地と自社株式の評価が大きく上昇しているケースが多いからです。現在の評価額にかかわらず、過去に贈与した時点の評価額で取り戻して計算される「相続時精算課税制度」は、値上がりが予測される資産を贈与する場合には有効な相続税対策になります。従来の「暦年贈与」を利用するか、「相続時精算課税制度」を利用するかは、自身の年齢、健康状態と財産をしっかりと把握しながら対策を立ててほしいと思います。

2023年8月 1日 (火)

「今年が最後のチャンス・・生前贈与」

「今年が最後のチャンス」と題して各経済誌や週刊誌が特集を組んでいます。何のことかと言うと、相続税と贈与税の税制改正のことです。相続開始前の3年以内の贈与については相続財産に加算するという現行のルールは、1958年の税制改正で定められたものですが、実に65年ぶりにこのルールが改正されます。適用は202411日以降の贈与分からなので、巷では今年中に駆け込み贈与をした方が良いと言っているのです。しかし、親族間の資産移転は、節税だけに目が行くと、親子間が不和になったり、親の資金が足りなくなったりと思わぬ落とし穴があります。自身の財産を把握し、また今回の改正を理解して、慎重に進めてほしいと思います。

 23年度相続・贈与に関する税制改正のポイントは下記の4点です。

① 相続財産に加算する生前贈与を今年までの相続では3年前の分まで加算すれば良かったのですが、来年度からの贈与については、亡くなる「7年」前以内の贈与が相続財産に加算されるようになります。ただ相続4年~7年前の贈与につきましては計100万円の控除も設けられました。

② 前回のエッセイでも取り上げましたが、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が新設されました。

③ 孫・子供の配偶者への生前贈与は、従来通り加算されません。これは今後の相続税対策でも従来通り使えることになります。

④ 教育資金贈与は263月まで、結婚・子育て資金贈与は253月まで使えます。

 生前贈与は確かに相続税の節税対策には効果が大きいですが、自分は節約をしながら、ほしいものも我慢し、質素に暮らしながらお子さんや孫さんに贈与されている方を見ると何か違うなと感じます。親子だから、一族だから当然という思いもあるのでしょうが、もらった方も、もらった時はうれしいと思いますが、すぐに忘れるのが常ということです。多額の贈与を受けてきた人から感謝の言葉をあまり聞いたことがありません。東南アジアのタイ国などでは、「もらってあげる」ということで、その上げる人に徳を積ませているのだという考え方なようです。これから贈与する方は、タイ国のように、徳を積ませてもらっている、もらって頂いて、ありがとうという感覚でないとならないかもしれませんね。それが嫌な方はむやみに贈与などすべきではないでしょう。まずは自分の楽しみに、そして老後のために残しておいてください。老後いくらお金がかかるかわかりませんからね。

私が最優先で贈与を考えなければならないと思うのは、「自社株」です。事業を引き継いでくれる後継者には、一日も早く自社株を贈与していくべきでしょう。自社株だけは後継者になかなか譲らず、現金は子供や孫にどんどん贈与していっては本末転倒と言うものです。そう言うと、「俺だって早く贈与したいよ。しかし贈与したくても自社株の評価が高すぎて踏み切れない。」と頭を悩ます方も多いようです。あまり株価評価が高すぎる場合は、まずは「納税猶予」の届け出をしておくべきでしょう。この届け出こそ1年延長されたものの来年3月で締め切りですからね。会社には後継者だけでなく、社員、取引先など多くの方の生活がかかっていますので、まずはこちらを急ぐべきだと思います。

2023年7月 6日 (木)

当行は、・・原則として経営者保証はいただきません!

 上記の文言が、某銀行をはじめ、その他何行かのホームページに堂々と書かれ始めました。今回はこの経営者保証について皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

 経営者保証は中小企業が金融機関からお金を借りる際に、当然の習慣として昔から行われてきました。平成26年2月に「経営者保証ガイドライン」が全国銀行協会と日本商工会議所から出されました。若干の変化は見られたものの、新規融資が実行された場合に、現在でも民間の金融機関で70%、政府系金融機関で50%の経営者が個人保証を求められています。


 金融機関の立場からすると中小企業に融資する場合に、家族経営で経営も家計も一緒で公私混同がなされ、財務内容も明確でなく、詳細に財務内容も知りえない場合は、公私一体とみて経営者保証を取らざるを得なかった面があります。


 しかし、中小企業でも公私混同をせず、財務基盤も強固で、適切な情報を金融機関に開示している企業にとっては、たまったものではありません。その個人保証のために、思い切った事業展開もできませんし、事業承継の際に後継者がしり込みをし、承継が暗礁に乗り上げるケースもでてきました。そこで個人保証をできるだけとらないようにということで、上記の「ガイドライン」がしめされたのでした。ただし、この「ガイドライン」は中小企業、経営者、金融機関共通の自主的ルールで、特に「縛り」があるものではありませんでした。保証を取るか取らないかを決めるのはあくまでも金融機関でした。


 それに対し、令和5年4月からの「経営者保証改革プログラム」は、金融機関への「縛り」を強化するために金融庁が経済産業省、財務省との連携の下に策定されたものです。内容は金融機関が経営者保証を求める場合に下記の説明をしなければならないとするものです。①どの部分が十分でないために保証契約が必要になるのか個別具体的にその内容について説明する。②どのような改善を図れば保証契約の変更、解除の可能性が高まるか、個別具体的にその内容について説明する。しかもただ説明するだけではなく、保証人に説明した旨を確認し、その経緯等を書面、又は電磁的方法で記録し金融庁に報告することが義務付けられました。しかも不十分な説明の時は保証人が相談できるホットラインも設けられました。これによって金融機関は経営者保証を取るハードルがかなり高くなったと言えます。


 中小企業が個人保証を取られないように、または外してもらうために何をすべきかと言うと、次の3点です。①公私混同をなくす。すなわち法人と役員との間で貸し借りをしない。②2期連続経常赤字にしない。また直近決算を債務超過にしない。③取引金融機関に毎月B/S、P/Lを提出し、財務内容を説明しておく。以上これらのことを心がけて経営していれば新規に融資を受ける場合でも過去の融資の保証人をはずしてもらう交渉でも円満に進むことが考えられます。皆様のご検討をお祈り申しあげます。


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